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第六話
しおりを挟む僕とメリーさんは、3階女子トイレを出て体育館に向かっていた。
メリーさんの手には花子さんから貰った手鏡がある。
「ねえ。カズキ。」
歩き出してすぐに、メリーさんが僕に話しかけてきた。
僕は立ち止まり、メリーさんのほうを見る。
「どうしたの?」
「そういえば、まだ連絡先の交換が終わってなかったわ。」
そう。メリーさんとの連絡先を交換しないと。
さっきの花子さんの話だと、メリーさんは僕に電話をしてくることになるのだ。
「そうだね。忘れる前に、交換しておこう!」
僕は、そういってスマホを取り出した。
メリーさんもいつの間にかピンクのスマホを取り出して、代わりに手鏡をしまっているようだ。
僕は、メリーさんに電話番号を教える。
メリーさんも僕に番号を教えてくれた。
「000-0000-0000よ。」
「えっと。うん。」
僕はすごい番号だな、と思った。
その番号をメリーさんとしてスマホに登録する。
何だかんだで、連絡先の交換はすぐに終わった。
「さてと。」
メリーさんは、そういうとスマホを操作し始めた。
すると、僕のスマホに着信が来た。
あれ?
電波が届いてないはずでは?
「ふふっ。不思議そうな顔ね?」
スマホを持って電話しているメリーさんは、得意げだ。
僕はメリーさんの電話を取った。
「私、メリーさん。今カズキといっしょにいるの。」
それだけいって、メリーさんは電話を切った。
「どう!カズキ!怖かった?」
「えっと。どうやって電話をしてるの?」
僕が冷静にそういった。
「むー。私のは霊界通信だから、電波がなくても電話ができるの!」
メリーさんは、いじけた様子でそういった。
怖いと思って欲しかったんだろうか?
謎だ。
そんなことを僕が考えたとき、あることをひらめいた。
「もしかしてメリーさん、現世の人に電話すれば…。」
校舎から脱出できるんじゃないか、と僕は言おうとした。
「カズキ、それはできないわ。」
メリーさんは、まじめな表情でそういった。
「どういうこと?」
「今、私のスマホは、現世に繋がらないのよ。」
「ああ、そういう。」
僕は、ちょっぴり残念に思った。
というのも…。
「ふふっ。カズキを置いて現世に戻れないわ、とかそういって欲しかったのかしら!」
悪戯っぽい目でメリーさんは、そう言ってきた。
「えっと。そんなんじゃないよ。」
「そうなの、カズキ?」
メリーさんは賑やかにそう言って、じっと僕を見ている。
「うん。」
たしかに、ちょっとだけ。そんなことを僕は考えたけれど。
「素直じゃないわねぇ。」
メリーさんは、そう言いながらスマホをしまっていた。
代わりに、花子さんからもらった手鏡を持っている。
「でも、メリーさん。」
「うん?」
メリーさんは、僕のほうを向いた。
「もし、メリーさんだけ脱出できたとしても、メリーさんなら僕を助けてくれそうだよね?」
僕がそう言った。
でも、メリーさんは聞こえない振りをしているようだ。
先に歩き出した。
「さあ、カズキ。体育館へ急ぐわよ。」
それだけメリーさんは言って、進みだした。
赤い廊下で周囲が赤いままだったが、どこかメリーさんの顔が赤く見えた。
そのまま、廊下を直進すれば体育館だ。
僕は、メリーさんの後についていった。
体育館の扉は、閉まっている。
ただ、幸いにもカギは掛かっていない。
扉にある窓から見える体育館は、廊下と同じように赤い空間のように見えた。
そして、その中心には黒いものが見えた。
「さて、ここが体育館ね。」
メリーさんは、その扉に手をかけて開けようする。
僕はメリーさんを手伝った。
体育館の扉が開いていく。
体育館は、僕が知っている状態と変わっていない。
もちろん、赤い光が差し込んでいるため、広い体育館が赤い空間に見えた。
しかし、黒い球体。
その球体が赤い空間となった体育館の中心に浮かんでいた。
大きさは、近づいてみると大きかった。
メリーさんよりも確実に大きい。
僕の伸長くらいはあるかもしれない。
「この黒い球体が虚籠か?」
僕は思わず、メリーさんに聞いていた。
「そうね。たぶん。」
メリーさんは、そういって手にしていた手鏡を向けた。
何も起きない。
「メリーさん、光を反射させないとダメかもね?」
僕はそういって、スマホを取りだした。
そして、ライトを起動する。
僕のやっていることを見て、メリーさんも僕がしたいことを理解したようだった。
「カズキ、光を鏡に当てて!」
メリーさんはそう言って、手鏡をかざした。
「ほいよ。」
僕は、そういって、スマホのライトを手鏡にあてた。
メリーさんは、手鏡の角度や場所を調整する。
僕もスマホの位置をメリーさんの持っている手鏡に当たるように調整した。
黒い球体に、光が当たった。
すると、その球体から煙のようなものが出始めた。
光が当たった場所からだ。
「カズキ!効いていそうよ?」
「そうだね。」
なんだか、球体からは、得体も知れない小さな煙りが出てきた。
心なしか黒い球体が小さくなった気もする。
黒い球体は、形を変えるように動いている。
そして……。
ぶしゅー!
