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七話
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「座りなさい」
この光景は二日前の時とほとんど同じ。友広は視線を移さずに、ただ一点を見つめながら言った。
「ごめんなさい。会社の方とご飯を食べていたの」
話しながらテーブルに座る。
嘘はつきたくはない。偽りの体だからこそ。
「お前は俺の妻なんだ。夫が仕事で疲れて帰ってくるのを、家で迎えるのが務めなんじゃないのか?」
相変わらずお手本のような美しい姿勢だ。その上、迫力がある低い声で威厳すら感じる。
「連絡をしなかったのは謝るわ。ごめんなさい。でも私だって誰かとご飯を......」
言い終える前に、友広はテーブルを叩く。
「いいわけをするな!お前は黙って言う通りにすればいいんだ!」
その瞬間、瞳から頬に伝わる物を感じた。
無情とも言える一方的な会話だった。この家には、美奈子という存在はいない。この人がほしいのは、出来る妻、従順な嫁なのだ。
美奈子は家を飛び出した。
背後から大きな声が聞こえたが、耳には何も入って来ない。視界は真っ白いトンネルの中にいるようだった。そしてその出口は......。
踊り場に向かう美奈子の姿は、まるで別れゆく恋人でも追いかけているようだ。もう、夜もだいぶ更けていた。
いつも偶然な夕方。願ったときは朝。そして逃げているこの瞬間は夜であってほしい。
しかし、こんな時間にいるはずがない。心の中には、願いと虚しさが交錯していた。
マンションには、サンダルの擦る音が響いていた。
玄関を出て、およそ数十歩の距離。まさかと思った。それは幻だとも思った。
でも、そこには間違いなく、あの老人が立っていたのだ。
踊り場を、階段の上から見下ろす美奈子を、反対に老人も見上げていた。
美奈子はすぐに声をかけた。
「また......お会い......しましたね......」
声がかすれ、途切れ途切れに出てくる。思うように喋れなかった。
そんな美奈子を老人は見つめていた。隣に行くと、いつもと同じように、老人の腰に自分の腕を回した。
しかし、足どりは違う。美奈子はすぐに老人を階段の上まで運ぼうとしたのだ。
「お願いします。お爺さんの家に連れて行って下さい」
老人は視線を変え、美奈子を見つめると、人差し指の背で、目の下を撫でて涙を拭ってくれた。
指には涙がついていて、美奈子は自分がどういう顔をしているのか、ようやく理解した。
ぐちゃぐちゃになっているだろう。人前に出れるような顔ではないはず。
そんな美奈子に老人の指は、ただただ優しかった。
老人は頷き。手を掴むと、階段を下りた。
驚いたことに、老人の家はマンションではなく、近くにある古いアパートだったのだ。
玄関のドアを開けると、中からカビ臭い匂いが鼻に入って来た。でも、その匂いでさえ、美奈子には心地よかった。
老人は六畳ほどの畳の部屋で、真ん中に敷いてある真っ白い布団の上に座ると、求めるようにじっと見つめてきた。奥のベランダからは、車のヘッドライトが時折差し込む。
二人に言葉は入らない。この込み上げてくる悲しみの色を、情愛でもって、燃えるような色に塗りつぶしてほしい。
サンダルから足を抜くと部屋に上がる。ゆっくり、軋む床を踏みしめ、老人の前に立つと躊躇することなく、ワンピースのボタンを一つずつ外していった。
誘うように、ストリップショーのように、艶やかな白い肌を、触りたくなるほど色っぽく。
やがて黒いブラと谷間が顔を覗かせると、老人は目を見開く。
頭の中では回想していた。
初めて声をかけた時のことを。ただの親切心から始まったふるまいが、今は反対に誘惑へと変わった。老人の悪戯だった行為が、自分の欲求へと醜く変貌したのだ。
ワンピースが床にストンと落ちると、下着姿が露になる。
小さな電球一つの灯りが、その姿をよりいっそう艶かしい雰囲気に照らしていた。
美奈子は一つ間を置き、背中に手を回しホックを外すと、Eカップの乳房を公開する。
「どうですか?あらためて見るおっぱいは?」
口を半開きにして、ただ頷いた。
そして、美奈子は自分で胸を大きく揉んだ。下から上に、寄せては上げて、大きく円を描くように、人妻のエロスを感じてほしい。時折人差し指と中指で乳首を弄る。
「ん......あ......見て......私を......」
老人の前で恥じらいを捨てありのままの姿を晒す。
構わない。何を言われても。この瞬間だけは、悪戯じゃない。
次第に、甘い吐息を混じらせ、部屋には卑猥な声が響き渡る。
指はショーツの上から秘部を弄り、その布に隠れた先には、すでに老人を受け入れるための蜜が溢れている。
美奈子は立ったまま自粛行為を続け、そして老人の顔のすぐ目の前で見せつける。
