すみません、その悪役公爵令嬢……私の嫁です

御剣刃金

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セレスティア王立学園編

13.復活までの出来事

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*ちょっと三人称混じってます。


**************************************************


 襲撃事件の翌朝。

 サイフォン家に一台の馬車が止まる。
 馬車のサイドに描かれた鷲の翼の紋章は公爵家ハイネケン。
 その馬車から降り立つ白い制服の少女。

「私が来ましてよ!」

 学園までは一度テルルの屋敷に寄り、そこからハイネケン家の馬車に乗って登校するとアレクと彼女で話し合っていたのだが、約束の時間になってもアレクが現れない事から、彼を待ちきれず家まで押しかけていた。

 サイフォン家は武門の家である為、朝は早く剣の鍛錬をする若い兵士の出入りが多いのだが、今日は活気の無いその兵達の表情にテルルは違和感を覚える。

「そこの方、少しよろしくて?」

 通り過ぎる兵に声を掛ける。

「あ、テルマイル公爵令嬢様。おはようございます」

「おはよう。で、これはどういう状況なのです?」

「あ、えぇ」

 兵は自分以外の誰かを探している様だが自分からは言いにくい事なのだろうか、事情を話そうとしない。

「構える事はありません、私テルマイル・ハイネケンが貴方に聞いているのです!」

 安心と威圧を同時に放つ彼女。

――「テルル、そこまでにしてあげて。兵隊さんが怯えてるよ」

 その聴き慣れた声に振り返ると、その両肩と同じように暗い影を落とした幼馴染。
 しかしその顔からは怒りや憎しみの様なものを感じる。尋常じゃない。

「アレク。……何があったのですか?」

「……昨夜、爺が殺された」

 アレクの言った人物を思い浮かべるテルルであったが、その人物が死んだと言う事に理解が追い付かない。なので。

「どこの爺の事ですの?……」

 アレクは首を振り。

「君の良く知る知る人物で間違いないよ、テルル」

「まさかそんな……ですが彼は誰かに殺されるような――」

 だがアレクはテルルの言葉を遮る様に。

「これはサイフォン家の問題だから……申し訳ないけど今日は一緒に行けない。ほら、速く行かないと授業開始の初日から遅刻してしまうよ」

 ですがと言いかけ、テルルはアレクの握った拳を見て考えを改める。

「……わかりました。そのご様子では学園への連絡もまだですわよね。こちらから話しておきます」

「ありがとう。たすかるよ」

 そしてテルルは一礼して馬車へと戻る。

「行ってちょうだい」

 馬車は学園へと走り出す。が、その時馬車が見覚えのある少女を追い越して行く。

「止まって!」

「は、はい!」

 テルルの言葉に御者は急停車させると、馬車のドアが勢いよく放たれる。

「ハル!お乗りなさい!」

「はい?あ、悪役――「お乗りなさいと言ってます!」

「ひっ!」

 聖女ハルはテルルに腕をつかまれ馬車の中へと拉致される。

「テルマイル様!?いえね、イジメと言うのはこう言う暴力的なものじゃなくてですね?そのなんと言うか精神的なダメージ?そんなイジメを希望しているわけでして。拉致だとか凌辱だとかそう言う系はちょっと倫理的にダメといいますか――」

 自分が拉致された事の恐怖でガタガタと震えながらも早口で拒絶している聖女ハルだったが。

「貴女の聖女としての力はどれ程のものですの?」

 唐突な質問にハルは首をかしげる。

「貴女の回復魔法はどの程度の回復が出来ますの?と聞いています」

「あぁ~聖女レベルですか?レベル上げなんてしてないので切り傷すり傷を治すくらいですかね。あ、でもそんなすり傷や切り傷も一瞬で綺麗さっぱり治るんですよ?深爪なんて一瞬です!深爪って結構精神的憂鬱になりますもんねぇ~お祖母ちゃんには朝に爪を切るなって言われちゃうけど、忘れてたら朝に切っちゃうでしょ?そんな時に深爪した時なんかもー私聖女で良かったって思います!」

 やけに深爪にこだわるハルにテルルは溜息をこぼす。

「はぁ、まぁ所詮聖女と言ってもそんなものよね」

 機嫌良く自身の深爪回復魔法を語るハルだったが、テルルのその一言で一気に何かのメーターが振り切る。

「はぁああああ!?何がそんなもんですって!?言っときますけどこのアーティファクトを使えば私の力と合わさって条件さえ合えば腕がもげようが首がもげようが、胴体が半分になろうが完全に回復させれるんですー!ちょっと良い家に産まれた貴女にそんなものなんて言われたくありませーーん」

 ハルの言葉にテルルは数舜間を置き、一度彼女から視線を外し背もたれに体重を預け。

「……人を生き返らせる事が出来てから偉そうにしなさいな」

「はぁあ?だから話聞いてた?首ちょんぱよ首ちょんぱ。24時間経ってない限りは生き返らせれるに決まってるじゃ――」

 そこまで聞いたテルルは御者に指示を出す。

「このままもう一度サイフォン家へ!こちらは気にせず全力で急ぎなさい!」

「かしこまりました!ハイヤー!」

 馬車はその場から急反転をし、馬車の中の事などお構いなしに全力で疾走する。

「ちょ、ま。な、がくえ、学園へいかせ。行かせないよ!」

「おだまり!」

「ひぃーーー!!!」

 

