寂れた無限の奉仕

未来の小説家

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第一章

第五話

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 気の毒なもんだ。こんなおれに重ねられるなんてな。
「白井さんどうぞー」
 おれは相当考え込んでいたみたいだ。少年はいつの間にかいなくなっていた。どんないじめを受けていたのか気になっていたので惜しいことをしたな。
 会社の話や症状を聞かれすぐに鬱であると診断された。
「これで診断を終わります。とりあえず抗うつ剤を処方しときますね。よろしいですか。」
「あの、腕のない老人が腕が生えたように見えたのですがこれって鬱の症状なのでしょうか?」
「確かに幻覚は鬱の症状の1つですが、周りに監視されているように見えたり、フラッシュバック、いないはずの人が見えるなどはありますが、ないはずの部位が見えるというのは聞いたことありませんね。もしかしたらそうかもしれませんが。」

「そうなんですか。先生ありがとうございました。」
 あれはもしかすると本当だったのか。いやそんなことはない。治療費を払ったおれは隣の薬局に入る。奥のほうにあの親子がいた。
「東吾。学校はいけそう。」
「ううん、まだ、まって。」
 いじめが時間によって解決することなんてないのにな。むしろ悪化するだけだ。弱みを見せれば、純粋な悪意はそのような弱みに容易につけこむ。常に共通の敵を作りたい人間に人の弱みほど格好の相手だからだ。
 おれがいじめられたのは小学3年生の時だ。理由は学校のみんなと入っていたサッカークラブが違うかったからだ。まあ元の根暗な正確なせいでもあるが。おれの小学校は田舎の学校だった。校区には団地があり、多くの生徒がお金のない家庭の子どもだった。その中ではまだ育ちの良いほうであったと思う。親が教育熱心だったためか何かスポーツをということで、父が好きなサッカーを始めることになったのだ。おれの入ったサッカーチームは市内随一の強さで、入った時の6年生は全国大会に出場したほどだった。その分会費も高かったと思う。
 これが弱みなのかと思うかもしれないが、純粋な悪意にとってこの差というのは虐げられるに十分な差異だったのだろう。別に自分で選んだチームでもないのにな。最初はその野球チームの子どもたちからだけだったが、それが全体に広がっていった。あまり覚えていないが相当つらかった記憶がある。

 だがある日おれはいじめられっ子じゃなくなった。その他の共通の敵を作ったからだ。正直学校にも行きなくなかったが母親に無理やり行かされていた。いつものように校庭の裏でいじめっ子たちに殴られていたおれは耐えればいつかはなくなると思って我慢していた。いつもなら5分くらいで終わるのだが、その日は1時間ぐらい殴られ続けていた。今、振り返ればよくそんな長い時間殴り続ける体力あるな。
 するとメガネのやせ形の中川というやつが入ってきておれを蹴った。この時におれの慎重と大胆のギャップの激しさがでたのだ。急にキレたおれは中川をぼっこぼこにした。すると周りのいじめっ子たちも中川を殴りだしたのだ。おれは血の気が引いていたが、今やめればまた俺が標的になると直感的に感じ殴り続けた。正直心が痛かった。
 その日から中川がみんなの標的になった。罪悪感を覚えたがそれをとめるような勇気は俺にはなかった。あの時俺がいじめっ子の中心だった奴に殴っていたらどうなっていたんだろうか。
 
 少年を見るとかなりいい体をしている。小学生70キロくらいありそうな体格だった。ラグビーでもしているのだろうか。彼ならいじめっ子に立ち向かう勇気さえあればおれのできなかった共通の敵を作らない解決に導けるのではないだろうか。彼にそんな勇気を与えたいそんな俺がいた。

「お母さん、僕学校に行くよ。」
 元気な声が薬局に響いた。耳を疑った。さっきまであれだけ学校に行きたがらなかった少年が急に学校に行くと言い出したのだ。不思議なこともあるもんだと薬をもらって家に帰った。
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