フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき

文字の大きさ
上 下
13 / 72
第1章 ミーツ!!!

12 会長を抱きしめて、幼馴染に抱きしめられる

しおりを挟む

12









 会長を抱きしめて、幼馴染に抱きしめられるなんて非日常を味わっても、いつも通りに朝はやってくる。布団を抱きしめて惰眠を貪っていると、肩を揺さぶられて声をかけられた。



「なーがーれ、朝だぞ朝。起きろ」

「んー……あと七時間……」

「それ寝過ぎだろ。ほら、起きねーと」



 聞き慣れた声が、上から降ってくる。でもまだ眠い、いやいやと首を振ったら、肩を掴む手が、俺の頬を撫でてきた。



「ちゅーするぞ」

「起きますっつーか今起きましたおはようございます」



 耳元で囁かれる声色が冗談なのかそうじゃないのか定かではなく、ぞわりとした。慌てて起き上がり早口で言うと、雫は口端を上げた。



「ざーんねん。早くしろよ、本気で遅れるぞ」

「し、雫さん」

「なに」

「キャラ、変わってね?」

「んー? 気の所為、だろ。じゃ、先行ってるから」



 ああ、相変わらず爽やかだ……。

 釈然としない気持ちを抱きながら、支度を始めた。

 ――やっぱり、春は人をおかしくさせる。











 「で、こーなるわけね……」



 ああ、頭が痛いってこういうことか。放課後になって、重い足を引きずって生徒会室に赴くと、予想外というか予想以上というか、そんな光景が俺を待っていた。



「ああ、幸せっていうのはこういうことを言うんだろうね」

「灰色の生徒会室も、日向がいるだけで光が差すようだよ」

「どうした剣菱、もう少し気を楽にしていいんだぞ」

「ん……」



 生徒会室のソファに、転入生こと剣菱くんを囲むようにして座る双子と副会長、さりげなく飲み物を差し出す平良。ああ、前もどこかで見たような……。しかも、今度は、正式に役員になったから、堂々としている。その奥に、机の上に山盛りに重なった書類に目を通している会長の姿がある。普段より三割増しに、眉間に皺が寄っていた。そりゃそうだ。



「あ、鈴宮さん!」



 うわ気付かれた。あわよくばこのまま扉を閉めて逃避行したかったのだけれども、当の転入生がぱっと顔を輝かせて俺を呼ぶ。そして向けられる敵意の目、あんたら少し前まで一緒に仕事した仲じゃなかったっけ……。



「あ、どーもー」

「俺……、今日から、生徒会に入ることになった剣菱です」

「ああうん、なんとなく聞いてるよー」

「えと、よろしくお願いします!」



 ソファから立ち上がってトコトコと俺の方にやってきて、ぺこりと礼をする。茶色い髪がふわりと揺れた。軽く笑って、俺も頭を下げ返す。



「うん、よろしくねー」

「鈴宮、仕事」

「あーはいはいわかってますう」



 助け舟なのかなんなのか、会長が低い声を出して俺を呼んだ。鞄を置いて、会長の斜め前の自分の席に座った。会長から下りてきた書類が、机の上に積み重なっているのを見て、ため息を吐く。

 ちらりと前を見れば、手取り足取り腰取り、転入生に仕事を教えている役員の姿がある。ちなみに、補佐の仕事は、コピーを取ったりお茶を入れたり、簡単な資料を作製したりまとめたり、役員の全般を手伝う――謂わば雑用的なポジションである。だから、彼が活躍するにはあんたらが仕事しなきゃいけないんだよ役員さん。なんて、口には出せないけど。俺ってもしかしたら、ヘタレかもしんない。



「来月の体育祭の件だが――」

「あのさあ、かいちょー」

「なんだ」



 書類を見ながら、仕事の話を振ってくる会長の声を遮った。



「いつまで続くの、この状況」



 重なった書類を整えながら、会長の顔を見ずに問いかける。仕事を手にしているのは会長と俺だけで、あとの役員は転入生を見ることが仕事みたいになっちゃってる。副会長のとろとろにとろけた顔を見たら、彼のファンはどう思うのだろうか。

 会長はちらりと彼らを見た後に、げんなりとした表情を浮かべてため息を吐いた。



「俺が知りたい」

「ですよねー」



 ああ、切実感たっぷりだ。俺も大きく頷いて、手元の書類に目を落とす。とりあえず、五人分の仕事を回さなきゃ、学園の明日がない。……とか、格好良いこと言ってみたりして。









