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第1章 ミーツ!!!
11 仕事が終わって生徒会室から出た途端に、携帯が震える。
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仕事が終わって生徒会室から出た途端に、携帯が震える。開いてみると、案の定、例の写真を送った雫からの返信だった。
『屈辱的な表情の流たん萌えwww』
そこかよ。
せっかく勇気を出して会長に抱き着いたっていうのに、着目するところが違う。しかし、もうちょっと気持ち悪い反応が返ってくるかと思ったから、意外だった。いやいや、ガッカリしてどうする俺。まあ、約束は果たしたんだし、文句は言わせない。俺は特に返信もせずに、携帯をブレザーにしまった。
そしてそのまま、暗い廊下を通って、寮へと向かった。
一方、生徒会室に残された各務は、頭を抱えていた。
――全く、意味がわからない。
未だに、膝に体温が残っている感覚がする。決して軽くはないが、自分よりは華奢な身体の重みも。そして間近で香った、爽やかな香り。制汗剤か香水か定かではなかったが、柑橘系のそれは、各務がきらいではない匂いだった。
「っくそ……」
慣れていないからだ、と、自分に言い聞かせる。ついでに、件の転入生のせいで、二人で仕事をするのが多かった。挙句、忙しい日々が続いている。その所為だ。
決して、特別な感情を抱いているわけでは、ない。
鈴宮の声を思い出すと胸をかき乱されるような気がして、ぐしゃりと、手の中の紙を潰した。
――面倒くせえ。
机の上に転がる飴玉が目に留まる。微かに瞳を細めて、その包み紙を、指先で撫でた。
夕飯を食べて寮の部屋に戻ると、誰もいなかった。雫が留守にするなんて、珍しい。生徒会の仕事で帰りが遅くなる俺を、雫はゲームをしたりマンガを読んだりしながら出迎えてくれるのが常だった。たまにはこんな日もあるでしょう、と、さして気にせず風呂に入る。
――日常が、徐々に変化していく。
普段では考えられないことを体験した身体と頭は疲れていて、お湯の温度が心地よかった。部屋に備え付けの風呂は狭いけれど、バスタブの中で身体を丸めて湯に浸かるのは心地よい。程よい温度を全身に受けながら、俺はぼんやりと今日一日を思い返していた。
そして、今後起こり得る非日常を考えて、そのまま風呂に沈んでいった。
風呂から上がり、半袖のTシャツとハーフパンツというラフな部屋着に着替えて、濡れた髪をタオルで拭う。牛乳を飲もうと冷蔵庫の前に行くと、部屋の扉が開いた。身体を傾けると、見慣れた顔。
「お。かえりー」
「た、だいま」
あ、挙動不審だ。思いきり顔を背けて挨拶をしてくる雫を横目に見ながら、牛乳をパックのまま口づけて呷り飲む。
「珍しくない、こんな時間まで外出とか」
時計を見ると、門限十分前だった。この一年ちょっとで、初めてかもしれない。
「あー、ちょっとな」
「あやしー。いよいよ雫くんにも恋の予感?」
「そんなんじゃねえよ」
茶化したら、低い声色で否定される。こわい。それ以上何も言えずに口を閉ざし、とりあえず牛乳を飲んだ。うまい。ちらりと雫を見ると、椅子に座って真面目な顔をして何かを考えている。その真剣な表情が珍しくて、俺は何も言えずに、牛乳を飲むしかない。
「流」
半分くらいごくごく飲んでいたら、不意に声をかけられた。
「は、はい?」
「つーか、あの写メなんだよ」
「なんだよって、ほら、言ったじゃん。お前の言う通りになったら会長とイチャついてあげるーって」
牛乳を冷蔵庫にしまい、ベッドに腰掛けた。その前、デスク前の椅子に横向きに座っている雫の表情は、いまいちよく見えない。
「俺の言う通りになったのか?」
「そー、ちょーびっくり。……転入生クン、生徒会入りだってー」
「マジで!?」
あ、普段通りかも。そう言った途端に目を輝かせてこちらを向いた雫の姿に、少しだけ安心する。
「王道学園の王道生徒会に王道転入生が入るとか、もう、たぎるしかねえな!」
「あとは、会長とラブ?」
「どーなのその辺、有り得る感じか?」
うーん……。あの会長のぐったり感から言って、どうなんだろ。俺は生徒会室での会長の様子を、雫に話した。
「それは、あれだな。最初はよく思ってなかったけど、意外な一面を知ってドッキン★ 心奪われちゃいました、的な」
「少女マンガじゃあるまいしー」
「いやいやわかんねえだろ。今まで恋に興味なかったらしいあの人なら、十分あり得る」
「うーん……相変わらず妄想力豊かだねぇ」
「褒め言葉だな」
ふっと格好つけて笑う雫はすっかりいつも通りで、安心した。
会長と転入生がどうなるのかはわからないけれど、そうなったらなったで色々大変そうだ。転入生にべったりの他の役員が頭を過ぎり、俺は息を吐いた。
「なんかあれだよね、みんな、楽しそう」
「何だいきなり」
「いや、恋すると、人生楽しくなるのかなー……なんて」
ベッドに横になり、天井を見上げたなら呟いてみる。
――先輩は、永遠のフリーマンですよね!