老人の吐く息遣いも荒くなっていた。お互いに興奮は高まっていき、老人も我慢出来なくなったのか、ついにはズボンから肉棒を取り出すと上下にスライドさせ始めた。
嬉しかった。老人が美奈子を見ながら感じてくれている。必要とされてるような気がした。
するとものの数秒で、先端から白い液体が勢いよく飛び出した。
老人は目を瞑り、天井に顔を向けると、力が抜けたように横に倒れた。
一方的に果てた形となり体は疼いたままだったが、無理をさせてはならないと言い聞かせ、寄り添うように横になった。
でも、欲張りたいと思った美奈子は、老人を裸にさせると、自分も残り一枚のショーツを脱ぎ捨て、肌を全身で重ねた。
頭の中で、幻想の友広が罵声を浴びせる。
薄情者だとか、妻失格だとか、淫乱女だとか、売女だとか......。思いつく言葉は少なかったが、その姿で言われると納得してしまう。どうしようもないほどに、自分を咎めるのはやはり友広なのだ。
やがて、老人が目を開けると再度求めるかのように頷いた。
美奈子は、縮んだそのモノを掴むと、指で熱を加えた。
時には口に含み、柔らかい舌で包み込み、袋を舐め、裏から先端へと這わせた。
老人は気持ちいいのか、腰を浮かせたりクネらせたり。
モノが硬く、力強く熱を帯びてきたのがわかると、あの時と同じ、階段を一緒に上るときのように言葉を言った。
「行きますよ」
美奈子が体に跨がり、肉棒を自分の体内に入れようとしたとき、老人は無慈悲にも首を横に振った。
「えっ?なぜ?」
その意味は到底理解出来るものではなかった。ここまできて、あなたは受け入れてくれるのではないんですか?それとも、まだ前戯を続けてほしいと?もう、嫌になったの?
老人は黙り、今度は眠るように目を閉じた。
「ダメ、お願い!起きて下さい!......私を......連れてってよ......」
いったい何度、あと何回涙を流せばいいのだろうか。
「私は......どうすればいいんですか?教えて下さい......」
憤りが体を支配した。全身から一気に力が抜けて、項垂れた。
その時、老人が玄関に向けて指を差す。
「帰れと言うことですか?」
老人は何も言ってくれない。美奈子は途端に孤独を感じた。
結局は他人。むしろ美奈子の勝手な勘違いと独りよがりの行動だったわけだ。
ゆっくり下着を身に付けワンピースを着ると、玄関に向かう。ドアノブに手をかけると、美奈子は名残惜しそうに振り返った。
寝ていたはずの老人は、上半身を起こしこちらを見ていたのだ。
その顔は何故か、とても優しく見えた。
この光景は二日前の時とほとんど同じ。友広は視線を移さずに、ただ一点を見つめながら言った。
「ごめんなさい。会社の方とご飯を食べていたの」
話しながらテーブルに座る。
嘘はつきたくはない。偽りの体だからこそ。
「お前は俺の妻なんだ。夫が仕事で疲れて帰ってくるのを、家で迎えるのが務めなんじゃないのか?」
相変わらずお手本のような美しい姿勢だ。その上、迫力がある低い声で威厳すら感じる。
「連絡をしなかったのは謝るわ。ごめんなさい。でも私だって誰かとご飯を......」
言い終える前に、友広はテーブルを叩く。
「いいわけをするな!お前は黙って言う通りにすればいいんだ!」
その瞬間、瞳から頬に伝わる物を感じた。
無情とも言える一方的な会話だった。この家には、美奈子という存在はいない。この人がほしいのは、出来る妻、従順な嫁なのだ。
美奈子は家を飛び出した。
背後から大きな声が聞こえたが、耳には何も入って来ない。視界は真っ白いトンネルの中にいるようだった。そしてその出口は......。
踊り場に向かう美奈子の姿は、まるで別れゆく恋人でも追いかけているようだ。もう、夜もだいぶ更けていた。
いつも偶然な夕方。願ったときは朝。そして逃げているこの瞬間は夜であってほしい。
しかし、こんな時間にいるはずがない。心の中には、願いと虚しさが交錯していた。
マンションには、サンダルの擦る音が響いていた。
玄関を出て、およそ数十歩の距離。まさかと思った。それは幻だとも思った。
でも、そこには間違いなく、あの老人が立っていたのだ。
踊り場を、階段の上から見下ろす美奈子を、反対に老人も見上げていた。
美奈子はすぐに声をかけた。
「また......お会い......しましたね......」
声がかすれ、途切れ途切れに出てくる。思うように喋れなかった。
そんな美奈子を老人は見つめていた。隣に行くと、いつもと同じように、老人の腰に自分の腕を回した。
しかし、足どりは違う。美奈子はすぐに老人を階段の上まで運ぼうとしたのだ。
「お願いします。お爺さんの家に連れて行って下さい」
老人は視線を変え、美奈子を見つめると、人差し指の背で、目の下を撫でて涙を拭ってくれた。
指には涙がついていて、美奈子は自分がどういう顔をしているのか、ようやく理解した。