 来月に迫った体育祭の話を会長として、会計案や資料のまとめをする。会長も会長で、各クラスや各部活、学校側に提出する書類を必死に書き込んでいた。窓をちらりと見ると、もうすっかり薄暗い。今日も俺、放課後は仕事しかしてない……。今手掛けている書類を放って、机に思い切り突っ伏した。ちなみに、他の役員は”初日で緊張している”剣菱くんを寮に送り届けるため、帰宅済みだ。



「もーやだ、疲れたあ」

「煩ェ仕事しろ」

「ちょーしてるじゃないすかあ、副会長の三倍はしてるー」

「十倍の間違いじゃねえか」

「あっは、会長わかってるー」



 弱音を吐いたら、上から言葉が降ってくる。さりげなく訂正してくれるところに、会長のやさしさを感じた。



「ほんとさー、恋って偉大だよねえ」



 椅子の背もたれに寄りかかって、大きく伸びをする。会長もさすがに手を止めて、俺を見た。



「恋、か」

「そーでしょ。副会長も双子も平良くんも、目がハートだもん」

「目がハート……」

「毎日が楽しいんだろーなー」

「皺寄せさえ来なきゃな、それでいいんだろうが」

「会長はさー」



 ちらりと会長を見る。腕を組んで、深く椅子に腰かける姿が、大分様になっている。



「なんだ」

「恋とか、したことないの」



 俺が会長の目を見て問いかけたら、生徒会室に沈黙が走った。会長が瞬いている。人工的な電気の明かりで照らされた顔が、俺を見る。視線が絡み合い、そして、逸らされた。



「お前、言ってて恥ずかしくねえのか」

「え、べつに」

「恋だの愛だの、女じゃねえんだから……」

「うわ会長差別的。今の時代そんなこと言ったら怒られちゃいますよー」

「お前は、どうなんだ。鈴宮」



 眉間に皺を寄せる会長の顔は、やっぱりガラが悪い。生真面目生徒会長で通ってるのに、これじゃあただのヤンキーだ。不意に話を振られて、瞬いた。え、俺。



「知ってるでしょー。女の子大好きだってば」

「それは、性的に、だろ」

「そりゃそーでしょーよ」

「恋とか愛とかは、また違うんじゃねえか」



 う、鋭い……。

 一瞬、言葉に詰まってしまった。恋とか愛とか。自分から問いかけておいて、遠ざけていた、言葉。



「そりゃあ、ほら、流クンは永遠の王子様ですから」

「そうやって、誤魔化すんだな」

「会長も、でしょ」



 会長の言葉には、呆れた響きが滲んでいる。ちらりと視線を上げ、片目を細めて見せると、会長は肩を竦めた。一緒にするな、そう思ってる?



「俺は――……興味が、なかった」



 ふと立ち上がった会長が、床を見つめてぽつりと言った。独り言のように聞こえて、つい、反応し損ねてしまった。過去形ってことは、なんて、おちょくれる雰囲気でもない。



「帰る。お前は」

「え、一人で残んのやだ。仕事残ってるけど帰りますー」

「駄目だろそれは」

「えー? 会長は? 全部完璧なんすか、オールパーフェクトっすか」

「まあ、……明日やるか」

「ほら誤魔化したー」

「うるせえな文句あんなら寝ねえで仕事しろ」

「いやうそです明日できることは明日やります」

「ん、よろしい」



 ぐだぐだ押し問答をしながらも荷物を持って立ち上がり、会長の後に続いた。明日には役員の皆様がやる気を取り戻してくれるのを信じて、ちょっとだけ仕事を持ち越した。会長が良いと言ってるんだから、たまにはこんな日もありでしょう。



 ――会長の言葉の意味とか、そんなことは、深く考えないことにした。だってほら、春は人をおかしくさせる。






しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

気まぐれ先生の学園生活

海下
BL
これは主人公 成瀬 澪が愛おしまれ可愛がられる。 そんな、物語である。 澪の帝紀生時代もいつか書きたいと思ってます、なんて。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜

小屋瀬 千風
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。 主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。 他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆ 〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定) アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。 それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 【超重要】 ☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ) また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん) ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな! (まぁ「長編」設定してますもん。) ・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。 ・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。 ・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...