32 / 34
第三章 アイデンティティ崩壊フェアリーズ
妖精のいる教室
しおりを挟む
さて、そんで朝の教室だいっと。
侵入として、かつこのクラスの一員として堂々と。オレは高らかに右手を上げる。
「ちーっす!」
「ちょっとレオン、入り方が派手すぎない?」
オレとローザがふたり揃って教室の前方の扉から元気よーく入っていくと、無数の人間の目がジトッとオレらを睨んだ。
いやホントはね。無数ではないよね。このクラスにいるせいぜいたかだか三十人分くらいってなもんだよ。
登校時間は八時二十分までのハズだけど、八時十分になってる今ほとんどのメンバーが来ているようだな。
というか、これで全員?
マジで異様な光景だな。
オレは両手をメガホンにした。王、帝王、神。どうすりゃそこまでノボせられんだよっていうクラスメイトの委員長に、朝の挨拶をしてやつのだ。
「おーい、神井くーん」
「……気安く呼ばないでくれないか」
「っていうかあー、パーフェクト優等生帝王クンの神井くんがそんな座り方して、いいんですかーっ」
というオレの感想ももっともだろう。
いやコイツ学校特有の木のテーブルの上に足組んで座ってんぞ。いいのか。丸子先生はじめ教師はなんも言わんのか。そんなんだからこの教室は腐敗したんじゃねーのかよ。あともうひとつ関係のねえ疑問なんだけど、どうして学校のテーブルってーのはいつまでも木目があって素材感溢れる牧歌的なモノなんだろうな? 妖精みたいに善良な生き物が使うわけでも、あるまいし。
そんな風にやたらとテーブルについてのみ感想を言いたくなるのも、それもこれもホントは目を覆いたくなるような光景が広がっているからだ。
神井と……そして篠町以外は全員、直立不動でゴーストのように立っていて。こええよ。
そんで、恩田は。ローザに共感の嵐を呼び起こして一旦は完全にオレたちの仲間で味方かと思われた、恩田は――。
床に直接座り込み、ひざまずいて。神井の脚に、もたれかかっていたのだから。
――それは控えめに言っても気味の悪い光景だった。
「いやいや神井よお、朝の挨拶してるだけじゃんか?」
「……仲間でも、ないくせに」
「いやいやー、仲間でしょってー。俺も、ローザも。もう、この三年一組の仲間。なーっ、だよなローザ」
「うん、そうよそうよ。そういうことよね!」
打って変わって明るいローザに向けられるクラス全体の不振の目。……まあ、無理もない。
俺もその明るさに負けないようにするぜ。
「でさあ、昨日俺たち転校してきたばっかでさあ」
気さくにしゃべくり続けながら俺はどかどかと神井に近づき、その隣の椅子にどっかりと腰を下ろした。……あー、これで俺もお行儀の悪い問題児の仲間入りかあ。そういうわけなら足も組んでやろうか――って思ったけど、なんかオレのガラじゃないんでやめた。
ローザといえば、黒板の前で立っている。きゅっ、と両方の拳を握ったのがオレにはわかった。萎縮して、ではない。これから始まる真の自己紹介に向けて、まあ最終的なメンタルのコンディションを整えてるってなとこかな。
「昨日は緊張もあって充分に自己紹介できなかったと思うワケー? ほら、オレら遠いとこから来たわけだしさ」
そう、妖精界から。
妖精にとって人間はこんなにも重大な存在なのに、人間サマがたはちっともオレらの存在なんか知りやしねえ。
そのために、オレたちが生涯を捧げることも。
存在意義も生きる目標も、オレたち妖精はすべて人間の為だけに在るとされているのに。
オレだって。もし人間であれば。
普通に。ゲーマーとして。それについでに。ローザと――。
「……おーい篠町さん。手伝ってほしいんだよな」
よくよく見ればこの教室の王の神井のほかには、たったひとりだけ着席をしている篠町。そういう立ち振る舞いが許されている占い師の彼女。
事前に打ち合わせだってしたっていうのに、語りかけてこちらに向けてくる目はジトジトギロギロと鋭くて。……おーおー、怖い怖い。
神井が口を挟んでくる。偉そうに自信たっぷりに、もはや本性を取り繕おうともしないで。
「占い師には、通達済みだよ。既に事情はこちらの耳に入っている。こっそり裏で行動できるかと思ったんだろうが、ご愁傷さま――」
「あー、いやいや、あんがとー! やっぱり篠町は神井にチクッてくれたんだなあ」
もちろん、そうなることを想定して動いたのだ!
