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第1章 ミーツ!!!
12 会長を抱きしめて、幼馴染に抱きしめられる
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会長を抱きしめて、幼馴染に抱きしめられるなんて非日常を味わっても、いつも通りに朝はやってくる。布団を抱きしめて惰眠を貪っていると、肩を揺さぶられて声をかけられた。
「なーがーれ、朝だぞ朝。起きろ」
「んー……あと七時間……」
「それ寝過ぎだろ。ほら、起きねーと」
聞き慣れた声が、上から降ってくる。でもまだ眠い、いやいやと首を振ったら、肩を掴む手が、俺の頬を撫でてきた。
「ちゅーするぞ」
「起きますっつーか今起きましたおはようございます」
耳元で囁かれる声色が冗談なのかそうじゃないのか定かではなく、ぞわりとした。慌てて起き上がり早口で言うと、雫は口端を上げた。
「ざーんねん。早くしろよ、本気で遅れるぞ」
「し、雫さん」
「なに」
「キャラ、変わってね?」
「んー? 気の所為、だろ。じゃ、先行ってるから」
ああ、相変わらず爽やかだ……。
釈然としない気持ちを抱きながら、支度を始めた。
――やっぱり、春は人をおかしくさせる。
「で、こーなるわけね……」
ああ、頭が痛いってこういうことか。放課後になって、重い足を引きずって生徒会室に赴くと、予想外というか予想以上というか、そんな光景が俺を待っていた。
「ああ、幸せっていうのはこういうことを言うんだろうね」
「灰色の生徒会室も、日向がいるだけで光が差すようだよ」
「どうした剣菱、もう少し気を楽にしていいんだぞ」
「ん……」
生徒会室のソファに、転入生こと剣菱くんを囲むようにして座る双子と副会長、さりげなく飲み物を差し出す平良。ああ、前もどこかで見たような……。しかも、今度は、正式に役員になったから、堂々としている。その奥に、机の上に山盛りに重なった書類に目を通している会長の姿がある。普段より三割増しに、眉間に皺が寄っていた。そりゃそうだ。
「あ、鈴宮さん!」
うわ気付かれた。あわよくばこのまま扉を閉めて逃避行したかったのだけれども、当の転入生がぱっと顔を輝かせて俺を呼ぶ。そして向けられる敵意の目、あんたら少し前まで一緒に仕事した仲じゃなかったっけ……。
「あ、どーもー」
「俺……、今日から、生徒会に入ることになった剣菱です」
「ああうん、なんとなく聞いてるよー」
「えと、よろしくお願いします!」
ソファから立ち上がってトコトコと俺の方にやってきて、ぺこりと礼をする。茶色い髪がふわりと揺れた。軽く笑って、俺も頭を下げ返す。
「うん、よろしくねー」
「鈴宮、仕事」
「あーはいはいわかってますう」
助け舟なのかなんなのか、会長が低い声を出して俺を呼んだ。鞄を置いて、会長の斜め前の自分の席に座った。会長から下りてきた書類が、机の上に積み重なっているのを見て、ため息を吐く。
ちらりと前を見れば、手取り足取り腰取り、転入生に仕事を教えている役員の姿がある。ちなみに、補佐の仕事は、コピーを取ったりお茶を入れたり、簡単な資料を作製したりまとめたり、役員の全般を手伝う――謂わば雑用的なポジションである。だから、彼が活躍するにはあんたらが仕事しなきゃいけないんだよ役員さん。なんて、口には出せないけど。俺ってもしかしたら、ヘタレかもしんない。
「来月の体育祭の件だが――」
「あのさあ、かいちょー」
「なんだ」
書類を見ながら、仕事の話を振ってくる会長の声を遮った。
「いつまで続くの、この状況」
重なった書類を整えながら、会長の顔を見ずに問いかける。仕事を手にしているのは会長と俺だけで、あとの役員は転入生を見ることが仕事みたいになっちゃってる。副会長のとろとろにとろけた顔を見たら、彼のファンはどう思うのだろうか。
