18 / 72
第2章 スポーツ!!!
3 五限目の授業を受けて、
しおりを挟む
3
五限目の授業を受けて、そのまま生徒会室へ向かった。ガチャリといつも通りドアを開けると、いつもと違う光景が広がっている。がらんと人の数が少ないのは最近は珍しくないけれど、その中央に、見慣れない人影がある。痛んだ金髪センター分け、サングラス、そしてど派手なアロハシャツ――この人は。
「緒方さん!」
「おー流クン。元気やった?」
前会長の、緒方さんだ。ひらりと手を振って、人懐こい笑顔を浮かべてくる。元気な緒方さんとは裏腹に、現会長は、俯いて額を抑えていた。
「おかげさまで色々大変っすー。つーか急にどうしたんすか」
「いやー、気まぐれで久しぶりに来てみたら、各務がめっちゃ疲れとるやん。ほんまおもろいわ」
「何も面白くありません」
言葉通り面白そうに笑っている緒方さんの声を、低い声が遮る。ああ、会長が不機嫌だ。
「あ、じゃあちょうどいいじゃん。かいちょ……、じゃない、緒方さん、仕事手伝ってってくださいよ」
つい、去年の癖で会長と呼びかけた。ら、今の会長が思い切り睨んでくるから、慌てて言い直す。現会長は、真面目な分、プライドも高いらしい。ああこわい。
「いやや」
「即答すかー」
「当たり前やろー、だあれが好き好んでんなめんどい仕事するか」
「去年までやってたじゃん」
「去年は去年、今は今やろ。ちゅーか、他の役員はどないしたん」
う、やっぱりそこ、聞いちゃうかー。俺は即答できなくて、ちらりと会長を窺った。会長は、最近いつもそうするように、深いため息を吐く。
「今はほとんど、俺と鈴宮で仕事してます」
「はあ? 椎葉は何やっとるん」
「まあ……自由にやってますね」
「なんやそれ、大丈夫なんか今年の役員はー」
「あは、……駄目かもー」
なんて、正直に洩らすと、さすがに緒方さんの眉が寄る。ちゃらんぽらんに見えて責任感が強い緒方さんは、二年間も会長を務めたカリスマだ。実はこっそり、今の会長も、緒方さんを尊敬しているっていう話を、聞いたことがある。
「どっちにしろ、体育祭が正念場やろな。そこさえ乗り切ったら……次は夏休みか。そん次は文化祭、ダンパ……ま、先は長いけど、きっかり一年で終わりや。きばりやー」
あ、やっぱ無責任かも。爽やかな笑顔で親指を立てる緒方さんに、会長の眉間の皺が一層深くなる。年間行事を思い浮かべて、さらに頭が痛くなったのだろう。俺も痛い。
「何かあったら言うてや、差し入れぐらいは持ってきたる」
「ありがとうございます……」
そんなんいらねえから仕事手伝え、そう思っていそうな顔で会長は頷いた。「ほな帰るわ」と言う緒方さんは、本当にひやかしにきただけらしい。ひらりと手を振って生徒会室を出る緒方さんを、追いかける。せめて見送りくらいはしなくちゃ。
「流クン」
それに気付いた緒方さんが、振り返らずに俺を呼んだ。生徒会室の扉を閉めて、緒方さんの後ろ姿を見る。黄色い生地に大きなハイビスカスが描かれている、紛れもないアロハシャツだ。
「俺が会長んとき、事務仕事なんてほとんどせえへんかったで」
「え」
「他の役員がやった仕事を取りまとめて、一般生徒に報告する。それが会長の仕事やろ。全部一人で抱え込めっちゅーんは酷な話や」
緒方さんの言葉は、さらりと軽いけれど重みがある。二年間、生徒会長の椅子に座っていた人間からの言葉。それを敢えて俺に言うのにも、きっと意味があるんだろう。
「あのまんまやったら、すぐ倒れるで、あいつ」
どきりとした。
確かに最近の会長はげっそりとして、覇気もない。全身から漂う疲労感も半端ない。説得力のある緒方さんの言葉に、不安が増した。
「ど、どうすれば倒れないっすか」
「流クンだけがどうにかすればええって話やないな」
「うう、でも……」
「いっそ、ガラッと変えてもええんちゃうん。……前代未聞やけど」
――このままいくと、解体もあり得るっつーのをよく覚えとけ。
風紀委員長の声が、重なる。解体。もしかしたら、俺も会長も、生徒会役員ではなくなるかもしれない。
「なんかこー、あれっすね」
「なんや」
「客観的に見ると、ほんとヤバい感じがするー」
「せやから、そう言うとるやろ。……何があったんや、一体」
こうなったら、白状するしかない。みんな転入生の魅力にメロメロなんですー、なんて間の抜けた理由を告白すると、緒方さんはぽかんとした後に、また爆笑した。肩が震えるほどに笑ってる。まあ、そうなるよね……。
「うわーしょーもな! 惜しいことしたわ、俺も体験したかったそのおもろい事態」
「面白がんないでくださいー」
「いやおもろいやろ、ちゅうか自分らも止めえや、そんな阿呆なこと」
