上 下
8 / 40
第1部-ファフニール王国・自由編-

008_毒

しおりを挟む
 リリアが目を覚ましたのは真夜中のことだった。ぼんやりと目を開き、まだ意識が戻りきっていないのか、定まらない視線をふらふらとさせる。

「私……」

 リリアが掠れた声を漏らすと、目覚めたことに気づいたオズウェルが顔を覗き込む。額に手を当てて熱がないことを確認すると、ほっと目元を緩めた。

「お倒れになったのです。覚えておいでですか?」

 顔をしかめて何度か瞬きを繰り返してから、小さく頷きを返す。

「起き上がれますか?」
「……大丈夫」
 
 水を受け取り、リリアが少し落ち着いたところで改めてオズウェルは薬を手渡して飲むように促した。リリアの中で状況が把握できるまで待ち、話を切り出す。
 
「毒を盛られていたのですね?」

 オズウェルの唐突な問いに、リリアは驚いた表情になる。不調は隠せていないのはわかってはいた。だが、アンにさえそんな話はしたことはない。
 
「どうしてそれを……」
「部屋に解毒剤があったのを見つけました。それと、アンからも話を聞きました。眩暈と、長時間歩けないそうですね」
「でもそれは毒のせいで、今回のは……」
「アンが口にしているのでブラックビーツに問題はありません。今回のことはリリア嬢の体内にある毒と、ブラックビーツが反応したものです」
「そんな……」
「――閉じ込められていただけではないのですか?」
 
 オズウェルの鋭い視線に、リリアは咄嗟に目をそらす。
 
「……私のことが、疎ましかったようです」
「理由をお伺いしても?」
「わかりません。突然侍女が変わったと思ったら、一気に体調が……」
「そう、ですか。家のいざこざなど、知らぬうちに巻き込まれるものですからね。薬をお渡ししますから、しばらくは療養ください」
「はい……申し訳ございません」

 表情の暗いリリアを慰めるように、オズウェルは幾分慣れた手つきで頭を撫でた。鋭かった目つきももうどこにもない。

「ほかに言っておくことはありませんか? もうこんな思いはごめんですよ」
「心当たりはありません」
「それは良かった。毒はそれだけが毒だけではないのですよ。お気をつけください」
「はい……」
「今後はベリー類は口にしないように、アンにもそう伝えておきます。――心配せずとも、そのうち食べられるようになります。今しばらくの辛抱を」 
「はい」
 
 リリアの表情は沈んだまま。
 どうしたら元気づけられるのかと無表情のまま考え込んだオズウェルは、頭を撫でていた手をすっと口元に当てる。はっとオズウェルを見上げたリリアは、驚きすぎてほんの一瞬だが重い気持ちを忘れ去ったように見えた。すかさずオズウェルは、話をそらす。
 
「敬語はなしの約束でしょう。リリア嬢」
「うん。あの、迷惑ばかりかけてごめんなさい」
「お気になさらず。元気になられましたら良いところにお連れいたしますから、今はゆっくりとすることです」
「良いところ……?」
「内緒です。きっと喜んでいただけると思いますから」

 首を傾げるリリア。
 きっとしばらくの間は罪悪感から解放されることだろう。名残惜しそうにリリアから離れたオズウェルは、ベルを鳴らしてアンを呼びつける。
 
「僕は後処理がありますので、これで失礼いたします。また明日、朝食で。おやすみなさい」
「おやすみ、オズウェル」

 リリアの返事に満足そうに一つ頷いて、オズウェルは部屋を出ていった。
 入れ替わるようにアンが入ってきてリリアのそばまでくると、躊躇いなく床に膝をつく。

「わたくしが無理にすすめたばかりに申し訳ございませんでした」
「アン……やめて、頭を下げないで。私が悪かったの。ごめんなさい」
「お嬢様……」

 リリアはアンを立ち上がらせようとするが、アンは動こうとせず頭を下げたまま。
 困りきったリリアは話の切り口を変えてみる。

「アンには感謝しているの。楽しい外出だったから。だから、また一緒にお買い物に行ってくれる?」
「今後はわたくしがお守りいたします。二度はございません」
「……ありがとう。頼りにしているわ」
「はい。お任せを」

 とりあえず、これでアンの気も済んだらしい。まだ気負った様子もあるが、ようやくリリアが伸ばした手に応えアンが立ち上がる。
 落ち込んだ表情が消えないアンに、リリアはお茶を入れてくれるように頼んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

【完結】死にたくないので婚約破棄したのですが、直後に辺境の軍人に嫁がされてしまいました 〜剣王と転生令嬢〜

I.Y
恋愛
「ラダベル・ラグナ・デ・ティオーレ。お前との婚約を破棄する」  ティオーレ公爵家の令嬢であるラダベルは、婚約者である第二皇子アデルより婚約破棄を突きつけられる。アデルに恋をしていたラダベルには、残酷な現実だと予想されたが――。 「婚約破棄いたしましょう、第二皇子殿下」  ラダベルは大人しく婚約破棄を受け入れた。  実は彼女の中に居座る魂はつい最近、まったく別の異世界から転生した女性のものであった。しかもラダベルという公爵令嬢は、女性が転生した元いた世界で世界的な人気を博した物語の脇役、悪女だったのだ。悪女の末路は、アデルと結婚したが故の、死。その末路を回避するため、女性こと現ラダベルは、一度婚約破棄を持ちかけられる場で、なんとしてでも婚約破棄をする必要があった。そして彼女は、アデルと見事に婚約破棄をして、死の恐怖から逃れることができたのだ。  そんな安堵の矢先。ラダベルの毒親であるティオーレ公爵により、人情を忘れた非道な命令を投げかけられる。 「優良物件だ。嫁げ」  なんと、ラダベルは半強制的に別の男性に嫁ぐこととなったのだ。相手は、レイティーン帝国軍極東部司令官、“剣王”の異名を持ち、生ける伝説とまで言われる軍人。 「お会いできて光栄だ。ラダベル・ラグナ・デ・ティオーレ公爵令嬢」  ジークルド・レオ・イルミニア・ルドルガーであった――。  これは、数々の伝説を残す軍人とお騒がせ悪女の恋物語である。 ☪︎┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎ 〜必読(ネタバレ含む)〜 ・当作品はフィクションです。現実の人物、団体などとは関係ありません。 ・当作品は恋愛小説です。 ・R15指定とします。 不快に思われる方もいらっしゃると思いますので、何卒自衛をよろしくお願いいたします。 作者並びに作品(登場人物等)に対する“度の過ぎた”ご指摘、“明らかな誹謗中傷”は受け付けません。 ☪︎現在、感想欄を閉鎖中です。 ☪︎コミカライズ(WEBTOON)作品『愛した夫に殺されたので今度こそは愛しません 〜公爵令嬢と最強の軍人の恋戦記〜』URL外部作品として登録中です。 ☪︎Twitter▶︎@I_Y____02 ☪︎作品の転載、明らかな盗作等に関しては、一切禁止しております。 ☪︎表紙画像は編集可能のフリー素材を利用させていただいています。 ☪︎ムーンライトノベルズ様・カクヨム様にも掲載中です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...