幽霊学校からの脱出

速水静香

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第五話

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 僕とメリーさんは、図書室を出た。
 赤い廊下が続いているだけで、しーんと静まり返っていた。

「大丈夫そうね。」

 メリーさんは、そういって真っ赤な光が差し込む廊下を進みだした。
 目的地はもちろん、3階の女子トイレ。
 カシマさんがいた場所で、今はトイレの花子さんがいるはずのトイレ。

「メリーさん。3階へは、こっちから行ったほうがいいよ。」
「そう?じゃあ、えっと。その、カズキ?そのね。」

 メリーさんは、よく分からないことを言い出した。

「メリーさん?」
「あの!私を背負って運んでほしいの!」

 メリーさんは、恥ずかしそうに言った。

「分かった。でも、そんなに恥ずかしがることじゃないんじゃ?」

 僕がそう言っている間。
 メリーさんは、無言で僕に背中に乗ってきた。

「私にも、都市伝説としての矜持があるのよ。」

 メリーさんは、しっかりと僕の背に乗ってから、小声でそんなことを呟いた。
 僕は、これまで散々メリーさんを背負ってきたので、なにを今さらと思った。
 だけど、そんなことを気にしているメリーさんは、やっぱり面白いな、と思った。

「じゃあ、行くよ。」
「うん!」

 そんなやり取りをして、僕はメリーさんを背負いながら歩き出した。
 真っ赤な廊下を歩いてく。
 窓の外はこの世の終わりのような赤い太陽と赤い空間だ。
 僕は、階段に向かって歩いた。

 メリーさんを背負ったまま、階段を上り、僕たちは3階のトイレの前に来た。
 一度、カシマさんによって連れてこられた場所だ。
 そのことを思い出すと、身震いがした。
 だけど、意を決して僕は女子トイレに入ることにした。

「よし、入るか。」
「カズキ。」

 メリーさんはそう言って、僕の背から飛び降りた。

「ありがとう。」
「どういたしまして。」

 メリーさんは、僕にそう言った。
 そして女子トイレに向かって歩き始めた。
 
 嫌な思い出しかないトイレ。
 だけど、僕も意を決して、メリーさんの後に続いた。
 3階の女子トイレでトイレの花子さんと会うのだ。

 もちろん向かうのは、トイレの一番奥の個室。
 メリーさんと僕は、一番奥の個室へと急いだ。
 トイレの一番奥に到着すると、個室のドアを3回ノックした。

 トン、トン、トン。

「花子さん、遊びましょう」

 メリーさんがそういった。

「はぁい。」

 トイレの個室の中から声がした。
 女の子の声だ。

 これがトイレの花子さんなのか?

 メリーさんの隣にいる僕は、ドアに手をかけた。

「…えっと。ドアは私が開けるんだけど。」

 個室の中にいた女の子はそう言った。
 その女の子は、白いブラウスに赤い吊りスカートを履いている。
 前髪をぱっつんと切りそろえ、おかっぱの髪型をしている。
 どこからどうみてもトイレの花子さんだ。
 花子さんは、なぜか手にトイレ用洗剤を持っていた。

