フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき

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第2章 スポーツ!!!

9 チアガール(?)たちのダンスは、大盛況のうちに幕を閉じた。

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 チアガール(?)たちのダンスは、大盛況のうちに幕を閉じた。剣菱くんを中心に、露出した足や腕を伸ばして軽やかに踊る姿は、きらきらと輝いていた。確かに、野郎ばっかりのこの学園には、こういう清涼剤みたいな存在が必要なんだろう。……これでついてなけりゃ、最高なんだけどぉ。なんて思っても仕方がないことを思いながら、退場していく彼らのミニスカがひらひらと揺れているのを拍手で見送る。その背中が見えなくなるまで、会場の歓声(「うおおおおお」という野太いものである)は、続いた。

 その後は、各チームの代表が出て、それぞれ趣向を凝らした応援を行った。が、精鋭揃いのチアガール(?)たちの印象が強すぎて、せっかく頑張っただろう応援も霞んでしまった。トリに使えばよかったのに、勿体ねー。









 「あと残り4種目かー」



 後片付けもあるため、午後の競技は少ない。机上に置いてあるプログラムを眺めて、呟いた。これまではほぼ何事もなく終わったけど、まだまだ油断はしていられない。校庭では場内アナウンスが流れ、次の種目の準備が慌ただしく行われ始めた。



「鈴宮、お前何してる」



 ふ、と影ができて顔を上げる。見回りに行っていたはずの会長が、不機嫌な顔をして俺を見下ろしていた。えーなんか怒られるようなしたっけ? 記憶を辿るが、思い当たる節がない。



「何すかー、ここにいちゃダメ?」

「ダメに決まってんだろ、馬鹿」

「ええ、なに」

「次の種目、2年の短距離走だぞ」

「あっ」



 ――しまった。



 生徒会だから関係ないやー、と完全に傍観者の立場でいたけど、俺にもしっかり見せ場は用意されていた。慌てて立ち上がる。



「いっけね、やっちゃったー。間に合うかな?」

「後の方だろ。さりげなく混ざって来い」

「あーあー、応援してくれる女の子もいないのにー」

「くだらねえこと言ってんじゃねえよしばくぞ」

「あだっ」



 しばかれた。ゴツンと殴られた頭を擦って、「さーせんしたー」と軽く謝りながら本部テントを出る。すれ違いざま、「頑張れよ」とぽつりと呟く素っ気ない横顔を目にしてしまい、一瞬呆気にとられた。それからじわじわと、嬉しいような照れくさいような気持ちが浮かんできて、でもそれを認めるのもなんだか悔しくて、「はいはーい」といつもと同じ軽い返事を返す。

 やけに軽やかな足取りで入場門に辿り着いてしまい、雫に不気味がられたのはここだけの話である。













 短距離走は、至ってシンプルな競技だ。学年一人一人がコースに分かれて並び、200Mを走ってタイムを競う。もちろん得点はチーム分に加入されるが、俺たち生徒会役員はスペシャルサポーターなので、全チームに加点というプラマイゼロな役割を担う。出ても出なくてもいい競技だからこそ、それぞれの個性が際立つ。

 例えば、生真面目な会長は全力で走る。午前中にあった3年の短距離走では、レースで1位という記録を出し、会場は大いに盛り上がった。それとは対照的に、副会長はいつも通り派手で自由で、本部席に剣菱の姿を見付けたときだけ格好つけて走っていた。1年はというと、平良くんは無言で頑張り、やはり1位という結果を出した。剣菱くんは剣菱くんで、周りが手加減したのかそういう人選だったのかは定かではないが(もしかしたら副会長が裏から手を回したのかもしれない)、そんなに早いわけではないのに、1位を取って周りから拍手をもらって照れていた。副会長が照れ顔を写メに収めてデレデレしていたのが印象的だった。……なにこれ。こんなんでいいの、と振り返って不安になってきた俺って、意外と真面目かもしんない。



