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05.ただいま魔王城
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魔族の案内で、見覚えのある魔王城にたどり着いた。私たちが去ったときとあまり変わっておらず、壁に穴はあきっぱなし、壊した門も辛うじて形状は保っているものの門としての機能は失われたままだ。当然のように、魔王城を守る魔族も怪我を負っている。これならまだ国境を守っていた魔族たちのほうが役に立ちそうに見える。
予想外の被害の深刻さに驚きながら、私たちは魔族の案内で魔王城の中に入った。
「ねぇリラ。魔族って」
こそこそとそんな話をしているうちにあっという間に最上階にたどり着く。大広間の前で待つように言われ、しばらく待つ。大広間の扉も穴が開いているため中の様子を見ようと思えば見られるのだが、そこは礼儀として覗かないことにした。隣でナディヤがいたずら心で壁の穴を大きくしようとしているのも見ないふりをする。
「どうぞ」
漏れ聞こえるざわめきが落ち着いたところで、背の高い魔族が扉を開く。魔王城まで案内させた魔族と比べても、相当高い。私たちの中で一番長身のロイス兄さんですら、この魔族の前では大人と子供に見える。何を考えているのか分からない無表情で、私たちを招き入れると、私たちの先に立って歩きはじめる。案内してくれた魔族は入れ替わるようにして出ていってしまい、その顔色から魔王の機嫌はよろしくなさそうだと予想をつける。大広間の一番奥、高くなっているところに座っているのが魔王。初めて見かけたときはずんぐりとした巨人のような魔族だと思ったが、怪我している箇所に包帯が巻かれ痛々しい姿をしているとぬいぐるみのようにもみえてきて少しも怖さを感じない。
広い広い大広間の中を進み続け、声が届くと判断できたところでナディヤが男に体当たりするようにして押しのけた。男の身体はよろめくことなく、圧された分だけ少し傾くだけに留まる。よほど鍛えられているらしい。前に出たナディヤは腕組みをして魔王を見上げる。
「久しぶりね、魔王! 元気にしてたかしら?」
魔王に対しても相変わらずのこの態度。隣から殺気が漏れた気がして視線を送ったが、元の無表情のまま。勘違いだっただろうか。今は何も感じない、と首を傾げてナディヤと魔王に視線を戻す。
素材こそ上質なものの質素な服を身にまとった魔王は、ナディヤの台詞に大きく体を揺らしてふんと鼻を鳴らした。
「この格好を見てよくそんなことが言えるものだな。お主にあれだけぼこぼこにされて元気なほうがおかしいとは思わんのかね」
「だって魔族ってそういうものなんでしょ? みーんな、殴っても骨すら折れなかったんだから、この間は苦労したのよ?」
「どうだか」
不機嫌そうな魔王など意に返さず、逆に頑丈すぎると文句を言う始末のナディヤ。これからお願いごとをするというのに、大丈夫なのだろうか。
「人間のか弱さってものがあんたたち魔族は分かってないわ。甘ったれたこと言うんじゃないわよ」
「人間が弱いと限らんことはよーく理解したが。大体お主は……」
どんどんズレていく話と、ヒートアップしていくナディヤと魔王。一体、何をしに来たんだか。私は両手を体の前に持ってくると勢いよく打ち鳴らす。
――パンッ
一瞬の沈黙の後、全員の視線が集まった。狙い通りとはいえ若干居心地が悪い。軽い咳払いをして声を整える。何度か言いたい言葉を口の中で復唱してから声に出した。
「本題に入っても?」
思ったより自分の声が大広間に響いてびっくりする。その驚きに動揺していると、隣にいた男も口を開いた。
「魔王様もおしゃべりはほどほどに」
冷たい声を意に介さず、魔王は男に不満をぶつける。
「おしゃべりって、この者がつっかかってくるからわしは仕方なくじゃの」
「何よ! いちいち反論するあんたが悪いんでしょ?」
「お二人とも、いい加減にしてください。いつまで続けるおつもりですか?」
ぴしゃりとした低い声。高いところにある顔を見上げると、先ほどと変わらず無表情なものの、目の端がぴくぴくとしている。……きっとこの人も苦労しているんだろうなと、怒っているはずなのに、なんとなく親近感を覚えた。
続けざまに二度も叱られた二人は、気まずそうに互いを睨みあった。しばらくの後、最後に勢いよく顔を反らして決着がついたらしい。
「それで、今回来た目的なんだけど」
流石に顔を反らしたままは失礼だと思ったのか、ナディヤの体は真っすぐに魔王を向く。腕組みはそのままで、どうやら本人の中で腕組みは失礼にならない許容範囲らしい。
「あたし達もこの国に住むことにしたわ! いいでしょう?」
