フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき

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第2.5章 コンテスト!?

風紀委員長こと城戸昴の場合

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 ――風紀委員とは、基本的に煙たがられる役職だ。

 週に1回の服装検査を始め、規則を破る生徒たちに注意を促したり、酷い時には罰則を課したりするのも、彼らの役目である。例年、一人二人は規則を破るのが仕事のような問題児がいて、ターゲットを絞り、しつこく声を掛けていた。

 そのうちの一人が、協力組織である生徒会入りをしたのだから、人生どうなるかわからない。生徒会入りをしても尚、規則違反の制服の着方をするのは相変わらずで、彼を見る度に声を掛けた。その声がシカトされるのにも最早慣れた。それくらい、日常茶飯事である。別に、切なくなんかない。

 ――風紀委員長を務める城戸昴とは、不器用な男だった。

 そして最近、そんな彼を悩ませる出来事がある。









 「城戸さんっ、おはようございます!」



 きらきらという擬音がつきそうなくらい、良い笑顔で、元気の良い挨拶が響き渡る。朝の昇降口、下駄箱の前で、捕まってしまった。城戸は心底イヤそうに眉を寄せて、自分よりも低い位置にあるその顔を見下ろした。



「あー、おはよう」

「はいっ」



 どうしても低い声で、おざなりな挨拶になってしまう。しかし目の前の後輩は、そんな声色も気にする様子なく、嬉しそうに返事をした。栗色の髪、大きい瞳、長い睫毛、小ぶりな鼻――女性が羨むような可憐な顔立ちをした転入生に、何故だか妙に、懐かれていた。



「今日も朝からお仕事ですか?」

「ああ。頭髪検査だな」

「大変ですね、えっと、がんばってくださいっ」



 わざと逸らした視線を追うように覗き込まれてしまい、眉間を寄せる。そんな城戸の表情にも気付いているのかいないのか、転入生こと剣菱は、にこっと笑って激励の声を投げてくれた。



「おー」



 素っ気なく返すと、「それじゃあ、またっ」と言って、ぺこりと頭を下げて彼はぱたぱたと去って行く。その後ろ姿を見送って、城戸は小さく息を吐いた。



「――いい気になるなよ?」



 ああこれだこれがイヤなんだ。

 どこから見つめていたのか、いつの間にか背後に立った生徒会副会長が、低い声でぼそりと牽制してくるのに、ぞわりと鳥肌が立つ。城戸が反応するより早く、気配を消していた副会長は、るんるんとご機嫌に廊下を歩く転入生の隣に、何喰わぬ顔をして立っていた。前世が忍者だと言われても、驚きはしない。



「相変わらず冷たいなあ」



 そしてまた背後に、のんびりとした声が降ってくる。振り返ると、上履きを履く鈴木の顔があった。



「えー、いつもあんなに冷たいんすか? いいんちょー、ひどおい」



 さらにその隣には、わざとらしい非難の声を挙げてシナを作る、生徒会会計の姿。



「朝っからうるせえな」



 転入生に会っただけでもげんなりしているのに、朝からこのチャラチャラした奴の姿を見るなんて、今日は本当についていない。



「剣菱くんにはいつも素っ気ないんだよ」

「当の剣菱くんはめちゃくちゃ懐いてたじゃないすか」

「本当にねえ」

「――副会長がガチギレするくらい」

「それがイヤなんだよそれが」



 そう、腐っても風紀委員長という肩書をもつ城戸は、それなりにモテる。今までも可愛らしい容姿をした後輩や同輩に告白をされたこともあるから、転入生のようにあからさまに懐いてくる輩には慣れていた。しかし、彼は、他の生徒とは違う。不思議な魅力を持つらしく、どんどんと人を虜にしていくようで、つまるところ、彼と関わるのをよく思わない人間が多いということだ。それが、城戸には面倒臭くて仕方がない。



「ていうか、なんであんなに懐かれたの?」



 生徒会という組織の中で、普段から彼に関わっている鈴宮は、城戸の言わんとすることを理解したのか、少し笑った。それから興味を惹かれたようで、尋ねてくる。改めて問われて、城戸は言葉に詰まった。



