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忘れられない過去

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 時刻は20時を回ろうとしている頃。

 オフィスには二人の男がいた。



「おい!! 高坂、この書類明日までにまとめておけよ」



「あ……はい……分かりました」



 俺はいつからこんな覇気のない人間になってしまったのだろうか。

 毎日上司には仕事を押し付けられ、愚痴を吐かれてはご機嫌を取る日々。



 もう、うんざりだ。



 そう思っても、今退職するとなると再就職は困難。

 こんな中年フリーターを雇ってくれるところなんてほんの一握りだろう。



 残業代が出なくても、上司に愚痴を吐かれても我慢する……これが俺が知った社会と言うものだ。





 今にして思えば、俺の全盛期は高校時代だっただろうか。



 スポーツは万能、顔もそこそこ、性格は不可もなく。

 すごくモテたわけでもないが、ある程度はモテていたと思う。



 一応、陽キャ……と言われる集団には属していたはずだ。

 だが、俺たちのグループは個性が強いやつらの集まりでもあったため、一般的な陽キャとは違ったかもしれない。陰キャとも陽キャとも違う何かだった。



 メンバーは4人だった。

 金持ちのボンボン(男)、ゲーマな男の娘(男)、病みやすい性格な幼馴染(女)。そして俺だ。



 俺たちはいつも一緒だった。



 けれど、年齢が上がっていくにつれ、病みやすい性格な幼馴染、柚原莉奈ゆずはらりなに彼氏ができだした。そこから、後のメンバー達も彼女を作り出す。



 勿論、俺も例外ではなかった。



 結局はみんな別れて再集結と言うのが俺たちのオチだった。





 しかし、高3の冬休み事件は起きた……





 幼馴染の莉奈が彼氏とデートに行ったきり、帰ってこなかったのだ。

 莉奈の遺体は温泉付近の山奥で見つかった。

 首吊り自殺をしていたそうだ。



 推定死亡時刻は夜中の2時だったという。



 言葉がでてこなかった。

 息が詰まる。



 涙は涙腺が崩壊したかのように流れ、止まらない。





 俺はその時、世界で一番、宇宙で一番大切な気持ちを知った。







『おれ、りなのこと……好き……だったんだ。』





 いなくなって気づく気持ち。

 ほんとに馬鹿げてる。



 なんでもっと早くあいつを助けてやれなかったんだろうって。

 彼氏が犯人かと思われた莉奈の事件だったが、取り調べの結果彼氏にはアリバイがあり、どう考えても自殺だったそうだ。

 その証拠と言っては何だが、彼氏は精神病院に入院した。

 俺達も入院行きだった。



 そこから、約一年くらい自暴自棄だった。

 莉奈の母親に久しぶりに再会して話し勇気づけてもらった。

 彼女の母親も「なんでこんなことになってしまったんだろう」と自身を尋問していた。



 そして、一年遅れで大学入試を受け、一応そこそこ有名な地元の会社に腰を据えた。

 今になっても、彼女の自殺したわけはわからない。



 病みやすい性格もあって相談には乗っていたがどれが死因の原因に繋がるかはわからない。

 おそらく全部がそうだったのだろう。



 俺たちは、彼女の病みやすい性格を軽視していたのだ。

 今になって思うことは、俺は莉奈のことを知っているようで、詳しくは知らなかったのだ。



 そして最後に彼女が残していった言葉は





『ごめんね皆、生きるのがつらくなっちゃった……』



 それが、莉奈の部屋の机の引き出しにしまってあった。
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