フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき

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第1章 ミーツ!!!

9 窓の外に浮かぶ景色は、相変わらずきれいな青と白だった。

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 窓の外に浮かぶ景色は、相変わらずきれいな青と白だった。午前中の授業が終わる鐘が鳴って、俺は大きく背伸びした。



「久遠くん、今日も屋上?」

「ああ」

「今日もおべんと?」

「ああ」

「今度俺にも作って」

「ああ」

「え、マジで」



 弁当袋を持って立ち上がった久遠くんが、さらりと頷いてくれて俺は驚く。久遠くんは不思議そうな顔をして首を傾げた。無造作に散らした赤い髪、顎から生える髭、耳からぶら下がるピアス、胸元を大きく開けたシャツ――どこからどう見ても不良な久遠くんは、けれど誰よりも真面目で良いやつだ。



「嫌いなもんはあるか」

「ないない、なんでもすき!」

「俺と同じもんでよければ、明日持ってくる」

「マジで! ちょー楽しみ、ありがとー久遠くん愛してるー」



 久遠くんを追いかけるようにして立ち上がって廊下まで行き、にっこり満面の笑みで感謝の気持ちを表したら、久遠くんが固まった。あれ、引かれた?



「そういうのは、意中の人に言ってやれ」



 あ、照れたのかな。久遠くんは、意外(でもなんでもないかもしれないけど)に、ピュアボーイだ。



「意中の人、ねえ」

「誰彼かまわずタラすのやめろタラシ」



 ぼんやり考えていると、腰に強い衝撃が……雫くんの長い脚で蹴られてしまったようだ。



「痛ェってばー。タラシじゃねーし」

「無自覚なのが一番怖ェな。大丈夫か久遠くん」

「何その危険物扱い」

「俺は大丈夫だ。……腰は大事にしてやれ」



 久遠くんは俺の身体を気遣って、そして静かに屋上へと向かって行った。うーん、クール……。



「学食、行くだろ?」

「何事もなかったかのよーに……、行く行く」



 久遠くんを見送ると、雫が振り返って聞いてきた。普段の爽やかっぷりに腹が立って、俺は腰を大袈裟に撫でながら頷いた。



「あ、明日、久遠くんに飯作ってもらうことになった」

「何!? 手作り弁当、だと……!」

「ふふふ。羨ましかろう」

「くっそー、羨ましい。あれか、あーんとかしてもらうのかなんだそれ俺も混ぜろ」

「やだー」

「何故!?」

「雫がいたら煩くなりそう」

「さ、差別だ……」



 がっくり項垂れている雫をよそに、学食に向かって歩いた。







 昼時の学食は、相変わらず人が多い。ちょうど二人分のスペースを見付けて、荷物を置いた。今日は特に、普段と変わらないようだ。――一部分を除いては。



「なんつーか、改めて見ると、スゲェな」



 いつの間にか回復した雫も、俺と同じ方向を見て嘆息している。「ね」と同意して、小さく息を吐いた。ちょうど学食の中央に、例の転入生を取り囲むようにして人だかりができていた。

 そもそも、副会長、双子、平良という豪華たる生徒会役員が一つのテーブルにいるってだけでそれぞれのファンは発狂モンだろうに、その中央を陣取るのが見目麗しい転入生とあらば、興奮しておちおち飯も食えないってわけだ。うーん、みんな忙しそう。



「どーなの、雫くんも大興奮?」

「いやあ……」



 あ、即答すると思ったのに。

 副会長が膝に転入生を乗せて、その転入生の口元に、双子の片方がスプーンを差し出している。平良は飲み物を準備していた。転入生は少し恥ずかしそうだが、それを受け入れているようだった。



「興奮よりも驚きが……」

「まあ、そーよね」



 慣れてきたら大興奮かもしれない。要注意だ。役員たちを観察するのもほどほどに、俺は財布を持って食券を買いに立ち上がった。雫も一緒に立ち上がる。



「今日はBセットかなー」

「俺は愛すべきAセット」

「よく飽きないよね」

「愛があれば飽きることはない」

「流石変態」



 軽口を叩きながら自販機の列に並んで、食券を買う。敢えて騒動の中心を避けたのだが、人生、そううまくはいかないらしい。

 定食を持って自分の席に戻ろうとしたときに、ばっちり目が合ってしまった。転入生と、彼を抱きかかえる副会長と。



「いやいや、どーもどーも。いっすね、楽しそーで」

「お前も混ざるか?」

「いやいやいや、遠慮するっすー」

「す、すみません……昨日、ズボン、大丈夫でしたか?」



 ふは。副会長の膝の上で申し訳なさそうにする彼の様子がなんだかツボで、小さく笑ってしまった。それをどう受け取ったのか、彼は耳元まで真っ赤に染めて、俯いた。



「だから、タラすなって」

「い、今ので何がどうなったら……」

「流様の笑顔は百万ドル、らしいぜ」



 隣の雫はぼそりと囁くと、さっさと自分の席に戻ってしまった。少しは助けてくれ幼馴染。転入生が真っ赤になると、周りが黙っちゃいない。副会長なんか心なしか悔しそうだし。やめてやめてー。



「ズボンって何のことだ」

「いやちょっとかるーい事故があって、全然大丈夫っすよすぐ乾いたし」

「大方、剣菱と関わりたくてわざとぶつかったんだろう」



 誰がやるかよそんなことあんたじゃあるまいし、……なんて本音はもちろん言えない。俺は引きつった笑みを浮かべた。



「とにかく、大丈夫だから。もー気にしないで、俺も気にしてないし、早くご飯食いたいし。とゆーわけで、副会長も気にしないでくださいー」



 俺にしては早口で言って、ぺこりと頭を下げて「お邪魔しましたー」と自分の席に戻った。ああ、やっぱり恋って、おそろしい……。








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