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第1章 ミーツ!!!
2 「流、聞いてくれ」
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「流、聞いてくれ」
風呂に入り終わり、明日の支度を終えてさあ寝ようかとしたときに、同室の雨乃雫が、真面目な顔をして俺を引き止めた。うわあ嫌な予感。雫は幼なじみで、親友とも呼べる存在だ。中学から一緒で、何を隠そう、俺がこの学校を受験することになった諸悪の根源……いやいや、きっかけも、この男だった。
「何ー、俺おねむなんすけどお」
「いよいよ、待ちに待った転入生がやってくる!」
「人の話聞いてー」
「王道学園に王道生徒会、そしてさらに王道転入生!? くー、たぎるぜ!」
そしてこの雨乃雫という人は、モデル体型のイケメンながら、非常に変態であった。残念すぎるぜ、友よ…。
「うわあほんとに気持ち悪い」
「輝いてると言ってくれ」
「無理無理ィ。……ていうか、この時期に転入生とか、おかしくない?」
ちなみに今は五月。どうせなら入学式に来いよって時期である。濡れた髪をタオルでごしごしと拭いながら尋ねると、「そこなんだよ!」と、がしっと肩を掴まれる。こんなに興奮している雫を見るのは、俺の生徒会入りが決まったとき以来だ(ちなみにそのときは、「チャラ男幼なじみが生徒会会計とかうますぎる」とか何とか言っていた。チャラ男呼ばわりに腹が立って殴った)。
「時期はずれとか絶対ェワケありに決まってる! トレジャーハンターとか祓魔師とか……くう、熱いぜ!」
あかん、妄想が爆発してる。瞳を輝かせる幼なじみを見て、俺はそっと頬を撫でた。
「マジで、イケメンなのにもったいねー」
「萌えに顔は関係ない」
あ、格好付けた。ふっと笑って髪を掻き上げ、満足したのか雫は俺から離れて行った。
「まあ、どんなワケあり転入生でも、俺には関係ないけどねぇ」
「甘い、甘いぞ流」
「へ?」
ぼそっと洩らしたら、再び雫が瞳を光らせた。
「王道学園に王道生徒会、そして王道転入生とくれば! 転入生はいずれ生徒会に関わってくる、さしずめ会長辺りと恋に落ちるんじゃね?」
うわあ真顔で何言ってんのこの子……。
「あのね、男子校だようち。転入生も男の子でしょ。会長も男の子だよ」
「男の子って容姿じゃねーけどな。つか今更それを言うか、このホモの巣窟で」
「う……」
そう。周りに男しかいないこの学園は、可哀相に六割の生徒が男に走る。思い返せば、去年何度か哀れなバンビちゃんに告白されて、必死で逃げたような……(だってあの子たち、「俺は女の子が好きなのー」という断り文句が通用しない。「女より良いから確かめて」とか言ってくる。こわい)。ちなみに残り二割が雫を代表とする二次元・妄想専門で、残り一割が生徒会長を代表とする恋愛なんて興味ねえぜ・夏、最後の一割が俺を代表とする女の子大好き派である。うわ、やばい。少子化の責任の一端、絶対この学園が担っちゃってるよ……。
「それに、生徒会役員はもう満杯だよー。入る余地ないって」
「それはこう……偶然という名の必然というか、運命のイタズラで、生徒会入りしちゃうんだよ。俺とお前が同室のようにな」
確かに、まさか雫と同室になるなんて思わなかった。完全なランダムで部屋分けはされているはずだから、全然期待もしていなかったのに。気を遣わなくていいっていうのは、すごく楽で、正直助かっているけれど。
「うーん……本当に雫の妄想通りになったら、会長とイチャイチャしてあげるよ」
「むしろそっちのが妄想できねえわ」
「うん、俺も無理」
あの唐変木で無愛想で他人に興味の欠片もない生徒会長とイチャイチャするなんて、想像すらできない。雫的に喜ぶかと思ったけど、食い付きはイマイチだった。つまんない。
「まあどんなのが来ても、今まで通り適度にサボッて適度に楽しんで仕事ができれば良いかなー」