「意外にこう見えて、小動物に弱いんだよね」

「はァ?! 鈴木手前ェ何言おうとしてんだ!」

「まあまあ、いいじゃない。優しくしてあげたんだよね、彼に」

「えええ、委員長が? 優しく? マジすか!」

「食いつくんじゃねえ鈴宮!」

「うわー超知りたい! 詳細教えて鈴木さん!」



 目を輝かせる鈴宮に、鈴木はふふっと笑った。城戸の割と本気の制止をよそに、鈴木は話し始める。



「あれは、そう。ちょうど彼が転入してきたその日のことだったかな――」

「鈴木手前ェ後でしばくぞ絶対ェしばくぞ覚えてろよゴルァ!!!!!」















 ――季節外れの転入生は、超絶美少年らしい。



 そんな噂が、校内を駆け回っていたその日のことだった。学園の風紀に関わることでないならば、特に興味も惹かれない。号外と題した新聞を手にするも、流し読みしただけでゴミ箱に捨ててしまった。しかし学園内はその噂に騒然としていて、城戸の属する3年のクラスも、その話題で持ちきりだった。



 ――くだらねえ。



 幾ら少女と見紛う容姿だろうが、男は男だろ。

 浮足立っている同級生を尻目に、昼休みには一人になりたくて裏庭へと足を運んでいるときだった。校内の外れ、殆ど人も来ない一階の端で、おろおろと戸惑いを露わにする少年の姿を見付けてしまった。

 思わず足を止めるのは、その姿かたちが、今朝新聞で見たものと一致したからである。



「あ、あのっ、すみません」



 一瞬、ぼうっとしてしまった。城戸の意識を引き戻したのは、いつの間にか目の前に来ていた少年の、呼びかけの声である。



「ああ? なんだ」



 初対面の相手は大抵、城戸のガラの悪さに怯むものだ。しかし、彼は怯むどころか、眉尻を下げて、困ったように城戸を見上げてきた。



「道に、迷っちゃったんです。ここ、どこですか?」



 不安げに尋ねる仕草は、確かに、迷子の小型犬を彷彿とさせた。城戸は、ぐっと唇を噛む。



「校舎の端だ。すぐそこから、裏庭に出られる」



 彼の後ろの扉を顎で示すと、「裏庭?」と首を傾げる仕草が見える。



「ああ。涼むにはいい場所だ。来るか?」



 そう、誘いの声を掛けてしまったのは、ただの気まぐれでしかない。

 しかし彼はぱっと表情を輝かせ、「はいっ」と元気に頷いた。

 共に出た裏庭で、花の種類の豊富さや、何故か飛び交う小鳥たちに彼はさらに嬉しそうにし、何処からか見付けてきたジョウロで、鼻歌混じりに水を遣っていた。そしてその姿を生徒会副会長が眺めていて、何故か恋に落ちたらしいとは、後から聞いた話だ。









 「――とにかく、その一件で、剣菱くんは城戸のことを【いいひと】だと認識しちゃったらしいんだよねえ」

「いい人! 委員長が、いい人!!」

「手前ェ爆笑してんじゃねえぞ鈴宮ァ!!」

「あだっ」



 ひーひーと肩を震わせて爆笑する鈴宮に、耐え切れずに手を出した。頭を殴ると、痛そうにそこを撫で擦っている。



「つーか、何気に嬉しかったりして?」

「ああ?」

「暴言も吐いてなかったしさー、こーゆー風に殴ったりもしてなかったし?」



 鈴宮は窺うように上目で城戸を見上げ、首を傾げていた。それが、剣菱のことを指しているのだと知り、思い切り眉間に皺を寄せた。



「阿呆か、それは……」

「椎葉が怖いんだよね、城戸は」

「ばっ、馬鹿、誰が怖ェんだ!」

「だってそうでしょ」



 言い切る鈴木が、楽しそうに笑う。それに何も言えず、城戸は唇を結んだ。



「あー、副会長かあ……それは、確かに……」



 自分も覚えがあるのか、鈴宮は考えながら頷いた。それから、ぽん、と城戸の肩を叩く。



「呪い殺されないように、頑張って……?」

「おい呪いってなんだあいつんな特殊能力もってんのか」

「いやわかんないけど、今の副会長ならできそうじゃない……?」



 確かに。

 毎朝、剣菱に挨拶される度に、射殺すような視線を向けられる。ぼそっと囁かれるのが常だが、あの様子ならば、呪いを発動するのも不可能ではなさそうだ。

 剣菱のことはきらいではない。だが、後ろに控える椎葉を前に、普通に接することなんて、到底できない。



「結局さー、ヘタレなんだよね」

「だっ誰がヘタレ……!」

「あは、鈴木さん本当のこと言っちゃ駄目でしょー」

「あーごめんごめん」



 まったりと話を交わす副委員長と生徒会会計に、普段の数倍、イラつく朝にさせられた。



 ――ああ、平穏にちじょうよ、戻って来い。

















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