「止めて聞いてくれるんならいいんすけどねえ……」
目がハートになってるあの人たちに、理論的なツッコミが利くのかどうか、甚だ疑問だ。俺が遠くを見ると、緒方さんが肩を叩いてくれる。
「ま、なるようになるやろ。……支えたってや、あいつのこと」
「緒方さん……」
小さく呟かれた言葉が、緒方さんの本心のようにも思えた。会長は一年の頃から、補佐として生徒会の役員をしていた。緒方さんも、会長のことをよく知っているから、心配しているのは事実なのだろう。
「俺は、俺にできることをするだけっすー」
「流クンを推薦してよかったわー」
「なんすか改まってー」
「自分も、役員になってよかったやろ」
うわ、デジャビュ……、こんなの夢で見た気がする。俺はなんとも言えず、笑って誤魔化した。役員最高! なってよかった! 緒方さんありがとー、なんて、本心から言える日が来るのだろうか……。
五限目の授業を受けて、そのまま生徒会室へ向かった。ガチャリといつも通りドアを開けると、いつもと違う光景が広がっている。がらんと人の数が少ないのは最近は珍しくないけれど、その中央に、見慣れない人影がある。痛んだ金髪センター分け、サングラス、そしてど派手なアロハシャツ――この人は。
「緒方さん!」
「おー流クン。元気やった?」
前会長の、緒方さんだ。ひらりと手を振って、人懐こい笑顔を浮かべてくる。元気な緒方さんとは裏腹に、現会長は、俯いて額を抑えていた。
「おかげさまで色々大変っすー。つーか急にどうしたんすか」
「いやー、気まぐれで久しぶりに来てみたら、各務がめっちゃ疲れとるやん。ほんまおもろいわ」
「何も面白くありません」
言葉通り面白そうに笑っている緒方さんの声を、低い声が遮る。ああ、会長が不機嫌だ。
「あ、じゃあちょうどいいじゃん。かいちょ……、じゃない、緒方さん、仕事手伝ってってくださいよ」
つい、去年の癖で会長と呼びかけた。ら、今の会長が思い切り睨んでくるから、慌てて言い直す。現会長は、真面目な分、プライドも高いらしい。ああこわい。
「いやや」
「即答すかー」
「当たり前やろー、だあれが好き好んでんなめんどい仕事するか」
「去年までやってたじゃん」
「去年は去年、今は今やろ。ちゅーか、他の役員はどないしたん」
う、やっぱりそこ、聞いちゃうかー。俺は即答できなくて、ちらりと会長を窺った。会長は、最近いつもそうするように、深いため息を吐く。
「今はほとんど、俺と鈴宮で仕事してます」
「はあ? 椎葉は何やっとるん」
「まあ……自由にやってますね」
「なんやそれ、大丈夫なんか今年の役員はー」
「あは、……駄目かもー」
なんて、正直に洩らすと、さすがに緒方さんの眉が寄る。ちゃらんぽらんに見えて責任感が強い緒方さんは、二年間も会長を務めたカリスマだ。実はこっそり、今の会長も、緒方さんを尊敬しているっていう話を、聞いたことがある。
「どっちにしろ、体育祭が正念場やろな。そこさえ乗り切ったら……次は夏休みか。そん次は文化祭、ダンパ……ま、先は長いけど、きっかり一年で終わりや。きばりやー」
あ、やっぱ無責任かも。爽やかな笑顔で親指を立てる緒方さんに、会長の眉間の皺が一層深くなる。年間行事を思い浮かべて、さらに頭が痛くなったのだろう。俺も痛い。
「何かあったら言うてや、差し入れぐらいは持ってきたる」
「ありがとうございます……」
そんなんいらねえから仕事手伝え、そう思っていそうな顔で会長は頷いた。「ほな帰るわ」と言う緒方さんは、本当にひやかしにきただけらしい。ひらりと手を振って生徒会室を出る緒方さんを、追いかける。せめて見送りくらいはしなくちゃ。
「流クン」
それに気付いた緒方さんが、振り返らずに俺を呼んだ。生徒会室の扉を閉めて、緒方さんの後ろ姿を見る。黄色い生地に大きなハイビスカスが描かれている、紛れもないアロハシャツだ。
「俺が会長んとき、事務仕事なんてほとんどせえへんかったで」
「え」
「他の役員がやった仕事を取りまとめて、一般生徒に報告する。それが会長の仕事やろ。全部一人で抱え込めっちゅーんは酷な話や」
緒方さんの言葉は、さらりと軽いけれど重みがある。二年間、生徒会長の椅子に座っていた人間からの言葉。それを敢えて俺に言うのにも、きっと意味があるんだろう。
「あのまんまやったら、すぐ倒れるで、あいつ」
どきりとした。
確かに最近の会長はげっそりとして、覇気もない。全身から漂う疲労感も半端ない。説得力のある緒方さんの言葉に、不安が増した。
「ど、どうすれば倒れないっすか」
「流クンだけがどうにかすればええって話やないな」
「うう、でも……」
「いっそ、ガラッと変えてもええんちゃうん。……前代未聞やけど」