黒い球体から、全方向へ。
もの凄い勢いで黒い煙が噴き出してきた。
その様子はまるで黒い煙幕やのろしのようだ。
しかし、その黒さは、書道で使う墨汁のように黒い。
そんな真っ黒な煙が球体から周囲へ。
体育館は、アッという間に、黒い煙に包まれ、何も見えなくなった。
視界は真っ暗。
僕は、墨のような匂いでもするかと思ったが、匂いは特になかった。
「メリーさん!大丈夫?」
僕は、メリーさんにそう叫んだ。
「ええ、大丈夫よ。カズキ!」
メリーさんの声が聞こえたので、僕は安心した。
しかし、これでは、虚籠へ光を当てることができない!
僕はスマホのライトを最大にする。
ライトの光が漆黒の闇に吸収されてしまう。
まったく、ライトの意味をなさない。
「メリーさん、どうしよう!」
「カズキ、落ち着いて!」
メリーさんの声が闇の中から聞こえてきた。
「私に考えがあるわ!」
「どんな考え?」
僕は期待を込めて聞いた。
「私の霊界通信よ!」
メリーさんは興奮した様子で言った。
「この通信の電波を使うの。もしかしたら、この黒い煙を貫けるかもしれない!」
「そっか!」
僕も興奮してきた。
「でも、電波って目に見えないよね?どうやって光に変えるの?」
「そうね。電波は目に見えないわ。でも、私たちが見ている光も実は電波の一種なのよ。目に見えないけど電波は光の一種なの。」
メリーさんは、電波について説明をした。
僕は、理科の授業で習ったような内容だと思った。
「カズキ!電話をするわよ。私がスマホで電話をすると電波が発せられるはずなのよ!」
メリーさんの声が聞こえる。
しばらくすると、スマホに着信が来た。
名前は、メリーさんと表示されている。
僕は、電話を取った。
「もしもし?カズキ!見ててね!」
スマホからメリーさんの声が聞こえた。
隣の領域が明るい。
メリーさんが見えた。
メリーさんがスマホに手鏡をかざしている姿が見える。
手鏡からは、まるでビームのように強い光が発せられていた。
「カズキ、このまま虚籠に光を当てるわね!」
メリーさんは、手鏡を調整して虚籠を探していた。
そして、黒い球体があった。
まるでビームのような光が黒い球体を捉えた。
黒い球体が光を吸収しているかにも見えたが
よく見ると、球体が急激に小さくなっていた。
そして、球体が小さくなるにつれて、黒い煙が急速に薄れていき、体育館の姿が再び現れ始めた。
赤い光が差し込んでくる。
「効いてる!」
僕は喜びの声を上げた。
メリーさんは、そのまま光を虚籠に集中させ続けた。
虚籠はさらに小さくなっていく。
もはや僕の頭よりも小さい。
「カズキ!現実世界との繋がりができたみたいよ!」
メリーさんの声が聞こえた。周囲の景色がぼやけ始める。
僕の体が宙に浮いたような感覚に襲われ、まばゆい白い光に包まれていた。
気がつくと、僕は学校の体育館に倒れていた。
空には夕日が沈みかけており、柔らかな橙色の光が体育館に差し込んでいる。
決して赤くはない。
僕は、現世に戻ってきたんだ。
広い体育館には、僕の他に誰もいない。
「メリーさん!」
僕は叫んだ。
周囲を何度も見る。しかし、誰もいない。
僕は手にしていたスマホを見た。
さっきまで電話していた履歴が残っている。
メリーさんだ。
僕はメリーさんに電話を掛けた。
番号は、000-0000-0000だ。
「もしもし、カズキ?」
メリーさんの声がスマホから聞こえる。
僕は、涙が出そうになった。
「メリーさん!現世に戻れた。メリーさんも早く。こっちへ!」
僕はそう返事をした。
「私、メリーさん。今あなたの前にいる、の。」
スマホからメリーさんの声が聞こえた。
いや、途中から近くにメリーさんの声が重なって聞こえた。
目の前にスマホを持ったメリーさんがいた。
僕は、メリーさんを抱きしめた。
「ありがとう!メリーさん。戻れたよ!」
僕は、ありったけの感謝の言葉を言った。
「もう!カズキ。私の都市伝説は私から電話しないとダメなのに…。」
メリーさんは、どこか拗ねたような口調で僕へそう言った。
「でも、カズキが電話してくれて嬉しかったわ。ありがとう。」
メリーさんが優しくそういった。
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