――――
――



 テルルを見送りロビーから離れた隣室へ向かう。
 そこに置かれた棺には、爺に似つかわしくない花が飾られている。
 その棺の傍らに立つ大男。

「父さん」

「アレクか。そのなんだ、ここに居ても仕方ないだろ。学園へ向かいなさい」

 振り返らずそう父は言うが、私も出来れば爺の傍に少しでも居てあげたいと思っている。
 それにこの怒りの行き場に戸惑っている今、あまり動きたくない。

「アレク、賊の事は気にするな。こちらで必ず血祭りに上げてやる。どこの誰に牙を剥いたか思い知らせるのは当主である俺の仕事だ」 
 
「父上、私は……学園へは行きません」

「お前……」

 ここで漸く父は私に視線を合わせる。

「今はまだ賊の狙いがわかりません。爺本人だと言う事もありえますが、サイフォン系の人間が標的と言うのが一番でしょう。それになにより……爺の敵を取りたいと思っているのは父だけではありません」

 そう、爺は中身の私と同年代。
 時に厳しく、時に優しく、そして彼は知らないだろうけど、私は爺を友人の様に思っていたのです。

「……そうか。では我が息子アレキサンドロス・サイフォン!私と共に敵を討て!」

「はっ!」

 私は年甲斐もなく涙を浮かべ父に敬礼しました。

――バン!!

 唐突にとんでもない勢いで開かれる後方のドア。

「テルル嬢か……?」

 唖然とする父の言葉と共に振り返ると、そこには聖女を引きずったままドアを開けたテルルが立っていた。

「アレク!爺が死んだのはいつ!」

「え?」

「あーもーっ!爺が殺されたのは昨日の夜で間違いないわね!?」

「あ、あぁ」

「ほら聖女!あんた言う条件まだ大丈夫よ!」

 引きずられた体勢から起き上がるハルさん。

「だから条件が揃ってたってアーティファクトなのよ!?そんなホイホイ使っていいものじゃないのよ!」

「今使わなくていつ使うの!」

「だからになった時に瀕死の王子を助けるのに必要だってさっき説明したでしょーが!」

「起こるかどうかも分からない戦争はどうでもいいって言ってるのよ!ほんと頭涌いてるにも程があるわよ」

「はぁあ?誰の頭が涌いてるですって!?」

 言い争う二人だったが、私はハルに駆け寄る。
 そしてそのままの勢いで彼女を壁際まで追い込んでしまう。

――ドン!

「ハルさん。君はもしかして……死んだ人間を生き返らせる事が出来るのかい?」

「はっ!まさかの壁ドン!モブなのによく見たらイケメン!」

「ハルさん!」

「……で、出来るわよ」

 その言葉に全身の毛穴が開いた様な感覚がする。

「お願いします。どうか、どうか爺の命を……」

 私の渾身のお願いにハルさんは私を覗き込み。

「そのかわり昨日の約束は守ってもらうわよ?」

「あ、あぁ」

 気乗りはしませんが、人命に勝るものなどありません。

「そこの公爵令嬢もいいわね?」

「私は最初からそのつもりだ」

「あ、そう。あと、そこの……ねーアレク君。あそこの大男は誰?」

 父に気付いたハルさん。

「私の父、ガイアス・サイフォンです」

「そう。じゃそこのガイアスさん、貴方も。ここに居る全員今から起きる事は絶対のぜーったいに口外禁止!!」


――――そして爺は花束に抱かれながら命の炎を再び燃やし始めたのだった。



――――
――

――その日の昼、テレスティア学園でもある事が起きようとしていた。

「ザクス。もう手は打ったのか?」

 王子アンドレがザクスに昨日の件を聞く。
 昨日の件とはテルマイルをテルルと呼んだ人物についてだ。

「いや、監視は頼んだが直接手を出すのは控えさせているぜ?」

「……そうか」

「なにかあったのか?」

「いや、影の一人が行方不明となったと暗部から連絡があってな」

「はぁ~?あの男が尾行に気付いて返り討ちにでもしたってーのか!?」

「いや、そーではない。奴、サイフォン家は兵達の信頼が大きい家な様でな。暗部でも遠巻きに監視するのが限界だったそうなのだが……」

「??」

「まぁ、よい。で、デリファンは何処に行ったんだ?」

「デリファン?デリファンなら……お、噂をすれば」

 視線を上げる先。走る事無くしかし早歩きでツカツカと近づく宰相の子息デリファン。
 そしてそのまま王子の耳元まで近づくと。

「なに?テルマイル嬢がまだ登校していないだと?」

 食堂の一角を占拠し、豪勢なランチが並ぶテーブルで王子が立ち上がる。

「はい。どうやらサイフォン家の前に公爵家の馬車が停車中との事」

「何故テルマイル嬢がサイフォン家に居るんだ!」――ダン!!

 テーブルを叩きつける王子にデリファンがその手を取る。

「王子、お手が傷付きます」

「だが!」

「ご心配には及びません、父の方から人を向かわせてもらいました。時期に情報がもたらされるかと」

「……いったいテルマイル嬢となんの関係があるんだ!なんなんだアイツは!」

 憤慨する王子を横目に、軍務大臣子息ザクスと宰相子息デリファンはお互い視線を合わせ首を振るのだった。












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