「本当に興味ねーのな」
「だって男でしょ?」
「どうする、女子と見間違う超絶美少年だったら」
「でも男でしょ?」
ついてるのに興味はありませーん。言うと雫は肩を竦め、「お前のファンが可哀相になってきた」と呟いた。知らんし、そんなのー。俺のせいじゃありません。それに。
「いーんだよ、あの子たちはそーゆーところも含めてきゃーきゃー言いたいんだから」
「振り向いてくれないところが良い、ってか」
「そうそう」
「でも彼女もいないんだろ? ……罪な男だなお前」
「二次元にしか興味ないからファンとかそういうのいらないですって公言してる誰かさんよりはマシですう」
「いやマジ……三次元怖ェよ」
遠くを見る雫に、イケメンも大変だなと肩を叩く。そう、この学園には、学園公認のファンクラブがある。親衛隊みたいなものだ。生徒会役員になると漏れなくついてくる特典で、他にもイケメンだったり可愛かったりすれば、有志が集まってファンクラブを結成する。……みんな暇なんだよ。俺にもファンクラブはあって、にこっと笑いかけるときゃーきゃー言って顔を赤く染めたりするから、素直にかわいいとは思う。男でさえなきゃ。雫は一年のときからその爽やかイケメンな見た目と面倒見のよさからファンクラブが創られていたんだけど、ちょっとしたトラブルがあって解体した。それ以来、何度も持ち上がる創設の話を、雫は断っている。(多分、本人非公式の形で存在している気がする)
「うわ、もーこんな時間じゃん。俺は寝る」
「明日は普通に6時半?」
「ん、よろしく」
「はいはい。じゃ、おやすみ」
「おやすみなさーい」
雫が電気を消して、二段ベッドの上に上がる。セレブリティな学園なのに、寮の部屋はわりと狭い。二人部屋で、二段ベッドというのが何ともケチくさい。その代わり、風呂・トイレとキッチンはそれぞれの部屋についている。
布団を被って、目を瞑る。その日は、謎の転入生がやってきて、何故か街に溢れた魑魅魍魎と、俺たち生徒会が戦うという妙な夢のせいで、あんまりぐっすり眠れなかった。
「流、聞いてくれ」
風呂に入り終わり、明日の支度を終えてさあ寝ようかとしたときに、同室の雨乃雫が、真面目な顔をして俺を引き止めた。うわあ嫌な予感。雫は幼なじみで、親友とも呼べる存在だ。中学から一緒で、何を隠そう、俺がこの学校を受験することになった諸悪の根源……いやいや、きっかけも、この男だった。
「何ー、俺おねむなんすけどお」
「いよいよ、待ちに待った転入生がやってくる!」
「人の話聞いてー」
「王道学園に王道生徒会、そしてさらに王道転入生!? くー、たぎるぜ!」
そしてこの雨乃雫という人は、モデル体型のイケメンながら、非常に変態であった。残念すぎるぜ、友よ…。
「うわあほんとに気持ち悪い」
「輝いてると言ってくれ」
「無理無理ィ。……ていうか、この時期に転入生とか、おかしくない?」
ちなみに今は五月。どうせなら入学式に来いよって時期である。濡れた髪をタオルでごしごしと拭いながら尋ねると、「そこなんだよ!」と、がしっと肩を掴まれる。こんなに興奮している雫を見るのは、俺の生徒会入りが決まったとき以来だ(ちなみにそのときは、「チャラ男幼なじみが生徒会会計とかうますぎる」とか何とか言っていた。チャラ男呼ばわりに腹が立って殴った)。
「時期はずれとか絶対ェワケありに決まってる! トレジャーハンターとか祓魔師とか……くう、熱いぜ!」
あかん、妄想が爆発してる。瞳を輝かせる幼なじみを見て、俺はそっと頬を撫でた。
「マジで、イケメンなのにもったいねー」
「萌えに顔は関係ない」
あ、格好付けた。ふっと笑って髪を掻き上げ、満足したのか雫は俺から離れて行った。
「まあ、どんなワケあり転入生でも、俺には関係ないけどねぇ」
「甘い、甘いぞ流」
「へ?」
ぼそっと洩らしたら、再び雫が瞳を光らせた。
「王道学園に王道生徒会、そして王道転入生とくれば! 転入生はいずれ生徒会に関わってくる、さしずめ会長辺りと恋に落ちるんじゃね?」
