フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき

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第1章 ミーツ!!!

10 結局、この一週間は、ほとんど仕事にならなかった。

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 結局、この一週間は、ほとんど仕事にならなかった。生徒会室に転入生が来ることはなかったけれど、役員がみんな、転入生くんにべったりだ。部活の見学に、と色々な部活を案内したり、島の見学に、と島の色々な所を案内したりと、生徒会室にいないことがほとんどだった。俺と会長だけで一週間分の仕事(しかも体育祭前の忙しい時期!)をするのは、結構しんどかった。まあ一週間したら飽きるだろうとお互いがお互いを慰めてはいたんだけれども……。

 というわけで、一週間が過ぎた、月曜日の放課後である。



 仕事が終わり、すっかり窓の外が暗くなった時間帯。今日も相変わらず生徒会室には、俺と会長しかいない。そんな中で。

 ――俺は、会長の膝に跨って、会長の首に腕を回していた。



「おい」

「はい」

「これは何の真似だ」

「だめ、だめっすー。ちゃんと俺の方見て、もうちょい熱い眼差しで」

「無茶言うな」

「えー……もう、会長ったらお茶目さん」



 カワイク言って会長の額を指で突くと、ピクリと額が動くのがわかる。



「鈴宮ァ」

「はい」

「シバかれてえか」



 うわ、こわい。ドスの効いた声に思わずびくりとするが、駄目だ、負けられない。



「じゃあ、ぎゅーってするだけ。……だめ?」



 うわあ気持ち悪い。自分でドン引くくらいの甘えた声をダメ元で出すと、会長が深く重い息を吐き出して項垂れた。好きにしろ、そんな合図だろうと勝手に解釈して、会長の広い背中に腕を回し、ぎゅうと抱きしめる。そして、こっそりと、会長に抱き着く俺、の図を携帯でパシャリと撮った。



「おい」



 バレた。



「は、はい」

「何撮ってやがる」

「うわあごめんなさい! ええとええと、……記念?」

「は?」

「会長に、ぎゅってできた記念ー……みたい、な」



 低い声にびくっとして、慌てて身体を起こして、跨ったまま言い訳を探す。首を傾げて我ながら苦しい言い訳を口にすると、会長が再び俯いた。その耳が少し赤く染まって、いるような。え、なにこれ。なにこの空気。い、い、いやな予感が、する。



「あは、だいじょぶ、悪用はしないからー」

「ったりめェだ、……っくそ、」



 本能のままに会長の膝からするりと降りて、携帯をしまう。会長が小さく洩らした声は、聞かないふりをする。

 しかし、これで、ミッションコンプリートだ。









 あんな捨て身のことをしたのには、ワケがある。二人で仕事をしている中、会長が爆弾発言を落としたのだ。



「そういえば、……補佐のことだが」

「北野くん?」



 補佐といえば、柴犬みたいにちょこまかして可愛い一年の北野くんだ。首席で入学して、自動的にその立場に収まった優秀な人材だけれど、そういえば最近姿を見ていない。



「どうしたんすか」

「あー……北野、真面目だろう」

「そっすね」

「部活もがんばっている」

「確か、野球部でしたっけ」

「ああ」



 会長が、言葉を切った。ああ、いやな予感しか、しない。自分の湯飲みを握りしめて、机の上に散らばる書類を見つめる。



「あは、俺ちょっとその先聞きたくないかもー」

「生徒会を、抜けたいと言っている」

「ほらーほらーやっぱりー聞かなきゃよかったあああ」



 真面目で頑張り屋さんでかわいい北野君。背が低いことをいじると必死になって反論してきて(「あんたらがでかすぎるんだよ俺は標準だ!」)、かわいかったなあ……。気も利くし、癒し系だった……。ああ、北野くん。坊主頭をもっとぐりぐりすればよかった……。



「そこで、……まあ、想像はつくと思うが」

「いやだーいやだーしたくないー」

「剣菱が、後任に推薦された」



 ほらやっぱりねーーー。

 思い出の中の北野くんとさよならする妄想を遮られ、俺は机に突っ伏した。人生とは、わりと、思い通りになっちゃうんじゃなかろうか。副会長の人の悪い笑顔が、頭を過ぎった。



「役員の中で過半数の賛成が出ている」

「もー可決じゃないすかそれー」

「まあ、そういうことになるな」

「会長冷静すぎー」

「仕方ねえだろ、そういう規則だ」

「そりゃ、そっすけどお」



 規則を破った人たちに、規則を守る会長が負けるっていうのも、悔しい話だ。俺は深く重い息を吐き出した。



「別に、あのコがイヤとか、そーゆーわけじゃないけど」



 ぽつりと俺が洩らす言葉を、会長は黙って聞いている。



「周りが変わってくのが、ヤだなあ」

「同感だ」



 会長も、大きく息を吐き出した。ああ、俺らって似たもの同士。

 ちらりと視線を上げると、眉間に深く刻まれた皺と、目の下にできる影が、会長の疲れを表している。俺は、「手、出して」と会長に促した。会長は躊躇いなく手を開く。犬みたい、なんてそんなこと、口には出せないけど。



「会長がんばりすぎてるから、ご褒美です」

「また飴か」

「きらい?」

「いや、……ありがとう」



 飴ちゃんを、今日は特別に五個もばらばらと落とす。それに会長は、また、わらった。穏やかに笑う表情を、久しぶりに見た気がして、思わず見入ってしまう。

 それから、――思い出してしまった。



 ――本当に雫の妄想通りになったら、会長とイチャイチャしてあげるよ。



 ――会長とラブシーンよろ



 幼馴染との約束が、脳裏を過ぎる。

 賭け事の約束を破るのは、ポリシーに反する。

 というわけで、俺は、勇気を振り絞って会長の膝に跨ったのである。ああもう、意味がわからない自分でも!

















 着信音がして、携帯を開く。差出人は見慣れた幼馴染の名前、それに画像が添付してあった。



『賭けに負けましたorz』



 メッセージはその一言、そしてリンクを辿ると、会長のがっしりした背中に抱き着いている鈴宮が、複雑そうな表情でピースサインをしている粗い画像が開かれた。角度的に、膝の上に跨っているのだろう。それを目にすると、小さく息を吐く。



 ――ああ、やだやだ。



 ネタでしかないと思っていたのに、こんなに胸糞悪くなるなんて、想定外だ。奥歯を噛み締めて、『屈辱的な表情の流たん萌えwww』と、普段の自分とは違う方向性の返信をしてから、ハッとする。



 ――そこは、二人の絡みへのコメントじゃなきゃダメだろ俺え! 腐男子失格!!



 ガン、と、白い壁に頭をぶつけた。

 脳が揺れる感覚がして、ちょうどいいと思う。

 頭を冷やさなきゃ、冷静に顔を見ることもできない。












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