ぐちゃぐちゃになっているだろう。人前に出れるような顔ではないはず。
そんな美奈子に老人の指は、ただただ優しかった。
老人は頷き。手を掴むと、階段を下りた。
驚いたことに、老人の家はマンションではなく、近くにある古いアパートだったのだ。
玄関のドアを開けると、中からカビ臭い匂いが鼻に入って来た。でも、その匂いでさえ、美奈子には心地よかった。
老人は六畳ほどの畳の部屋で、真ん中に敷いてある真っ白い布団の上に座ると、求めるようにじっと見つめてきた。奥のベランダからは、車のヘッドライトが時折差し込む。
二人に言葉は入らない。この込み上げてくる悲しみの色を、情愛でもって、燃えるような色に塗りつぶしてほしい。
サンダルから足を抜くと部屋に上がる。ゆっくり、軋む床を踏みしめ、老人の前に立つと躊躇することなく、ワンピースのボタンを一つずつ外していった。
誘うように、ストリップショーのように、艶やかな白い肌を、触りたくなるほど色っぽく。
やがて黒いブラと谷間が顔を覗かせると、老人は目を見開く。
頭の中では回想していた。
初めて声をかけた時のことを。ただの親切心から始まったふるまいが、今は反対に誘惑へと変わった。老人の悪戯だった行為が、自分の欲求へと醜く変貌したのだ。
ワンピースが床にストンと落ちると、下着姿が露になる。
小さな電球一つの灯りが、その姿をよりいっそう艶かしい雰囲気に照らしていた。
美奈子は一つ間を置き、背中に手を回しホックを外すと、Eカップの乳房を公開する。
「どうですか?あらためて見るおっぱいは?」
口を半開きにして、ただ頷いた。
そして、美奈子は自分で胸を大きく揉んだ。下から上に、寄せては上げて、大きく円を描くように、人妻のエロスを感じてほしい。時折人差し指と中指で乳首を弄る。
「ん......あ......見て......私を......」
老人の前で恥じらいを捨てありのままの姿を晒す。
構わない。何を言われても。この瞬間だけは、悪戯じゃない。
次第に、甘い吐息を混じらせ、部屋には卑猥な声が響き渡る。
指はショーツの上から秘部を弄り、その布に隠れた先には、すでに老人を受け入れるための蜜が溢れている。
美奈子は立ったまま自粛行為を続け、そして老人の顔のすぐ目の前で見せつける。
老人の吐く息遣いも荒くなっていた。お互いに興奮は高まっていき、老人も我慢出来なくなったのか、ついにはズボンから肉棒を取り出すと上下にスライドさせ始めた。
嬉しかった。老人が美奈子を見ながら感じてくれている。必要とされてるような気がした。
するとものの数秒で、先端から白い液体が勢いよく飛び出した。
老人は目を瞑り、天井に顔を向けると、力が抜けたように横に倒れた。
一方的に果てた形となり体は疼いたままだったが、無理をさせてはならないと言い聞かせ、寄り添うように横になった。
でも、欲張りたいと思った美奈子は、老人を裸にさせると、自分も残り一枚のショーツを脱ぎ捨て、肌を全身で重ねた。
頭の中で、幻想の友広が罵声を浴びせる。
薄情者だとか、妻失格だとか、淫乱女だとか、売女だとか......。思いつく言葉は少なかったが、その姿で言われると納得してしまう。どうしようもないほどに、自分を咎めるのはやはり友広なのだ。
やがて、老人が目を開けると再度求めるかのように頷いた。
美奈子は、縮んだそのモノを掴むと、指で熱を加えた。
時には口に含み、柔らかい舌で包み込み、袋を舐め、裏から先端へと這わせた。
老人は気持ちいいのか、腰を浮かせたりクネらせたり。
モノが硬く、力強く熱を帯びてきたのがわかると、あの時と同じ、階段を一緒に上るときのように言葉を言った。
「行きますよ」
美奈子が体に跨がり、肉棒を自分の体内に入れようとしたとき、老人は無慈悲にも首を横に振った。
「えっ?なぜ?」
その意味は到底理解出来るものではなかった。ここまできて、あなたは受け入れてくれるのではないんですか?それとも、まだ前戯を続けてほしいと?もう、嫌になったの?
老人は黙り、今度は眠るように目を閉じた。
「ダメ、お願い!起きて下さい!......私を......連れてってよ......」
いったい何度、あと何回涙を流せばいいのだろうか。
「私は......どうすればいいんですか?教えて下さい......」
憤りが体を支配した。全身から一気に力が抜けて、項垂れた。
その時、老人が玄関に向けて指を差す。
「帰れと言うことですか?」
老人は何も言ってくれない。美奈子は途端に孤独を感じた。
結局は他人。むしろ美奈子の勝手な勘違いと独りよがりの行動だったわけだ。
ゆっくり下着を身に付けワンピースを着ると、玄関に向かう。ドアノブに手をかけると、美奈子は名残惜しそうに振り返った。
寝ていたはずの老人は、上半身を起こしこちらを見ていたのだ。
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