フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき

文字の大きさ
上 下
10 / 72
第1章 ミーツ!!!

9 窓の外に浮かぶ景色は、相変わらずきれいな青と白だった。

しおりを挟む









 窓の外に浮かぶ景色は、相変わらずきれいな青と白だった。午前中の授業が終わる鐘が鳴って、俺は大きく背伸びした。



「久遠くん、今日も屋上?」

「ああ」

「今日もおべんと?」

「ああ」

「今度俺にも作って」

「ああ」

「え、マジで」



 弁当袋を持って立ち上がった久遠くんが、さらりと頷いてくれて俺は驚く。久遠くんは不思議そうな顔をして首を傾げた。無造作に散らした赤い髪、顎から生える髭、耳からぶら下がるピアス、胸元を大きく開けたシャツ――どこからどう見ても不良な久遠くんは、けれど誰よりも真面目で良いやつだ。



「嫌いなもんはあるか」

「ないない、なんでもすき!」

「俺と同じもんでよければ、明日持ってくる」

「マジで! ちょー楽しみ、ありがとー久遠くん愛してるー」



 久遠くんを追いかけるようにして立ち上がって廊下まで行き、にっこり満面の笑みで感謝の気持ちを表したら、久遠くんが固まった。あれ、引かれた?



「そういうのは、意中の人に言ってやれ」



 あ、照れたのかな。久遠くんは、意外(でもなんでもないかもしれないけど)に、ピュアボーイだ。



「意中の人、ねえ」

「誰彼かまわずタラすのやめろタラシ」



 ぼんやり考えていると、腰に強い衝撃が……雫くんの長い脚で蹴られてしまったようだ。



「痛ェってばー。タラシじゃねーし」

「無自覚なのが一番怖ェな。大丈夫か久遠くん」

「何その危険物扱い」

「俺は大丈夫だ。……腰は大事にしてやれ」



 久遠くんは俺の身体を気遣って、そして静かに屋上へと向かって行った。うーん、クール……。



「学食、行くだろ?」

「何事もなかったかのよーに……、行く行く」



 久遠くんを見送ると、雫が振り返って聞いてきた。普段の爽やかっぷりに腹が立って、俺は腰を大袈裟に撫でながら頷いた。



「あ、明日、久遠くんに飯作ってもらうことになった」

「何!? 手作り弁当、だと……!」

「ふふふ。羨ましかろう」

「くっそー、羨ましい。あれか、あーんとかしてもらうのかなんだそれ俺も混ぜろ」

「やだー」

「何故!?」

「雫がいたら煩くなりそう」

「さ、差別だ……」



 がっくり項垂れている雫をよそに、学食に向かって歩いた。







 昼時の学食は、相変わらず人が多い。ちょうど二人分のスペースを見付けて、荷物を置いた。今日は特に、普段と変わらないようだ。――一部分を除いては。



「なんつーか、改めて見ると、スゲェな」



 いつの間にか回復した雫も、俺と同じ方向を見て嘆息している。「ね」と同意して、小さく息を吐いた。ちょうど学食の中央に、例の転入生を取り囲むようにして人だかりができていた。

 そもそも、副会長、双子、平良という豪華たる生徒会役員が一つのテーブルにいるってだけでそれぞれのファンは発狂モンだろうに、その中央を陣取るのが見目麗しい転入生とあらば、興奮しておちおち飯も食えないってわけだ。うーん、みんな忙しそう。



「どーなの、雫くんも大興奮?」

「いやあ……」



 あ、即答すると思ったのに。

 副会長が膝に転入生を乗せて、その転入生の口元に、双子の片方がスプーンを差し出している。平良は飲み物を準備していた。転入生は少し恥ずかしそうだが、それを受け入れているようだった。



「興奮よりも驚きが……」

「まあ、そーよね」



 慣れてきたら大興奮かもしれない。要注意だ。役員たちを観察するのもほどほどに、俺は財布を持って食券を買いに立ち上がった。雫も一緒に立ち上がる。



「今日はBセットかなー」

「俺は愛すべきAセット」

「よく飽きないよね」

「愛があれば飽きることはない」

「流石変態」



 軽口を叩きながら自販機の列に並んで、食券を買う。敢えて騒動の中心を避けたのだが、人生、そううまくはいかないらしい。

 定食を持って自分の席に戻ろうとしたときに、ばっちり目が合ってしまった。転入生と、彼を抱きかかえる副会長と。



「いやいや、どーもどーも。いっすね、楽しそーで」

「お前も混ざるか?」

「いやいやいや、遠慮するっすー」

「す、すみません……昨日、ズボン、大丈夫でしたか?」



 ふは。副会長の膝の上で申し訳なさそうにする彼の様子がなんだかツボで、小さく笑ってしまった。それをどう受け取ったのか、彼は耳元まで真っ赤に染めて、俯いた。



「だから、タラすなって」

「い、今ので何がどうなったら……」

「流様の笑顔は百万ドル、らしいぜ」



 隣の雫はぼそりと囁くと、さっさと自分の席に戻ってしまった。少しは助けてくれ幼馴染。転入生が真っ赤になると、周りが黙っちゃいない。副会長なんか心なしか悔しそうだし。やめてやめてー。



「ズボンって何のことだ」

「いやちょっとかるーい事故があって、全然大丈夫っすよすぐ乾いたし」

「大方、剣菱と関わりたくてわざとぶつかったんだろう」



 誰がやるかよそんなことあんたじゃあるまいし、……なんて本音はもちろん言えない。俺は引きつった笑みを浮かべた。



「とにかく、大丈夫だから。もー気にしないで、俺も気にしてないし、早くご飯食いたいし。とゆーわけで、副会長も気にしないでくださいー」



 俺にしては早口で言って、ぺこりと頭を下げて「お邪魔しましたー」と自分の席に戻った。ああ、やっぱり恋って、おそろしい……。








しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

気まぐれ先生の学園生活

海下
BL
これは主人公 成瀬 澪が愛おしまれ可愛がられる。 そんな、物語である。 澪の帝紀生時代もいつか書きたいと思ってます、なんて。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜

小屋瀬 千風
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。 主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。 他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆ 〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定) アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。 それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 【超重要】 ☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ) また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん) ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな! (まぁ「長編」設定してますもん。) ・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。 ・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。 ・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

俺の愉しい学園生活

yumemidori
BL
ある学園の出来事を腐男子くん目線で覗いてみませんか?? #人間メーカー仮 使用しています

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...