「あっ、ごめん!」

 僕は、反射的に謝った。

「ここは女子トイレだよ?どうして男子がいるの?」

 トイレの花子さんは、僕にそう言った。
 僕は、ここが女子トイレであることを急に思い出して恥ずかしくなってきた。

「えっと、あなたがトイレの花子さんでいいの?」

 メリーさんが、もじもじしている僕の隣で冷静に話を変えた。

「そうよ。私は花子。トイレの花子さんと呼ばれているの。」

 赤いスカートと白いブラウスの花子さんは、そういった。

「うーん。いたずらは困るのよね?」

 花子さんは、手にした洗剤をトイレの隅に置いた。

「何か用かしら?用がないなら、さっさと帰ってくれないかしら?今、トイレに戻ってきたばかりで、忙しいのよ。」

 トイレの花子さんは、じっとこっちを見てそういった。

「えっと。前にカシマさんがいたので…。」

 メリーさんは、そう言い始める。

「カシマさん!…ああ、あの。そのせいで私は。…このトイレから出ていくことになっていたのよ。彼女はどこか行っちゃったから、戻ってきているんだけどね。」

 花子さんは、どこか遠い目をしながらそう話した。
 僕は、メリーさんと花子さんの話を聞いている。
 花子さんは、僕たちと話すよりもトイレ掃除がしたいようだ。
 
「えっと、そのカシマさんを追い払ったのは、ここにいるメリーさんなんです。」

 僕がそういうと、どこかメリーさんは得意げだ。
 僕は、メリーさんを持ち上げる作戦にしたのだ。

「めりーさん?えっと、あなたがメリーさんなの?」

 花子さんは、メリーさんを見た。
 そして、少し考え込んでいるようだ。

「……カシマさんは、このトイレに永久に戻ってこれないわ。」
「どういうこと?」

 メリーさんが話を始めた。
 すると花子さんは、興味深そうに聞いてきた。

「私は、カシマさんの話を逆手にとって、カシマさんの話をさとるくんという、えっと。…都市伝説仲間にしたのよ。」
「今のカシマさんは、実体のない都市伝説を追いかけているの。永久に捕まえられないモノを追っているわ。」
「あはは。なにそれ?面白いわ。」

 花子さんは、メリーさんの話を聞いて笑った。

「それにしても、あの女が出て行ってくれて、良かったわ。」

 花子さんは、そう言ってメリーさんのほうを見た。

「メリーさんだっけ?何か私に用でもあるのかな?」
「はい、実は…。」

 それから、メリーさんは、花子さんに虚籠について話を始めた。

「なるほどー。図書室のお姉さんに話を聞いたのね。」

 花子さんは、メリーさんの話を聞いて納得したようだ。

「うーん。それで、メリーさんともう一人の…。」
「僕は、中村カズキといいます。」

 僕は、花子さんに名前を名乗った。

「ああ、カズキくんね。二人は、この校舎から出たいのね?それなら…。」

 花子さんは、そういうと同時に手が光りだした。
 しばらくすると、花子さんの光っていた手の先には、手鏡が握られていた。

 ハンドミラーだった。
 手で握る柄があって、先には丸い鏡が先についている。
 ちなみに色はピンクだ。
 
「これをあげるわ。」

 花子さんがメリーさんにそういって、手鏡を差し出してきた。
 メリーさんは、そのピンクの手鏡を受け取った。

「この手鏡には、破魔の鏡がついてるの。」
「「破魔の鏡?」」

 僕とメリーさんは、花子さんに聞き返した。
 花子さんは頷いた。

「虚籠は、光に弱いの。ただの光でも怯ませられると思うけど。この鏡で反射した光を当てると虚籠は、消滅し始めるはずよ。」

 花子さんは、そういって続けた。

「虚籠は、害意のある存在を呼び続けている。…カシマさんも虚籠が呼んだ存在の一つよ。だから私はちょっと許せないわ。」

 花子さんは、力を込めてそう言った。

「虚籠の力を弱めることができれば、現世に戻れるはずよ。完全消滅は難しいでしょうけど、その手鏡に光を反射させて虚籠に当てればいいわ。そうすれば…。」
「そうすれば?」

 僕は、花子さんに聞き返した。

「虚籠の力が弱まって、現世との繋がりができるはず。特にカズキは、人間だから。異物として、すんなりと校舎から出されるんじゃないかしら?」
「分かった。いや、ちょっと待てよ?」

 僕は、思った。メリーさんは?

「メリーさんは、脱出できるのか?」
「うーん。それは分からないわ。」

 花子さんは、そんなことをいった。

「大丈夫よ。カズキ。現世にもどったら、カズキに電話するから。」

 メリーさんは、そういった。
 ああ、そうなのだ。メリーさんは、電話先にワープできるのだ。
 僕は、ようやく満足した答えを得た感じだ。

「私には、よく分かんけど。大丈夫なのね?」

 花子さんは、メリーさんの話し方からそう判断したようだ。
 メリーさんは、手鏡をまじまじと見ていた。

「じゃあ、その手鏡で虚籠を倒せばいいのね?」

 メリーさんは、そう聞いたが、花子さんは首を横に振った。

「いいえ、それは難しいでしょうね。虚籠は、光に弱いけど、強大な力を持っている。完全な消滅は難しいでしょう。力を弱めて、脱出するだけにとどめたほうがいいでしょう。」

 花子さんは、メリーさんにそう答えた。

「ありがとう。花子さん。じゃあ、虚籠のところへいくことにするよ。」

 僕は、花子さんにそういった。

「じゃあ、報告を楽しみに待ってるわ。…現世に帰っても、この女子トイレで同じことをすれば、私がいるから。遊びに来てね。」
「うん、分かった。」

 僕は、それだけ言って、メリーさんと体育館へ向かうことにした。
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