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一章 わたし柴犬

天翔る毛玉っ!?

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 ロマンチックな夜の庭園で、銀髪の彼と二人っきりのヒミツのデート。

 私の装いは気合を入れた赤いリボン。とっておきの勝負服なの。彼の好みに合うかしら?どきどき。

 優しく抱きしめられて、私の心臓は早鐘を打つ。
 彼の顔は整っていて、刃のように鋭く、月のように神秘的で美しい。
 でも私に触れる手はいつも温かくて切ないほど優しいの。

「……離したくない。この手を離したら、君は離れていってしまうだろう」

 ええ、そうかもね。なんて無粋なことは言わない。
 私は顔を赤くして視線を反らした。

 彼は顔を寄せて耳もとで囁く。体に響く、低くセクシーで優しい声で。

「薄暗い庭園で離れたら……見失いそうで怖い」

 誰よりも強い貴方に怖いものなんてあったの?と笑ってしまう。
 少し寂しそうな、けれど真剣な表情を浮かべる美しい彼の顔に

 肉球スタンプをかました。
 ぺちぺち

 はいはい、スチルはありませんよ!!



「……目の届かない所には行くな」
 脳内乙女ゲーごっこを終え、少し不服そうなご主人様の腕の中から抜け出す。芝生の上に降ろされ、ふかふかした草の感触を楽しんだ。

 芝生に柴犬とな。

 いや、言いたかっただけです。
 芝生が植えられているが、地面はコルクを敷き詰めたかのように少しだけ柔らかい。ほどよい弾力がある。
 転んだとしても怪我を負うようなことはないだろう。

 タッ……
 私は駆け出す。
 徐々に速度を上げて駆けまわる。
 子犬とはいえ、人間の身体では出せない速度。風を切り、弾丸のように飛んで行く。
 全身をバネのようにしならせて、夢中で庭園を駆けまわった。

 うひょおお走る肉団子いえええい!
 きんもちいいい!!!

 爽快感ヤバイ!アドレナリンがどっぱどぱでヤバすぎる!
 大人になってから本気でダッシュするなんてことはなかった。体がどこか重たいし、そんな全力で走る機会なんてなかったし。

 だんだん、世界が緩やかに流れ、目線の先に何があるのか全て把握・・・・できる気がした。

 今まで意識したことのない感覚が研ぎ澄まされて、どんどん自分の中に入っていく。ああ、今ならどんなことも出来てしまいそう。

 拡大したかのような鮮明な画像が脳に直接飛び込んでくる。
 一枚だけ変色している葉っぱ。
 水滴のついた黄色い花びら。
 すこしだけ盛り上がった箇所や、虫の位置。

 脳が高速で回転する。
 足元に広がる星々を全部丸呑みできそう。
 天井に立つご主人様と視線が交わり、はたと気づく。

──ああ、私が天井だわ。

 柴犬が無様に墜落した。

 空中でわたわたともがく私を、ご主人様が華麗にジャンプし、難なくキャッチ。
 ご主人様身体能力凄いですね。惚れ直しました!ところで...
「きゅうん?(私、天井走ってました?)」
「最初から飛ばしすぎだ……心配した」

 ごめんなさいご主人様ああああ。そんな悲しそうな顔しないで。

 なんかね、自分もよく分かってないのです。
 とりあえず、私、今さっき、重力に逆らって走ってましたよね……?なんか忍者みたいに壁走りをしていた気がする。
 えーと、ハイテンションになり過ぎて、どうしてそうなったのかよく覚えていませんが。
 最高にハイってやつだぜえええ!!を、身を持って体感しました。怖いですね。
 私ってもしかしてすごい柴犬?と首をかしげる。


「もう少しゆっくりと、まずは少しだけ浮く感じでやったらどうだ」
 ええ、わたくし飛べるんですか?
 子供の時の夢が叶いそうです。誰か黒猫人形作ってくれませんかね。
 柴犬の宅急便!いや、むしろ籠に入るのが私か?

「身体の下に空気の塊があるような感覚でやってみろ」
 了解でっす!本当にできるのかな?とドキドキしながら元気良く返事をして駆け出す。
 ゆっくり、一定のペースを保ちながら走る。
 身体の下に空気、空気……くうきー!

 下から押し上げられる上から感覚がし、ふわりと身体が浮く。
 をを!私は今、空を駆けている!
 新しい時代の夜明けじゃー!

 空気の塊を踏むようにして、速度を調整したり高さを変えてみる。普通に走るよりちょっと遅い?慣れてないせいかな。でもすっごく楽しい!
 コツを掴んでくると、ご主人様の目線の高さで周りをくるくると回った。
 わーいわーい!ご主人様ー!
 しゅきしゅきー!ぬはー!

 ご主人様が触れてこようとするので、さっと避ける。
 手を延ばし、さささっと避ける。

 さぁ、ご主人様!鬼ごっこよ!

 きゃー!私を捕まえてごらんなさあい!
 うふふ、まてよーこいつぅー!

 なんてする暇もなく、二秒で腕の中に閉じ込められておりました。
 本気のご主人様、残像が見えましたよ。ちょっと怖かったです。
 イケメンキャラ補正、舐めてました。きゃいん


 それにしても、私ずいぶんとチート性能搭載してますよねぇ……?
 これが異世界転生特典ってやつ???
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