うわあ真顔で何言ってんのこの子……。
「あのね、男子校だようち。転入生も男の子でしょ。会長も男の子だよ」
「男の子って容姿じゃねーけどな。つか今更それを言うか、このホモの巣窟で」
「う……」
そう。周りに男しかいないこの学園は、可哀相に六割の生徒が男に走る。思い返せば、去年何度か哀れなバンビちゃんに告白されて、必死で逃げたような……(だってあの子たち、「俺は女の子が好きなのー」という断り文句が通用しない。「女より良いから確かめて」とか言ってくる。こわい)。ちなみに残り二割が雫を代表とする二次元・妄想専門で、残り一割が生徒会長を代表とする恋愛なんて興味ねえぜ・夏、最後の一割が俺を代表とする女の子大好き派である。うわ、やばい。少子化の責任の一端、絶対この学園が担っちゃってるよ……。
「それに、生徒会役員はもう満杯だよー。入る余地ないって」
「それはこう……偶然という名の必然というか、運命のイタズラで、生徒会入りしちゃうんだよ。俺とお前が同室のようにな」
確かに、まさか雫と同室になるなんて思わなかった。完全なランダムで部屋分けはされているはずだから、全然期待もしていなかったのに。気を遣わなくていいっていうのは、すごく楽で、正直助かっているけれど。
「うーん……本当に雫の妄想通りになったら、会長とイチャイチャしてあげるよ」
「むしろそっちのが妄想できねえわ」
「うん、俺も無理」
あの唐変木で無愛想で他人に興味の欠片もない生徒会長とイチャイチャするなんて、想像すらできない。雫的に喜ぶかと思ったけど、食い付きはイマイチだった。つまんない。
「まあどんなのが来ても、今まで通り適度にサボッて適度に楽しんで仕事ができれば良いかなー」
「本当に興味ねーのな」
「だって男でしょ?」
「どうする、女子と見間違う超絶美少年だったら」
「でも男でしょ?」
ついてるのに興味はありませーん。言うと雫は肩を竦め、「お前のファンが可哀相になってきた」と呟いた。知らんし、そんなのー。俺のせいじゃありません。それに。
「いーんだよ、あの子たちはそーゆーところも含めてきゃーきゃー言いたいんだから」
「振り向いてくれないところが良い、ってか」
「そうそう」
「でも彼女もいないんだろ? ……罪な男だなお前」
「二次元にしか興味ないからファンとかそういうのいらないですって公言してる誰かさんよりはマシですう」
「いやマジ……三次元怖ェよ」
遠くを見る雫に、イケメンも大変だなと肩を叩く。そう、この学園には、学園公認のファンクラブがある。親衛隊みたいなものだ。生徒会役員になると漏れなくついてくる特典で、他にもイケメンだったり可愛かったりすれば、有志が集まってファンクラブを結成する。……みんな暇なんだよ。俺にもファンクラブはあって、にこっと笑いかけるときゃーきゃー言って顔を赤く染めたりするから、素直にかわいいとは思う。男でさえなきゃ。雫は一年のときからその爽やかイケメンな見た目と面倒見のよさからファンクラブが創られていたんだけど、ちょっとしたトラブルがあって解体した。それ以来、何度も持ち上がる創設の話を、雫は断っている。(多分、本人非公式の形で存在している気がする)
「うわ、もーこんな時間じゃん。俺は寝る」
「明日は普通に6時半?」
「ん、よろしく」
「はいはい。じゃ、おやすみ」
「おやすみなさーい」
雫が電気を消して、二段ベッドの上に上がる。セレブリティな学園なのに、寮の部屋はわりと狭い。二人部屋で、二段ベッドというのが何ともケチくさい。その代わり、風呂・トイレとキッチンはそれぞれの部屋についている。
布団を被って、目を瞑る。その日は、謎の転入生がやってきて、何故か街に溢れた魑魅魍魎と、俺たち生徒会が戦うという妙な夢のせいで、あんまりぐっすり眠れなかった。
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