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第3章 サマー!!!
6 い草の匂いと、ふかふかの羽毛布団が心地よくて、
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い草の匂いと、ふかふかの羽毛布団が心地よくて、次の日の朝は中々起きられなかった。普段無理矢理起こしにかかってくる幼馴染の姿がないというのも大きい。戻ったら、雫に文句を言っておこう。
がさごそと誰かが身支度をする音が耳に入って、漸く俺の意識は浮上した。ぱちぱち、何度か瞬きを繰り返して、はっとする。寝惚け眼に映るのは、バスローブを身に纏い、赤茶色の長い髪を一纏まりにして上げている後ろ姿。ごくり、思わず喉を鳴らす。あれ、ここって、男女兼用だったっけ……。
「遅いぞ、鈴宮」
ああ、これが噂の、見返り美人。
振り返りながら掛けられた声は紛れもない副会長のもので、靄掛かっていた頭の中がすーっとする。一瞬でも超絶美女に思ってしまったなんて、もしかしたら、俺の方こそ欲求不満かもしんない……。
「おはようございますー……」
もそもそ、布団から抜け出ると、部屋の様子がよく見えた。既に着替えを済ませて、黙々と布団を畳む平良くん。着崩れた浴衣姿で、優雅に朝のお茶を楽しんでいる双子。バスローブ姿の副会長に耳元で囁かれてあわあわしている、浴衣姿の剣菱くん。んん、平和だなあ。
大きく伸びをしたところで、会長の姿がないことに気付くと同時に、ほっとした。どうやって顔を合わせていいかわかんない部分は確かにあって、そう考えると同時に昨日の情景が頭に浮かんでくる。ああ、だめだだめだ。朝からそんなことを考えちゃ。
「どうぞ……」
俺がぐるぐるし始めると、す、と何かを差し出されて顔を上げる。すっかり普段通り、目を醒ましている平良くんが、湯のみをくれた。受け止めるとひんやり冷たくて、中には冷えたお茶が煎れられている。
「ありがとー」
「いえ……。よく、眠れましたか」
「ん? ……なに、心配してくれてんの」
「ぼんやりしているようなの、で、!」
「わはは、相変わらずかわいーねー平良くん!」
珍しくぼそぼそと話しかけてくる平良くんの、太い眉が垂れ下がっている。明らかに心配げな様子は、昨夜、思う存分もふもふした、会長宅のホクトくんにそっくりだ。俺より似てる子、ここにいるよ。思わず手を伸ばして、わしゃわしゃと黒い短髪を撫でて、乱してやる。
「す、鈴宮さ、」
「ありがと平良くん、元気出た」
「よかった……、です」
控え目に、だけど確かに照れたように笑う平良くんがやっぱりかわいい。身体はでかくても、そういうところは後輩だ。もう一回髪を撫でて乱した部分を整えて、手を離した。
障子が開けられた窓からは朝の眩しい日差しが差し込んでくる。
今日も、暑くなりそうだ。
名だたる旅館の朝食はやっぱり美味かった。バイキング形式で、ついつい全種類制覇しようとしたら、会長に「無理だろ」と止められて、泣く泣く洋食コースにした。他の面々は、慣れているのかがっついた様子もなく、それぞれのペースで食べている。どうせ庶民ですよ、ええ。温かいふわふわのパンはそれだけで美味しくて、新鮮な野菜を使ったサラダや、スープによく合った。こういうところで飲む牛乳は、不思議と二割増しで美味い。剣菱くんにあーんしてもらおうとして鼻血を垂らしている副会長(朝から元気にしあわせそうだ)を横目に、俺も俺で、しあわせな時間を過ごした。
朝食を食べた後は、山に出る。ちょうど近くに川があり、ラフティングができるのだと教えてもらった。川の傍まで木内さんに送ってもらい、準備をした。
意外にも、平良くんと剣菱くん、そして俺だけが未経験者で、あとの面々は経験があるということだった。特に会長は地元なだけあって、この時期は毎年のように行っているらしい。一通りのレクチャーを受けて、いよいよボートに乗り込む。