「なあ篠町。さっきも頼んだだろ、占ってくれよ。――オレたちの、正体を」
「……あんたら全然食えんヤツらだ」
「そう。なぜならオレとローザは、この腐った人間社会を滅ぼすかどうか決定できる――善良なる妖精だから!」
チェンジ! とオレは高らかに叫んだ。
あっという間に、妖精装束に。
ローザも同じようにして、普段の妖精の格好になった。
呆気に取られる教室。
オレたちは、妖精の本領を発揮することにした。
まずは羽で、黒板の前までひとっ飛び。軽い軽い、こんな飛行くらい。
そして事前に打ち合わせていた通り、ロッドを持って、呪文を楽しそうに高らかに唱えながら。
オレの水とローザの炎で、イリュージョンをつくる!
パフォーマンスだ。こんなもの。――人間なんかには、無理だろう?
……唐突な朝の出し物に、他の学年のクラスからも人が集まってきているのを感じる。
やいの、やいの――と。
「でもさあ、人間っていいよなあ!」
水のかたまりを弄びながらオレは叫んだ。
「そうやって、汚いコトしてひととぶつかれてよお。神井も恩田も汚い感情が最高だわ!」
形としては同じ幼馴染同士であるはずの神井と恩田みたいに。
オレたちは、恋愛的にアヤしい関係になることすら許されない。
「なあ篠町よお。占ってくれよ。オレは、オレたちは、何だ?」
呼びかけているのは占い師に対してでも、まっすぐ見据えてるのは炎の使い手。
燃えるような炎属性の優等生の妖精、ロザライン。
「すくなくとも人間じゃねえんだろ――おまえらの目には、オレはどうやって見えている?」
変人か?
人間以外か?
それとも――。
「……うちにはようわからんけどよお」
篠町は、紫色の占い師は、言う。
「――いいひと、だよな。あんたら。ほんとは。必死で偽悪的になろうとしてるけど、まあ……人間以外の超常的存在なら納得――」
オレは満足して、ひとつ微笑んだ。
ローザもおんなじように笑っていた。
その瞬間、ふっと身体が浮遊した――この異変を察知して妖精界に呼び戻されたのだと、オレにはすごくわかった。
侵入として、かつこのクラスの一員として堂々と。オレは高らかに右手を上げる。
「ちーっす!」
「ちょっとレオン、入り方が派手すぎない?」
オレとローザがふたり揃って教室の前方の扉から元気よーく入っていくと、無数の人間の目がジトッとオレらを睨んだ。
いやホントはね。無数ではないよね。このクラスにいるせいぜいたかだか三十人分くらいってなもんだよ。
登校時間は八時二十分までのハズだけど、八時十分になってる今ほとんどのメンバーが来ているようだな。
というか、これで全員?
マジで異様な光景だな。
オレは両手をメガホンにした。王、帝王、神。どうすりゃそこまでノボせられんだよっていうクラスメイトの委員長に、朝の挨拶をしてやつのだ。
「おーい、神井くーん」
「……気安く呼ばないでくれないか」
「っていうかあー、パーフェクト優等生帝王クンの神井くんがそんな座り方して、いいんですかーっ」
というオレの感想ももっともだろう。
いやコイツ学校特有の木のテーブルの上に足組んで座ってんぞ。いいのか。丸子先生はじめ教師はなんも言わんのか。そんなんだからこの教室は腐敗したんじゃねーのかよ。あともうひとつ関係のねえ疑問なんだけど、どうして学校のテーブルってーのはいつまでも木目があって素材感溢れる牧歌的なモノなんだろうな? 妖精みたいに善良な生き物が使うわけでも、あるまいし。
そんな風にやたらとテーブルについてのみ感想を言いたくなるのも、それもこれもホントは目を覆いたくなるような光景が広がっているからだ。
神井と……そして篠町以外は全員、直立不動でゴーストのように立っていて。こええよ。
そんで、恩田は。ローザに共感の嵐を呼び起こして一旦は完全にオレたちの仲間で味方かと思われた、恩田は――。
床に直接座り込み、ひざまずいて。神井の脚に、もたれかかっていたのだから。
――それは控えめに言っても気味の悪い光景だった。
「いやいや神井よお、朝の挨拶してるだけじゃんか?」
「……仲間でも、ないくせに」
「いやいやー、仲間でしょってー。俺も、ローザも。もう、この三年一組の仲間。なーっ、だよなローザ」
「うん、そうよそうよ。そういうことよね!」
