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一章 わたし柴犬

筒抜けっ!?

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 ご主人様は急な任務が入ったらしく、他の団員に引きずられるようにして出て行った。無表情だったけど、そりゃあ嫌そうに、引き止めてほしそうにズルズルと引きずられていった。
 あのセティアス様を強引に連れて行けるとは、団員さん!やるな!
 私は誰かのところに行くか?と問われたが、ご主人様の部屋で一人お留守番することにした。絵本も読んでみたいし、ちょっと試したいことがあったから。

 貰った絵本を地面に並べ、てしてしと叩くと物語がはじまる。
 凄いんだよ、音声ボタンってのがあって飛び出したキャラクター達に合わせて物語を読んでくれる。
 しかも読んだ単語をタッチすると発音してくれる。凄くわかりやすい。犬の手先だとちょっとタッチしにくいけどね。思った以上に犬の手足って短くて不便。

 こっちの言葉はアルファベットに似ている。でも文法は日本語に近い。
 とりあえず単語を覚えていこう。あー、この年になってから新しい言語を勉強する羽目になるとは……って私まだゼロ歳か。脳みそが新鮮なうちに知識詰め込んでおこう。


 絵本は騎士がドラゴンを倒しに行くお話がリズミカルに描かれている。立体的で真っ黒なドラゴンが青白い炎を吐き出す様は大迫力で飛び上がって興奮した。
 翼の生えた天狼に跨った騎士が、剣と魔法でドラゴンを退治する。騎士はドラゴンの心臓を持って王の城に帰るのだ。ぐろいな……。
 帰りを待っていた愛しいお姫様にプロポーズして晴れて王様になった。
 めでたしめでたし、という内容だった。ありきたりだけどキャラクター達がどれも魅力で面白かった!……おおう、勉強そっちのけですね。
 これなら楽しく勉強できるわー。

 これは次も期待できる!と、隣の絵本をタッチすると丸い機械のような何かが飛び出してきた。思わずビックリして毛が逆立った。
 どうやらこの本のナビゲートキャラクターらしい。
 ナビは『たんさいぼうでもわかる さんすう!』と言ってタッチパネルを出してきた。……なんだこいつ。ケンカ売ってるのかな???

 これは理数系の私への挑戦だな……速攻クリアしてやらぁ!と鼻息荒く『まとめの100もん たいむあたっくだよ!きみごときにできるかな?』を開始した。
 いちいちケンカ売りすぎだろうと逆にビックリするわー!

 空中に式が浮かび上がり、下に数字が書かれたスライム?がぽこぽこと飛び出る。モグラたたきのようだ。
 サイコロの目のような図がこちらの数字らしい。
 足し算、引き算、割り算、掛け算が終わると合わせ技、二桁の計算式まででた。
 こっちの幼児はハイスペックだなと、最後の答えを入力する。
 ポコピーと気の抜ける音がしてナビゲートが何やら喜びのダンスを踊っていた。
数学のルールが一緒で安心した。いやこの程度は小学生が習う算数でしかないけど。

 さて、絵本はこれぐらいにしておいてやろう。
 ナビにムカついたからじゃない。

 そう、私には試したいことがあるのだ。
 それは、犬のようにちゃんと鳴くこと。犬ならワンでしょ?今のところきゅんきゅん喉を鳴らすだけ。まー、可愛いけどね。
 遠吠えもしたいな。と早速練習を開始する。

「きゅふん!」
「くぅん!」
「んあ~」
「きゃん!」
「きゅうん~くぁ?」
「あん!」
「きゃわわあんっ!(イヌヌワンっ!)」
 を。いい感じ。ワンだよ。ワン。
 そんな感じ10分ぐらい格闘していた。

「あん!あぅん!ぉん!」
 結構難しいなぁ。大人にならないと無理なのかな。うーんと首を傾げる。
 もっと低い感じで試してみるか。

「あ~あうあう」
「ほうほう」
「あおぉ」
「それでそれで?」


 ……。
 振り返るとドア付近に白衣姿のミッドさんが立っておられました。朝の診察ぶりですね。

 って、
 いつから見てましたあなたあああああ!?
「きゃぅあーん!?」

 もー!恥ずかしい!やだー!
「心配性な部屋主からおチビちゃんの様子が変だと緊急コールがあったんだけど……もしかして……発声練習してたのかな?」

 ご主人様、なに監視してるんですかー!?ばかばかー!
 毛でわからないだろうけど、羞恥で顔が火照る。

「くきゅう……(してました……)」
 うな垂れながら頷く私をみて、ミッドさんは安堵していた。話通じないって不便さー。気まずくなって、思いっきり丸まる。
「おチビだってカッコ良く鳴きたいもんな~? そうだ。今度君と同じティアマトー種の成体に会いに行ってみないかい? 彼等に聞けばコツとかわかるかもね」

 おおっ、そうか!びっく柴犬様の鳴き声を聞いて真似する!と!ホトトギス的な!?あと単純に大きい柴犬様をおが見に行きたい!
 ぜひお願いしたいです、とミッドさんの方を向いて尻尾をぶんぶんと振った。
 柴犬祭り、ひっじょーに楽しみ!うほほほ!

 その後はミッドさんのお膝の上で単語のお勉強を開始したのだが、何度もご主人様から恨みがましい声でコールが入った。
 本当に残念なイケメン様だなぁ。いやそこも可愛いのだけど。イケメンを血迷わせてしまう罪作りな柴犬わたし......ふふ。

 ミッドさんも呆れて「お仕事さぼる奴は嫌だよなぁ?」なんて言うもんだから、激しく同意しておいた。抗議が止んだところを見るに、真面目にやる気になったらしい。

 ご主人様お仕事ちゃんとしようよ!
 でも早く帰ってきてね!
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