勢いのある宣言に、難しい顔をしていた魔王の表情が崩れた。
「え? ……は?」
予想通りの反応。隣の魔族も流石に驚いたようで呆気に取られている。その反応こそが心外だと言わんばかりにナディヤは頬を膨らませた。もちろんわざとだ。
予想外の被害の深刻さに驚きながら、私たちは魔族の案内で魔王城の中に入った。
「ねぇリラ。魔族って」
こそこそとそんな話をしているうちにあっという間に最上階にたどり着く。大広間の前で待つように言われ、しばらく待つ。大広間の扉も穴が開いているため中の様子を見ようと思えば見られるのだが、そこは礼儀として覗かないことにした。隣でナディヤがいたずら心で壁の穴を大きくしようとしているのも見ないふりをする。
「どうぞ」
漏れ聞こえるざわめきが落ち着いたところで、背の高い魔族が扉を開く。魔王城まで案内させた魔族と比べても、相当高い。私たちの中で一番長身のロイス兄さんですら、この魔族の前では大人と子供に見える。何を考えているのか分からない無表情で、私たちを招き入れると、私たちの先に立って歩きはじめる。案内してくれた魔族は入れ替わるようにして出ていってしまい、その顔色から魔王の機嫌はよろしくなさそうだと予想をつける。大広間の一番奥、高くなっているところに座っているのが魔王。初めて見かけたときはずんぐりとした巨人のような魔族だと思ったが、怪我している箇所に包帯が巻かれ痛々しい姿をしているとぬいぐるみのようにもみえてきて少しも怖さを感じない。
広い広い大広間の中を進み続け、声が届くと判断できたところでナディヤが男に体当たりするようにして押しのけた。男の身体はよろめくことなく、圧された分だけ少し傾くだけに留まる。よほど鍛えられているらしい。前に出たナディヤは腕組みをして魔王を見上げる。
「久しぶりね、魔王! 元気にしてたかしら?」
魔王に対しても相変わらずのこの態度。隣から殺気が漏れた気がして視線を送ったが、元の無表情のまま。勘違いだっただろうか。今は何も感じない、と首を傾げてナディヤと魔王に視線を戻す。
素材こそ上質なものの質素な服を身にまとった魔王は、ナディヤの台詞に大きく体を揺らしてふんと鼻を鳴らした。
「この格好を見てよくそんなことが言えるものだな。お主にあれだけぼこぼこにされて元気なほうがおかしいとは思わんのかね」
「だって魔族ってそういうものなんでしょ? みーんな、殴っても骨すら折れなかったんだから、この間は苦労したのよ?」
「どうだか」
不機嫌そうな魔王など意に返さず、逆に頑丈すぎると文句を言う始末のナディヤ。これからお願いごとをするというのに、大丈夫なのだろうか。
「人間のか弱さってものがあんたたち魔族は分かってないわ。甘ったれたこと言うんじゃないわよ」
「人間が弱いと限らんことはよーく理解したが。大体お主は……」
どんどんズレていく話と、ヒートアップしていくナディヤと魔王。一体、何をしに来たんだか。私は両手を体の前に持ってくると勢いよく打ち鳴らす。
――パンッ
一瞬の沈黙の後、全員の視線が集まった。狙い通りとはいえ若干居心地が悪い。軽い咳払いをして声を整える。何度か言いたい言葉を口の中で復唱してから声に出した。
「本題に入っても?」
思ったより自分の声が大広間に響いてびっくりする。その驚きに動揺していると、隣にいた男も口を開いた。
「魔王様もおしゃべりはほどほどに」
冷たい声を意に介さず、魔王は男に不満をぶつける。
「おしゃべりって、この者がつっかかってくるからわしは仕方なくじゃの」
「何よ! いちいち反論するあんたが悪いんでしょ?」
「お二人とも、いい加減にしてください。いつまで続けるおつもりですか?」
ぴしゃりとした低い声。高いところにある顔を見上げると、先ほどと変わらず無表情なものの、目の端がぴくぴくとしている。……きっとこの人も苦労しているんだろうなと、怒っているはずなのに、なんとなく親近感を覚えた。
続けざまに二度も叱られた二人は、気まずそうに互いを睨みあった。しばらくの後、最後に勢いよく顔を反らして決着がついたらしい。
「それで、今回来た目的なんだけど」
流石に顔を反らしたままは失礼だと思ったのか、ナディヤの体は真っすぐに魔王を向く。腕組みはそのままで、どうやら本人の中で腕組みは失礼にならない許容範囲らしい。
「あたし達もこの国に住むことにしたわ! いいでしょう?」
勢いのある宣言に、難しい顔をしていた魔王の表情が崩れた。
「え? ……は?」
予想通りの反応。隣の魔族も流石に驚いたようで呆気に取られている。その反応こそが心外だと言わんばかりにナディヤは頬を膨らませた。もちろんわざとだ。
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