「何考えてんだよ」



 ふ、と遠い目をしていると、隣から聞き慣れた声が聞いてきた。顔を上げる。見慣れたイケメンの顔がある。雫だ。



「んー、体育祭ってこんなんだっけな、っていう」

「今さら何言ってんだよ。……お前、去年もテキトーにやってたろ」

「何その人がこれから適当に走るみたいな……」

「正解、だろ」

「まあそうなんだけどー」



 何も言い返せない。手首を揺らし、足首を回して気休めの準備体操をしながら、スタートラインに立つ。どういう因縁なのか、今年はレースまで雫と一緒だった。

 前のレースの最下位がゴールしたのを見届けて、額につけたハチマキ(スペシャルサポーターのハチマキは、灰色の生地に黒字で「生徒会」と書いてある。ダサい)を縛り直した。



「今回くらいは本気で走れよ、中学以来の勝負なんだから」

「えー、どうしよっかなー」

「余裕ぶってんじゃねーよ」



 そういう雫の顔は、笑ってた。最初から俺とは勝負にならないって意味、それはそれで複雑っつーか、嘗められてる気がして腹が立つ。くっそー、見てろよ。



「どっちが」

「勝った方が王様な」

「王様ゲームじゃねっつー、の、!」



 くだらない会話をしているうちに、レース開始のアナウンスが流れ、スタートの掛け声とピストルの音が響く。一瞬遅れそうになるが、慌てて足を踏み出した。スニーカーの底に、地面の硬さを感じる。

 あそこまで言われたら、本気出さなきゃ男じゃないっしょ。つうか単純に雫に王様になられんのがやだ。――そんな不純な動機で、観客席で黄色い声を上げて応援してくれるかわい子ちゃん(男)に手を振るのも忘れ、俺は必死に走っていた。









 ――はあ、はあ、はあ。



「くっそ、……っはぁ、……ちょお、くやしー、んだけど、」

「っは、……喘ぎ声みてーになってるぜ」

「もーさー、……っかい、死んで、いいよ、」



 ああもうだめだ、言い返す声も途切れ途切れで迫力もない。結局、腐っても運動部の雫に勝てるはずもなく、俺の全力疾走は、2位という結果で終わった。僅差だったのは割とすごいと思う、自分でも。額から流れる汗を手の甲で拭い、顎から滴る汗をTシャツの襟元で拭く。



「つーかマジで走ることになるとは思わんかったー……」

「意外に呆気なく乗るのな」

「いやー、中学ん時も勝てなかったなーとか思い出したわ」



 1位と2位の待機場所に並んで座りながら、雫と言葉を交わす。雫に言われるまで忘れてたけど、そういえば、中学の運動会でも似たような場面があった。そのときもたまたま同じレースで隣に立ち、適当に走ろうとしてた俺は、不敵に笑う雫の挑発にまんまと乗せられ、全力を出した結果負けてしまった。あのときにも感じた悔しさが、胸にこみ上げてくる。



「あーもー本気出さなきゃよかったー」

「俺好きよ、お前のそーいうとこ」

「負けて悔しがるとこ?」

「ばか、違ェよ。……なんだかんだ言いながらも負けん気強ェとこ」

「うっわースポ根とかマジ程遠いんすけどー」



 つい誤魔化したのは、案外痛いところを突かれたからだ。













 競技が終わって退場し、本部席に戻ろうとしたところ、ぱしゃりとカメラのフラッシュを浴びる。眩しさに目を眇めた先には、案の定、新聞部部長の姿があった。



「まさか君が本気出すとは思わなかったよ」



 眼鏡のレンズとカメラのレンズ、ダブルレンズ越しに俺の方を覗きながら、にやついて部長が言ってきた。



「ねー。俺もそう思うっす」

「もしかして、因縁の対決とか?」

「さあ、どうなんすかね」



 尋ねられて、隣にいた雫が首を傾げる。



「王様になりたくて頑張っちゃったのは否めねーよな?」

「残念、逆だよ逆。お前に王様になってほしくなかったのー」

「だってさ、波多野さん。ちなみに今夜めくるめく王様ゲームが部屋で行われる予定なんで、邪魔しないでくださいよ?」



 そういう趣味繋がりなのか、雫と部長は知らない仲ではないようだった。冗談交じりに言う雫の言葉に部長はキラリと眼鏡を輝かせ、カメラを下ろすと素早くメモを取った。いっそ職人技だ。