会長はちらりと彼らを見た後に、げんなりとした表情を浮かべてため息を吐いた。
「俺が知りたい」
「ですよねー」
ああ、切実感たっぷりだ。俺も大きく頷いて、手元の書類に目を落とす。とりあえず、五人分の仕事を回さなきゃ、学園の明日がない。……とか、格好良いこと言ってみたりして。
来月に迫った体育祭の話を会長として、会計案や資料のまとめをする。会長も会長で、各クラスや各部活、学校側に提出する書類を必死に書き込んでいた。窓をちらりと見ると、もうすっかり薄暗い。今日も俺、放課後は仕事しかしてない……。今手掛けている書類を放って、机に思い切り突っ伏した。ちなみに、他の役員は”初日で緊張している”剣菱くんを寮に送り届けるため、帰宅済みだ。
「もーやだ、疲れたあ」
「煩ェ仕事しろ」
「ちょーしてるじゃないすかあ、副会長の三倍はしてるー」
「十倍の間違いじゃねえか」
「あっは、会長わかってるー」
弱音を吐いたら、上から言葉が降ってくる。さりげなく訂正してくれるところに、会長のやさしさを感じた。
「ほんとさー、恋って偉大だよねえ」
椅子の背もたれに寄りかかって、大きく伸びをする。会長もさすがに手を止めて、俺を見た。
「恋、か」
「そーでしょ。副会長も双子も平良くんも、目がハートだもん」
「目がハート……」
「毎日が楽しいんだろーなー」
「皺寄せさえ来なきゃな、それでいいんだろうが」
「会長はさー」
ちらりと会長を見る。腕を組んで、深く椅子に腰かける姿が、大分様になっている。
「なんだ」
「恋とか、したことないの」
俺が会長の目を見て問いかけたら、生徒会室に沈黙が走った。会長が瞬いている。人工的な電気の明かりで照らされた顔が、俺を見る。視線が絡み合い、そして、逸らされた。
「お前、言ってて恥ずかしくねえのか」
「え、べつに」
「恋だの愛だの、女じゃねえんだから……」
「うわ会長差別的。今の時代そんなこと言ったら怒られちゃいますよー」
「お前は、どうなんだ。鈴宮」
眉間に皺を寄せる会長の顔は、やっぱりガラが悪い。生真面目生徒会長で通ってるのに、これじゃあただのヤンキーだ。不意に話を振られて、瞬いた。え、俺。
「知ってるでしょー。女の子大好きだってば」
「それは、性的に、だろ」
「そりゃそーでしょーよ」
「恋とか愛とかは、また違うんじゃねえか」
う、鋭い……。
一瞬、言葉に詰まってしまった。恋とか愛とか。自分から問いかけておいて、遠ざけていた、言葉。
「そりゃあ、ほら、流クンは永遠の王子様ですから」
「そうやって、誤魔化すんだな」
「会長も、でしょ」
会長の言葉には、呆れた響きが滲んでいる。ちらりと視線を上げ、片目を細めて見せると、会長は肩を竦めた。一緒にするな、そう思ってる?
「俺は――……興味が、なかった」
ふと立ち上がった会長が、床を見つめてぽつりと言った。独り言のように聞こえて、つい、反応し損ねてしまった。過去形ってことは、なんて、おちょくれる雰囲気でもない。
「帰る。お前は」
「え、一人で残んのやだ。仕事残ってるけど帰りますー」
「駄目だろそれは」
「えー? 会長は? 全部完璧なんすか、オールパーフェクトっすか」
「まあ、……明日やるか」
「ほら誤魔化したー」
「うるせえな文句あんなら寝ねえで仕事しろ」
「いやうそです明日できることは明日やります」
「ん、よろしい」
ぐだぐだ押し問答をしながらも荷物を持って立ち上がり、会長の後に続いた。明日には役員の皆様がやる気を取り戻してくれるのを信じて、ちょっとだけ仕事を持ち越した。会長が良いと言ってるんだから、たまにはこんな日もありでしょう。
――会長の言葉の意味とか、そんなことは、深く考えないことにした。だってほら、春は人をおかしくさせる。
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