なんて、可愛い後輩にきっぱり断言されてしまった俺らしくない言葉かもしれない。
不意に、ぎしりとベッドが軋む音がして、顔を上げると、真上に雫の顔があった。片手をベッドにつき、俺を見下ろしている。
「じゃあ、お前もしてみるか?」
「あは、……誰とー?」
「俺と」
整った顔が、口端を上げて笑う。見慣れているつもりだけれど、改めて見ると、かわいこちゃんがきゃーきゃー騒ぐのもわかる美形だ。中身がこんなんじゃなきゃ、怖いもんなしだろうに。残念すぎる。
「それ、なんかの真似?」
「そうそう、チェリーボーイに口づけをっつー有名BLマンガで」
「はいはい、遊ばないでねー俺でー」
語りだしそうな言葉を遮って、雫の額を押しやる。ていうかどうなのそのタイトル、それで有名になれちゃうの……。なんて思っていると、不意に手首を掴まれた。顔を上げる。
「なに」
「いや、……別に」
「ちょっ、ちょっと待ってなになになに」
さらりと答えたと思ったら、そのまま引き寄せられて身体を起こされ、抱きしめられた。寝間着代わりの薄いTシャツ越しに、雫の体温を感じて眉を寄せる。ぎゅう、と、力を込められた。
「だ、だから、なに」
雫は、何もしゃべらない。俺の抵抗を封じ込めて、肩に顔を埋めてくる。な、なにこれどういう状況。幼馴染に抱きしめられてる、って、どういうこと。ぐるぐると混乱する俺をよそに、何度か抱き直されて、再び強い力で抱きしめられる。
「しずく」
「ん」
「ど、どうしたの」
呼びかけると、やっと答えが返ってきた。肩に見える頭を見下ろしながら尋ねる。
「確かめてえなと思って」
「なに、を」
「お前の感触?」
「何それ意味わかんない」
「会長だけ、ずるいだろ」
小さく呟かれた言葉に突っ込む間もなく、雫は身体を離した。俺を見て、微かに笑う。
「ドキドキした?」
「するわけねーじゃん、ていうかマジで意味わかんない」
「あ、そ」
俺はしたけど、なんて呟きは聞かないふりだ。
――ああ、雫までもが、どこかおかしくなっている。
春は怖い、そう思いながら、ベッドから降りていく雫の背中を見送る。
布団を抱きしめてごろごろしていると、梯子を上って二段目のベッドに上がろうとした雫が、顔だけ出してきた。
「ごちそうさま。……と、おやすみ」
「最後まで意味わかんねー。……おやすみ」
悪態をついて、挨拶を返すと、雫は笑った。悪戯に成功した子どもみたいな笑顔で、俺は再び息を吐く。そんな顔を見せられたら、許すしかないじゃんか。
暗くなった部屋で、布団をかぶって、無理矢理寝た。
お姫様に扮した転入生と、魔王になった会長、それに立ち向かう役員に、何故か仲裁している俺という妙な夢を見たせいで、ぐっすり寝ることは適わなかった。夢でくらい、安らいでもいいでしょー……。
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