――このあとのことは、割愛しよう。
乗り込むときに誰かしらが落っこちて、なかなか出発できなかったり、意外や意外副会長がリードしてくれたり、双子が相変わらずマイペースに格好つけていたり、平良くんが才能を発揮したり、剣菱くんが頑張っていたり、会長が見せてくれた一人乗りボートでのリフティングがまじで神掛かった格好よさだったり、まあ、色々あったけど、俺個人の感想としては、もう二度とやりたくない、その一言に尽きる。……川、まじでこえーっす。自然界、パネェ。
昼食後、街に下りるという剣菱くんたちを見送って、俺は一人のんびり温泉へと向かった。ラフティングで体力を削られてしまい、遊び歩く元気がない。会長も、用事があるとかで旅館に残っている。
昼過ぎという時間帯だからか、温泉は空いていた。おじいちゃんたちがぽつりぽつりといるだけで、十分寛げる空間だ。身体と髪を洗って、湯船に浸かる。窓の近くまで移動して、大きな窓の向こうに映る、山々を見つめる。石造りの縁に手を掛けて、そこに顎を乗せると、肩まで湯に浸かって気持ちが良い。
「はー……」
間の抜けた声が反響した。
アレもコレもソレも、どれも忘れて、身体も頭も空っぽになったような心地良さが広がってくる。
俺は暫く、癒しの空間を味わった。
ほかほか状態で、風呂を出る。旅館の名前が印刷されたタオルを首から掛け、タンクトップの上に半袖のシャツを羽織り、ジーンズにサンダルという格好で、部屋に戻ろうと旅館を歩いていた。ロビーを通り掛かり、そういえばお土産も見ないとな、と、考えていたら、ふと、視線を感じた。目を上げると、そこには、きらきらと輝く、女の子の姿。
大学生くらいの二人組で、一人は長い茶髪、もう一人は、黒髪ボブ。どちらもスタイルがよくて、ミニスカートとホットパンツで、美しい生足を晒している。あ、目が合った。とりあえず笑い掛けてみると、二人は顔を見合わせた後に、笑顔を返してくる。よしよし、これは、いー感じ。
「旅行?」
「そうですー」
「どこから来たのー?」
「東京から。キミは一人旅?」
「いやー一人じゃないんだけどお。のんびりしてて、いーとこだよねえ」
なんて、会話を交わす。ロングの子はほんわか系、ボブの子はサバサバ系と見た。ボブの子が着たキツめの黒いタンクトップから覗く谷間がまぶしい。ああ、久しぶりの、女の子。
「キミたちはふたり? 女の子だけで来たの?」
勿体ないなァ、なんて言って目を細めると、女の子たちからきゃらきゃらとした笑い声が零れる。
「ねーよければ、」
「おい」
「はい」
少し顔を近付けて声を掛け、ようとしたら、後ろから低い声が聞こえて、手首を掴まれる。反射的に良い子の返事をして、ぎこちなく振り向くと、そこには。
「かいちょ……」
「何してる」
「いや何ってちょっとお話してただけだって、ねー?」
女の子たちを見れば、ぽっと頬を染めている。一目見ただけでも頬を染めるくらいのイケメンこと会長が、背後から現れた、とゆーワケである。うう、なんつータイミング。
「んな暇ねえだろ。来い、」
「えええ、そーなの?!」
ぐい、と手首を掴んだまま腕を引かれて、否応なしに歩き出される。あああ、せっかく掴んだ、女の子とのチャンスがー。
「あ、あ、俺、明日までいるからー。またねー」
「おい」
「はい」
引きずられながらも振り返って告げるのに、会長の低い声が聞こえてびくっと前を向く。女の子たちは会長出現にぽうっとなって、俺の声なんざまるで聞こえてなかったかのようだった。くそう、コレが、格差社会。
――でもやっぱり、男前なんだよなあ。
ずんずん前を行く会長の後ろ姿に、そう認めざるを得なくて、小さく息を吐く。会長が本気を出せば、あの女の子たちなんて、きっとすぐにイチコロだ。
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