――このままいくと、解体もあり得るっつーのをよく覚えとけ。
風紀委員長の声が、重なる。解体。もしかしたら、俺も会長も、生徒会役員ではなくなるかもしれない。
「なんかこー、あれっすね」
「なんや」
「客観的に見ると、ほんとヤバい感じがするー」
「せやから、そう言うとるやろ。……何があったんや、一体」
こうなったら、白状するしかない。みんな転入生の魅力にメロメロなんですー、なんて間の抜けた理由を告白すると、緒方さんはぽかんとした後に、また爆笑した。肩が震えるほどに笑ってる。まあ、そうなるよね……。
「うわーしょーもな! 惜しいことしたわ、俺も体験したかったそのおもろい事態」
「面白がんないでくださいー」
「いやおもろいやろ、ちゅうか自分らも止めえや、そんな阿呆なこと」
「止めて聞いてくれるんならいいんすけどねえ……」
目がハートになってるあの人たちに、理論的なツッコミが利くのかどうか、甚だ疑問だ。俺が遠くを見ると、緒方さんが肩を叩いてくれる。
「ま、なるようになるやろ。……支えたってや、あいつのこと」
「緒方さん……」
小さく呟かれた言葉が、緒方さんの本心のようにも思えた。会長は一年の頃から、補佐として生徒会の役員をしていた。緒方さんも、会長のことをよく知っているから、心配しているのは事実なのだろう。
「俺は、俺にできることをするだけっすー」
「流クンを推薦してよかったわー」
「なんすか改まってー」
「自分も、役員になってよかったやろ」
うわ、デジャビュ……、こんなの夢で見た気がする。俺はなんとも言えず、笑って誤魔化した。役員最高! なってよかった! 緒方さんありがとー、なんて、本心から言える日が来るのだろうか……。
19
お気に入りに追加
339
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜
小屋瀬 千風
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ
アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。
主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。
他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆
〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定)
アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。
それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
【超重要】
☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ)
また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん)
ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな!
(まぁ「長編」設定してますもん。)
・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。
・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。
・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

星蘭学園、腐男子くん!
Rimia
BL
⚠️⚠️加筆&修正するところが沢山あったので再投稿してますすみません!!!!!!!!⚠️⚠️
他のタグは・・・
腐男子、無自覚美形、巻き込まれ、アルビノetc.....
読めばわかる!巻き込まれ系王道学園!!
とある依頼をこなせば王道BL学園に入学させてもらえることになった為、生BLが見たい腐男子の主人公は依頼を見事こなし、入学する。
王道な生徒会にチワワたん達…。ニヨニヨして見ていたが、ある事件をきっかけに生徒会に目をつけられ…??
自身を平凡だと思っている無自覚美形腐男子受け!!
※誤字脱字、話が矛盾しているなどがありましたら教えて下さると幸いです!
⚠️衝動書きだということもあり、超絶亀更新です。話を思いついたら更新します。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる