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第五話 予期せぬ再会
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「ありさ先輩!?」
その瞬間、辺りを包んでいた不穏な空気が一変した。
「よかった、間に合って」
息を切らせながら駆け寄って来た先輩は、どこかほっとした表情を浮かべていた。
しかしすぐに、僕はあることに気づいた。先輩のスカートの丈が、かなり短かったのだ。なぜそうなったのか理由はわからないけれど、多分電車に乗り遅れると思って焦っていたに違いない。その結果、引き締まった白い太ももの大部分が丸見えになっていて、スカートが風に揺られるたびに、その奥が見えてしまわないかと僕の方がハラハラしてしまうほどだった。
僕は、下心による雑念をなんとか振り払い、視線を逸らした。そのとき、先輩の髪の毛がしっとりと濡れていることに気づいた。
ーーあっ、シャワーを浴びていたんだ。
僕は納得した。そして、やはり今日の先輩はどこか抜けているんだと思って、その普段とのギャップに微笑ましくなった。
「ごめんね、せっかく気を遣ってくれたのに。心配させちゃったかな?」
「いえ、僕は全然……。シャワーを浴びてたんですね」
僕が尋ねると、先輩は恥ずかしそうに小さく頷き、
「それより、早く行かない? 電車、来ちゃうから」
と言って、そそくさと駅に向かってしまった。
僕はその様子を見て、デリカシーのないことを言ってしまったかなと思い、反省した。
僕はすぐに先輩の後を追った。途中、ふと気になって玉津の方を見やった。先ほどはあれだけ意味不明な言葉を発して僕の不安を煽っていた玉津は、人が変わったかのように黙りこくり、暗い影に身を潜めていた。まるで最初からそこにいなかったみたいに。いや、それともありさ先輩に存在を悟られないにしているのか……。
ーーもう僕には、こいつのことが理解できない。
そう思った瞬間、突然脳裏に犬絵の姿がチラついた。
なぜ? 胸が、ギュッと締め付けられた。
駅に着くと、僕はホーム中央に置かれているベンチに腰を下ろして、ひと息ついた。ありさ先輩は家族と連絡を取っているのだろうか、ベンチには座らず、少し離れた場所でスマホを操作している。
僕は、腕時計を確認した。電車の到着まで、あと二、三分だった。僕は胸を撫で下ろし、ありさ先輩の後ろ姿に、何気なく視線を運んだ。
スポットライトのような明かりに照らされるそのシルエットは、まるで名匠が作り上げた彫刻のように美しく、僕は思わず息を呑んだ。
長い黒髪は、艶やかな光をまとい、風に揺れるたびに甘い香りが漂ってくる。夏用の白いブラウスは薄手で柔らかく、先輩の体温を映し出すようにしてほのかに透けている。目を凝らすと、白いブラジャーのラインがはっきりと浮かび上がっていて、僕は情けなくも、それを見て少年のような興奮を覚えてしまい、心臓が高鳴るのを抑えられなかった。
そして、スカートから伸びる引き締まった足は、女性らしいしなやかさと繊細さ、そしてアスリートらしい力強さを兼ね備えた見事な脚線美だった。
僕はそんな先輩の姿に目を離すことができず、ただただ見惚れてしまっていた。
すると、隣から衣擦れの音がして、僕は反射的にそちらを振り向いた。そこには、カメラ越しに先輩を狙い定める玉津が、薄気味悪い笑みを浮かべて座っていた。
ーーまたこのスタイルかよ。
その抜け目のなさにもう呆れるしかなく、怒る気にもならない。
玉津は小声で、僕の耳元で囁いた。
「あの太もも、マジでやばいよな。どんな感触なんだろう? 味は? 絶対ジューシーだぜ」
ーーこいつ……。
せっかく先輩と再会していい気分だったのに、またしても玉津に水を差されてしまった。僕は嫌悪感を抑えながら、ベンチから立ち上がろうとした。
しかし、玉津が僕の腕を掴んで引き止める。
「これ、見てみろよ」
目の前で見せつけられたモニターには、ズームアップした先輩の太ももと背中が鮮明に映し出されていた。
「よく見るとさ、ここに小さなホクロがあんだよ。これ、きっと本人も知らないぜ? それを俺の方が先に見つけたんだ、なんかこういうのって興奮しねえ? あとさ、ブラの色は白だから、パンツもきっとお揃いだな。しかもこの感じだと、レースで……」
玉津は、一人で勝手に興奮して盛り上がり始めた。
僕は何を思うでもなく、掴まれていた腕を払い除けた。そして蔑むような視線を向けたあと、再度その場を離れようとするが、今度はさっきよりも強い力で阻まれた。
「いい加減に……」
僕がそう言いかけたとき、玉津は目を爬虫類のようにぎょろっと見開き、ニヤリと笑った。そのとき、モニターに一瞬だけ女性の裸が映し出された。
ーーえっ……?
玉津はすぐにカメラを引っ込める。そして、羨ましいだろ、とでも言いたげに僕を見た。
「……今、のは?」
「ん? え? なんのこと? さて、帰ったらゆっくりこの映像でオ◯ニーするかな」
僕は頭の中が真っ白になり、思考も感情もすべてその場に落としてしまったかのように、ただ呆然と立ち尽くした。
そのとき、遠くから電車のヘッドライトがこちらへと近づいてくるのが見えた。
「本当に、もったいねえよなあ。お前の憧れの人なのによー」
玉津が、ぼそっとつぶやく。
電車がホームに滑り込んで来て、ドアが開く。ありさ先輩と玉津が先に乗り込み、僕はしばらくその場に立ち尽くしていたが、抜け殻のような足取りで二人の後に続いた。
車内は、貸し切り状態だった。向かい合わせの三人掛けの席には、窓際にありさ先輩、正面に玉津がすでに座っていた。僕は真ん中の席を空けて、玉津側の通路に近い席にふらふらと腰を下ろした。
電車が静かに動き出す。
窓の外を流れる海町の風景を、ありさ先輩はじっと見つめていた。玉津は、カメラを足の上に置き、何やら操作を続けている。でも、そのレンズがありさ先輩のスカートに向けられていることは、明らかだった。
ありさ先輩は玉津の行為に気づいているのだろうか……。そういえば、さっきからずっと、二人は一言も交わしていない。それは、考えれば考えるほど不自然な光景だった。
ただ、それでも今の僕には、何の感情も興味も湧いてこなかった。頭の中には、あの裸の女性がぼんやりと映し出されていたからだ。
でも、あれがありさ先輩だという確信はなかった。一瞬の映像だし、その人物が誰なのか、見極めるすべはなかった。
それでも、玉津の発言が、その疑問に恐ろしいほどの信憑性を持たせてしまっていた。
信じたくない。認めたくない。僕はひたすらに胸の奥で、その言葉を繰り返した。
半ば放心状態のまま、しばらくすると、次の駅に到着した。
ホームには、若いカップル、サラリーマン風の男性、そして仲睦まじい老夫婦が立っている。車内は、まだ静かなままだった。
ドアが開くと、その中のカップルが、僕たちの乗る車両に乗り込んでくるのが見えた。
後方からドタドタと足音が響く。そして、
「あっ! ありさじゃん!」
その声に、僕たち三人は同時に驚いた。
「い、犬絵先輩……」
ありさ先輩の不安げな声が、僕の胸にさらなる影を落とす。
それは、あってはならない再会だった。
「あーん、何これ、マジで嬉しすぎるう!」
ーー最悪だ。
その瞬間、辺りを包んでいた不穏な空気が一変した。
「よかった、間に合って」
息を切らせながら駆け寄って来た先輩は、どこかほっとした表情を浮かべていた。
しかしすぐに、僕はあることに気づいた。先輩のスカートの丈が、かなり短かったのだ。なぜそうなったのか理由はわからないけれど、多分電車に乗り遅れると思って焦っていたに違いない。その結果、引き締まった白い太ももの大部分が丸見えになっていて、スカートが風に揺られるたびに、その奥が見えてしまわないかと僕の方がハラハラしてしまうほどだった。
僕は、下心による雑念をなんとか振り払い、視線を逸らした。そのとき、先輩の髪の毛がしっとりと濡れていることに気づいた。
ーーあっ、シャワーを浴びていたんだ。
僕は納得した。そして、やはり今日の先輩はどこか抜けているんだと思って、その普段とのギャップに微笑ましくなった。
「ごめんね、せっかく気を遣ってくれたのに。心配させちゃったかな?」
「いえ、僕は全然……。シャワーを浴びてたんですね」
僕が尋ねると、先輩は恥ずかしそうに小さく頷き、
「それより、早く行かない? 電車、来ちゃうから」
と言って、そそくさと駅に向かってしまった。
僕はその様子を見て、デリカシーのないことを言ってしまったかなと思い、反省した。
僕はすぐに先輩の後を追った。途中、ふと気になって玉津の方を見やった。先ほどはあれだけ意味不明な言葉を発して僕の不安を煽っていた玉津は、人が変わったかのように黙りこくり、暗い影に身を潜めていた。まるで最初からそこにいなかったみたいに。いや、それともありさ先輩に存在を悟られないにしているのか……。
ーーもう僕には、こいつのことが理解できない。
そう思った瞬間、突然脳裏に犬絵の姿がチラついた。
なぜ? 胸が、ギュッと締め付けられた。
駅に着くと、僕はホーム中央に置かれているベンチに腰を下ろして、ひと息ついた。ありさ先輩は家族と連絡を取っているのだろうか、ベンチには座らず、少し離れた場所でスマホを操作している。
僕は、腕時計を確認した。電車の到着まで、あと二、三分だった。僕は胸を撫で下ろし、ありさ先輩の後ろ姿に、何気なく視線を運んだ。
スポットライトのような明かりに照らされるそのシルエットは、まるで名匠が作り上げた彫刻のように美しく、僕は思わず息を呑んだ。
長い黒髪は、艶やかな光をまとい、風に揺れるたびに甘い香りが漂ってくる。夏用の白いブラウスは薄手で柔らかく、先輩の体温を映し出すようにしてほのかに透けている。目を凝らすと、白いブラジャーのラインがはっきりと浮かび上がっていて、僕は情けなくも、それを見て少年のような興奮を覚えてしまい、心臓が高鳴るのを抑えられなかった。
そして、スカートから伸びる引き締まった足は、女性らしいしなやかさと繊細さ、そしてアスリートらしい力強さを兼ね備えた見事な脚線美だった。
僕はそんな先輩の姿に目を離すことができず、ただただ見惚れてしまっていた。
すると、隣から衣擦れの音がして、僕は反射的にそちらを振り向いた。そこには、カメラ越しに先輩を狙い定める玉津が、薄気味悪い笑みを浮かべて座っていた。
ーーまたこのスタイルかよ。
その抜け目のなさにもう呆れるしかなく、怒る気にもならない。
玉津は小声で、僕の耳元で囁いた。
「あの太もも、マジでやばいよな。どんな感触なんだろう? 味は? 絶対ジューシーだぜ」
ーーこいつ……。
せっかく先輩と再会していい気分だったのに、またしても玉津に水を差されてしまった。僕は嫌悪感を抑えながら、ベンチから立ち上がろうとした。
しかし、玉津が僕の腕を掴んで引き止める。
「これ、見てみろよ」
目の前で見せつけられたモニターには、ズームアップした先輩の太ももと背中が鮮明に映し出されていた。
「よく見るとさ、ここに小さなホクロがあんだよ。これ、きっと本人も知らないぜ? それを俺の方が先に見つけたんだ、なんかこういうのって興奮しねえ? あとさ、ブラの色は白だから、パンツもきっとお揃いだな。しかもこの感じだと、レースで……」
玉津は、一人で勝手に興奮して盛り上がり始めた。
僕は何を思うでもなく、掴まれていた腕を払い除けた。そして蔑むような視線を向けたあと、再度その場を離れようとするが、今度はさっきよりも強い力で阻まれた。
「いい加減に……」
僕がそう言いかけたとき、玉津は目を爬虫類のようにぎょろっと見開き、ニヤリと笑った。そのとき、モニターに一瞬だけ女性の裸が映し出された。
ーーえっ……?
玉津はすぐにカメラを引っ込める。そして、羨ましいだろ、とでも言いたげに僕を見た。
「……今、のは?」
「ん? え? なんのこと? さて、帰ったらゆっくりこの映像でオ◯ニーするかな」
僕は頭の中が真っ白になり、思考も感情もすべてその場に落としてしまったかのように、ただ呆然と立ち尽くした。
そのとき、遠くから電車のヘッドライトがこちらへと近づいてくるのが見えた。
「本当に、もったいねえよなあ。お前の憧れの人なのによー」
玉津が、ぼそっとつぶやく。
電車がホームに滑り込んで来て、ドアが開く。ありさ先輩と玉津が先に乗り込み、僕はしばらくその場に立ち尽くしていたが、抜け殻のような足取りで二人の後に続いた。
車内は、貸し切り状態だった。向かい合わせの三人掛けの席には、窓際にありさ先輩、正面に玉津がすでに座っていた。僕は真ん中の席を空けて、玉津側の通路に近い席にふらふらと腰を下ろした。
電車が静かに動き出す。
窓の外を流れる海町の風景を、ありさ先輩はじっと見つめていた。玉津は、カメラを足の上に置き、何やら操作を続けている。でも、そのレンズがありさ先輩のスカートに向けられていることは、明らかだった。
ありさ先輩は玉津の行為に気づいているのだろうか……。そういえば、さっきからずっと、二人は一言も交わしていない。それは、考えれば考えるほど不自然な光景だった。
ただ、それでも今の僕には、何の感情も興味も湧いてこなかった。頭の中には、あの裸の女性がぼんやりと映し出されていたからだ。
でも、あれがありさ先輩だという確信はなかった。一瞬の映像だし、その人物が誰なのか、見極めるすべはなかった。
それでも、玉津の発言が、その疑問に恐ろしいほどの信憑性を持たせてしまっていた。
信じたくない。認めたくない。僕はひたすらに胸の奥で、その言葉を繰り返した。
半ば放心状態のまま、しばらくすると、次の駅に到着した。
ホームには、若いカップル、サラリーマン風の男性、そして仲睦まじい老夫婦が立っている。車内は、まだ静かなままだった。
ドアが開くと、その中のカップルが、僕たちの乗る車両に乗り込んでくるのが見えた。
後方からドタドタと足音が響く。そして、
「あっ! ありさじゃん!」
その声に、僕たち三人は同時に驚いた。
「い、犬絵先輩……」
ありさ先輩の不安げな声が、僕の胸にさらなる影を落とす。
それは、あってはならない再会だった。
「あーん、何これ、マジで嬉しすぎるう!」
ーー最悪だ。
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