「めくるめく王様ゲームってなに……」

「それはアレだろ、ご想像にお任せ☆ 的な?」

「爽やかに言うのが腹立つー」



 げんなりと嘆くと、「鈴宮先輩!」とかわいらしい声が俺を呼んだ。振り向くと、小柄で愛らしい子が、少し緊張した面持ちで俺を見上げている。あれーこの子、どこかで見たことあるような……。



「はいー?」

「え、えっと、先輩が本気で走ってる姿、すごくカッコよかったですっ」



 拳をぎゅっと握りしめて、大きな目をきらきらさせて、目元を赤く染めながら一生懸命伝えてくれる。ああ、ついてなければ(以下略)



「ありがとねー」



 本音をひた隠しながら笑顔を浮かべ、その子の頭をぽんぽんと撫でてあげた。そしたら、ぼん、と音が出そうなほど耳まで赤くなって、わたわたと慌てている。おーかわいい。ぱしゃぱしゃと、色々な角度で写真を撮られているのにも、気付いていない様子だ。



「部長、さすがにそれはアウトっしょ」

「貴重な一枚だよ。憧れの先輩に気持ちを伝える健気な後輩、……需要はあるよね、天乃君?」

「えっ」



 同志としてなのか、急に話を振られた雫は、間の抜けた声を出した。それから取り繕ったように、「あ、ああ、」と頷く。



「いいんじゃないすか、次号の一面に使っても」

「鈴宮のファンが暴動を起こすかもしれないけど」

「暴動ってすげー物騒な響き……」



 俺のファンってそんなに恐ろしいの。こういう可愛い子が多いイメージしかないけど。ちらりとその子を見て、思い出した。ああ、あれだ。



「永遠のフリーマン呼ばわりしてきた子だよね」

「!」

「なんだそれ、お前そんな異名を持ってたのか」

「お、覚えててくれたんですね……! あ、ありがとうございますっ」



 俺がぽろっと言ったら、涙を流しかねない勢いで喜んで、ぺこりと頭を下げる。そうだ、剣菱くんが転入してきた日、副会長が骨抜きになったという速報を教えてくれた子だ。そして俺を永遠のフリーマンだと言ってきた……根は、悪い子じゃないんだろうな。



「次の競技も、楽しみにしてます……! がんばってくださいね」



 ぱっと花が咲くような笑顔を浮かべて、彼は去って行った。遠ざかる小さな背中を見送ると、入れ違いに、背後から首根っこを掴まれる。



「うわっ、なに」

「行くぞ」

「えっ、どこに、って何すか会長ー」



 突然現れたその声は、聞き慣れた会長のものだった。突然のことに動揺が隠せないまま、後ろを振り返る。



「ああ、そうか。もうすぐだね……余興」

「おお、いよいよか。めちゃくちゃ期待してるぜ、がんばれよー」



 俺の疑問の声に答えたのは、部長だった。それに雫も便乗し、爽やかに応援してくる。余興ってなんだっけ、さっきも聞いたような……。



「準備に時間がかかるらしい、早くしろ」

「わ、わかった、わかったから、引きずんなくてもいいじゃんー」

「逃げねえようにしてるんだろ」

「逃げないってばー」



 何が起こるかわかんないから、逃げたくもなるけれども。

 俺はそのまま会長にずるずる引きずられて、次の出番に向けての準備をしに、校舎内に入った。その様子までもぱしゃぱしゃと写真に撮られ、よく飽きないなといっそ部長に感心する。

 余興かー、余興。……うーん、イヤな予感しか、しない。















 「つーか写真撮りすぎじゃね?」

「いい値で売れるんだよね」

「うわっあくどい!」

「今さらだろう」

「……は、波多野さん」

「さっきの全力疾走後の汗だく鈴宮のアップもあるよ」

「データごとだと幾らっすか!」

「学食一年分くらいかな」

「ぐ……、ろ、ローンで」

「身体で払ってくれてもいいよ」

「えっ」

「え?」





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