打って変わって明るいローザに向けられるクラス全体の不振の目。……まあ、無理もない。
俺もその明るさに負けないようにするぜ。
「でさあ、昨日俺たち転校してきたばっかでさあ」
気さくにしゃべくり続けながら俺はどかどかと神井に近づき、その隣の椅子にどっかりと腰を下ろした。……あー、これで俺もお行儀の悪い問題児の仲間入りかあ。そういうわけなら足も組んでやろうか――って思ったけど、なんかオレのガラじゃないんでやめた。
ローザといえば、黒板の前で立っている。きゅっ、と両方の拳を握ったのがオレにはわかった。萎縮して、ではない。これから始まる真の自己紹介に向けて、まあ最終的なメンタルのコンディションを整えてるってなとこかな。
「昨日は緊張もあって充分に自己紹介できなかったと思うワケー? ほら、オレら遠いとこから来たわけだしさ」
そう、妖精界から。
妖精にとって人間はこんなにも重大な存在なのに、人間サマがたはちっともオレらの存在なんか知りやしねえ。
そのために、オレたちが生涯を捧げることも。
存在意義も生きる目標も、オレたち妖精はすべて人間の為だけに在るとされているのに。
オレだって。もし人間であれば。
普通に。ゲーマーとして。それについでに。ローザと――。
「……おーい篠町さん。手伝ってほしいんだよな」
よくよく見ればこの教室の王の神井のほかには、たったひとりだけ着席をしている篠町。そういう立ち振る舞いが許されている占い師の彼女。
事前に打ち合わせだってしたっていうのに、語りかけてこちらに向けてくる目はジトジトギロギロと鋭くて。……おーおー、怖い怖い。
神井が口を挟んでくる。偉そうに自信たっぷりに、もはや本性を取り繕おうともしないで。
「占い師には、通達済みだよ。既に事情はこちらの耳に入っている。こっそり裏で行動できるかと思ったんだろうが、ご愁傷さま――」
「あー、いやいや、あんがとー! やっぱり篠町は神井にチクッてくれたんだなあ」
もちろん、そうなることを想定して動いたのだ!
「なあ篠町。さっきも頼んだだろ、占ってくれよ。――オレたちの、正体を」
「……あんたら全然食えんヤツらだ」
「そう。なぜならオレとローザは、この腐った人間社会を滅ぼすかどうか決定できる――善良なる妖精だから!」
チェンジ! とオレは高らかに叫んだ。
あっという間に、妖精装束に。
ローザも同じようにして、普段の妖精の格好になった。
呆気に取られる教室。
オレたちは、妖精の本領を発揮することにした。
まずは羽で、黒板の前までひとっ飛び。軽い軽い、こんな飛行くらい。
そして事前に打ち合わせていた通り、ロッドを持って、呪文を楽しそうに高らかに唱えながら。
オレの水とローザの炎で、イリュージョンをつくる!
パフォーマンスだ。こんなもの。――人間なんかには、無理だろう?
……唐突な朝の出し物に、他の学年のクラスからも人が集まってきているのを感じる。
やいの、やいの――と。
「でもさあ、人間っていいよなあ!」
水のかたまりを弄びながらオレは叫んだ。
「そうやって、汚いコトしてひととぶつかれてよお。神井も恩田も汚い感情が最高だわ!」
形としては同じ幼馴染同士であるはずの神井と恩田みたいに。
オレたちは、恋愛的にアヤしい関係になることすら許されない。
「なあ篠町よお。占ってくれよ。オレは、オレたちは、何だ?」
呼びかけているのは占い師に対してでも、まっすぐ見据えてるのは炎の使い手。
燃えるような炎属性の優等生の妖精、ロザライン。
「すくなくとも人間じゃねえんだろ――おまえらの目には、オレはどうやって見えている?」
変人か?
人間以外か?
それとも――。
「……うちにはようわからんけどよお」
篠町は、紫色の占い師は、言う。
「――いいひと、だよな。あんたら。ほんとは。必死で偽悪的になろうとしてるけど、まあ……人間以外の超常的存在なら納得――」
オレは満足して、ひとつ微笑んだ。
ローザもおんなじように笑っていた。
その瞬間、ふっと身体が浮遊した――この異変を察知して妖精界に呼び戻されたのだと、オレにはすごくわかった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる