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プロローグ 男女入れ替わりの序章
悪女エリーゼはエリート男子と身体を入れ替える(扉絵有)
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<神の視点のちエリーゼ視点>
夕暮れ、音符の模様の制服を着た少女は長いブロンズの髪をたなびかせ、黒髪のやんちゃそうな少年に真剣な眼差しを向けた。
「ごめんね。隠したりして。この通り、僕の正体は男なんだ。いつか男に戻る日が来る。だから……」
「僕は、いや、俺はっ!」
少年はうつむきながらこぶしを握り締める。
少年は勇気を出して言葉を紡ぎ出し、少女の瞳の反射光が震える。
その言葉は魔法ではないのに、少女は魔法にかけられる。
この物語は3人の少年少女が数奇な運命をたどる群像劇である。
「必ずやエリート男子の体を手に入れてみせる!そして、やつらに復讐を!」
私は亡き父に誓った。
ミラヴェニア魔法学校は世界各地から魔法使いの卵が集まるエリート校だ。
今年も世界各地から、難関試験を通った合格者が集まる。
私、エリーゼ・オブルスもそんなエリートの中の一人だ。
この世界においては、魔法使いのエリートの多くは、幼い頃から、魔法のトレーニングを積む経済力のある名家の男から生まれる。
私のような、平民の出の女が簡単に成り上がれるような世界ではない。。
当たり前のように実力性という建前で男尊女卑の封建的な身分制社会が運営されている。
女であること、あるいは庶民であることに、私は何度歯がゆい思いをしたか。
だが、そんな日々ももうすぐ終わる。
私は名家の男になるのだから。
「みなさんお集まりください。新入生オリエンテーション会場はこちらです」
山高帽のような意匠が施された会場に入ると、魔法学校の制服を着た男女がわらわらと会話していた。
服装によってみすぼらしい気持ちをせずに済むことは、庶民にとって大変ありがたいことだ。
そんな新入生の戦いはすでにはじまっていた。
ひとりの男に群がる女たち、女を探してきょろきょろと挙動不審に首を振る男。
花束を持った男が近づく姿を確認すると必死で走って逃げる女。
これは、婚活さながらの男女の値踏み合戦である。
これほど、醜い光景はこの世界でもなかなかお目にかかれるものはないだろう。
この様子は魔法ニュースとして拡散され、時に面白映像として楽しまれる。
ミラヴェニア魔法学校では入学したときに、新入生同士で男女のペアを組み、そのペアは卒業まで続く。
男子生徒の成績によって、女子生徒の成績も大きく連動して決まるものだから、女子生徒はそれはもう必死である。
3年間の間に絆が深まり、生徒の1/5はペア同志でそのまま結婚する。
だから、女子は入学式前に名家の男の写真を頭の中に刻み付け、親しい仲になろうと必死になっているのだ。
だが、私には作戦があった。
考えられる限り、みすぼらしそうな男、うだつがあがらない、出世しなさそうな男を値踏みして探す。
会場で一人きりで突っ立ってぼーっと鼻を垂らしている少年に目を止める。
「ねえ、君?ペアの女の子決まってないの?」
「え、ぼ、僕ですか?」
「あなたに決まってるじゃない」
「まだ決まってないですよ。補欠合格だし、魔法の技能も初心者みたいなもので……」
「いいねえ!君に決めた!」
「へ?」
「君を私のパートナーにする!そのぼさぼさの髪!頭の悪そうな顔!泥にまみれた靴。すべて気に入った。記帳しに行こう!」
強引に手を引き、会場のパートナー記帳名簿の前に来る。
そして、自分の名前、エリーゼ・オブルスを記帳する。
「さ、どうした?自分の名前書かないの?」
「そんな。いきなり、言われても、僕、自分の気持ちの整理が、で、で、できないよ」
「どうせパートナーなんてできないくせして。私がなってあげるって言ってるんだから、レディーの善意は受け取るものよ」
「でも……」
「書きなさい!」
「は、はい」
「ふんふん。アキラ・スズキね。変わった名前ね。外国出身?」
「この名前には説明すると長い理由がありまして……」
「まあ、どうでもいいわ。どうせ、もうすぐ、今の自分ともおさらばなんだから」
「どういうことですか?」
「あなたは知らなくてもいいことよ」
こうして、アキラ・スズキとペアになった私は、ミラヴェニア魔法学校に入学式を迎えた。
ペアがいると言っても、男子寮と女子寮は分かれていて、私は女子寮に入ることになった。
私は、地方からやってきたというクララ・ノーマンと同室になった。
クララ・ノーマンは作法のなっていない田舎娘である。
目ざわりなので、徹底的にいじめぬくことにした。
「なにそのダサいブレスレット?田舎ではそんなもの流行ってるの?」
「こ、これは母の形見でして」
「ふーん。田舎者の母親はそんなダサいものがお似合いでしてよ?」
「ひ、ひどい……」
と、こんな具合に時には憂さ晴らしで泣かせている。
だが、こんなつまらない憂さ晴らしでストレスを晴らす日々はすぐに終わる。
入学して最初の1週間が過ぎたころ、私は、名家の男子、エリック・モリスに手紙を出す。
学年2位の成績をたたき出した優等生だ。
彼のペアであるクララの名前を使って、彼を人のいないもみの木の下に呼び出したのだ。
案の定、私の顔を見て彼は不思議そうな顔をする。
「あれ?クララ……じゃないみたいだね。君、クララって女の子を見なかった?」
「クララの名前を使って私が呼び出したの」
「君が?なぜ?君は一体誰なんだ?」
「私の名前は、エリーゼ・オブルス。そして、それは、これからの先の人生、あなた自身の名前になるものよ」
私は魔法の詠唱をはじめた。
「アイニ、ソエト、フワン、タト、モルス、エガニ」
「なんの魔法を唱えているんだい?」
(秘密ルートで手に入れた禁呪!入れ替わりの魔法よっ!)
詠唱を終えた私は彼に両手を向けた。
「!?こ、これは、な、何を……しまった油断した……」
私の意識は一瞬遠のいたが、しばらくして目を開ける。
横のもみの木が小さく見えた。
自分の背が伸びているのである。
「あ、ああ、いい声♪しびれる低音」
私は、エリック・モリスの身体を手に入れた。
夢にまで見たエリート男子の身体である。
私はこれから先、エリート男子として順風満帆の人生を歩むのである。
「こ、これは……」
私の顔をしたエリック・モリスは狼狽していた。
「おはよう。エリーゼ・オブルスさん」
「さ、さては、禁呪を使ったな!よくも!元の体に戻せ」
「いやよ」
「魔法警察に言うぞ……」
「あ、そうだ。一つだけ言っておくわ。もし、魂と身体が違うことを他の人に知られたらその瞬間、あなた死ぬから」
「うそだろ」
「本当よ。ふふっ。庶民の女のみじめな人生を楽しみなさい。考えられる限り、とびっきりみじめなパートナーを選んであげたから」
「そんな……」
泣き顔をした彼女を顔に、優越感で満たされた私はその場を去った。
広場に行き、新しい体で魔法を唱えてみた。
男性にしか唱えられない強力な火炎魔法だ。
「ふふふ。わははははははは。私は、いや俺様は最強の力を身に着けたのだ。これからは、大魔法使いとして出世街道を上っていくのだー!」
俺様の輝かしい人生はここからはじまるのだ。
夕暮れ、音符の模様の制服を着た少女は長いブロンズの髪をたなびかせ、黒髪のやんちゃそうな少年に真剣な眼差しを向けた。
「ごめんね。隠したりして。この通り、僕の正体は男なんだ。いつか男に戻る日が来る。だから……」
「僕は、いや、俺はっ!」
少年はうつむきながらこぶしを握り締める。
少年は勇気を出して言葉を紡ぎ出し、少女の瞳の反射光が震える。
その言葉は魔法ではないのに、少女は魔法にかけられる。
この物語は3人の少年少女が数奇な運命をたどる群像劇である。
「必ずやエリート男子の体を手に入れてみせる!そして、やつらに復讐を!」
私は亡き父に誓った。
ミラヴェニア魔法学校は世界各地から魔法使いの卵が集まるエリート校だ。
今年も世界各地から、難関試験を通った合格者が集まる。
私、エリーゼ・オブルスもそんなエリートの中の一人だ。
この世界においては、魔法使いのエリートの多くは、幼い頃から、魔法のトレーニングを積む経済力のある名家の男から生まれる。
私のような、平民の出の女が簡単に成り上がれるような世界ではない。。
当たり前のように実力性という建前で男尊女卑の封建的な身分制社会が運営されている。
女であること、あるいは庶民であることに、私は何度歯がゆい思いをしたか。
だが、そんな日々ももうすぐ終わる。
私は名家の男になるのだから。
「みなさんお集まりください。新入生オリエンテーション会場はこちらです」
山高帽のような意匠が施された会場に入ると、魔法学校の制服を着た男女がわらわらと会話していた。
服装によってみすぼらしい気持ちをせずに済むことは、庶民にとって大変ありがたいことだ。
そんな新入生の戦いはすでにはじまっていた。
ひとりの男に群がる女たち、女を探してきょろきょろと挙動不審に首を振る男。
花束を持った男が近づく姿を確認すると必死で走って逃げる女。
これは、婚活さながらの男女の値踏み合戦である。
これほど、醜い光景はこの世界でもなかなかお目にかかれるものはないだろう。
この様子は魔法ニュースとして拡散され、時に面白映像として楽しまれる。
ミラヴェニア魔法学校では入学したときに、新入生同士で男女のペアを組み、そのペアは卒業まで続く。
男子生徒の成績によって、女子生徒の成績も大きく連動して決まるものだから、女子生徒はそれはもう必死である。
3年間の間に絆が深まり、生徒の1/5はペア同志でそのまま結婚する。
だから、女子は入学式前に名家の男の写真を頭の中に刻み付け、親しい仲になろうと必死になっているのだ。
だが、私には作戦があった。
考えられる限り、みすぼらしそうな男、うだつがあがらない、出世しなさそうな男を値踏みして探す。
会場で一人きりで突っ立ってぼーっと鼻を垂らしている少年に目を止める。
「ねえ、君?ペアの女の子決まってないの?」
「え、ぼ、僕ですか?」
「あなたに決まってるじゃない」
「まだ決まってないですよ。補欠合格だし、魔法の技能も初心者みたいなもので……」
「いいねえ!君に決めた!」
「へ?」
「君を私のパートナーにする!そのぼさぼさの髪!頭の悪そうな顔!泥にまみれた靴。すべて気に入った。記帳しに行こう!」
強引に手を引き、会場のパートナー記帳名簿の前に来る。
そして、自分の名前、エリーゼ・オブルスを記帳する。
「さ、どうした?自分の名前書かないの?」
「そんな。いきなり、言われても、僕、自分の気持ちの整理が、で、で、できないよ」
「どうせパートナーなんてできないくせして。私がなってあげるって言ってるんだから、レディーの善意は受け取るものよ」
「でも……」
「書きなさい!」
「は、はい」
「ふんふん。アキラ・スズキね。変わった名前ね。外国出身?」
「この名前には説明すると長い理由がありまして……」
「まあ、どうでもいいわ。どうせ、もうすぐ、今の自分ともおさらばなんだから」
「どういうことですか?」
「あなたは知らなくてもいいことよ」
こうして、アキラ・スズキとペアになった私は、ミラヴェニア魔法学校に入学式を迎えた。
ペアがいると言っても、男子寮と女子寮は分かれていて、私は女子寮に入ることになった。
私は、地方からやってきたというクララ・ノーマンと同室になった。
クララ・ノーマンは作法のなっていない田舎娘である。
目ざわりなので、徹底的にいじめぬくことにした。
「なにそのダサいブレスレット?田舎ではそんなもの流行ってるの?」
「こ、これは母の形見でして」
「ふーん。田舎者の母親はそんなダサいものがお似合いでしてよ?」
「ひ、ひどい……」
と、こんな具合に時には憂さ晴らしで泣かせている。
だが、こんなつまらない憂さ晴らしでストレスを晴らす日々はすぐに終わる。
入学して最初の1週間が過ぎたころ、私は、名家の男子、エリック・モリスに手紙を出す。
学年2位の成績をたたき出した優等生だ。
彼のペアであるクララの名前を使って、彼を人のいないもみの木の下に呼び出したのだ。
案の定、私の顔を見て彼は不思議そうな顔をする。
「あれ?クララ……じゃないみたいだね。君、クララって女の子を見なかった?」
「クララの名前を使って私が呼び出したの」
「君が?なぜ?君は一体誰なんだ?」
「私の名前は、エリーゼ・オブルス。そして、それは、これからの先の人生、あなた自身の名前になるものよ」
私は魔法の詠唱をはじめた。
「アイニ、ソエト、フワン、タト、モルス、エガニ」
「なんの魔法を唱えているんだい?」
(秘密ルートで手に入れた禁呪!入れ替わりの魔法よっ!)
詠唱を終えた私は彼に両手を向けた。
「!?こ、これは、な、何を……しまった油断した……」
私の意識は一瞬遠のいたが、しばらくして目を開ける。
横のもみの木が小さく見えた。
自分の背が伸びているのである。
「あ、ああ、いい声♪しびれる低音」
私は、エリック・モリスの身体を手に入れた。
夢にまで見たエリート男子の身体である。
私はこれから先、エリート男子として順風満帆の人生を歩むのである。
「こ、これは……」
私の顔をしたエリック・モリスは狼狽していた。
「おはよう。エリーゼ・オブルスさん」
「さ、さては、禁呪を使ったな!よくも!元の体に戻せ」
「いやよ」
「魔法警察に言うぞ……」
「あ、そうだ。一つだけ言っておくわ。もし、魂と身体が違うことを他の人に知られたらその瞬間、あなた死ぬから」
「うそだろ」
「本当よ。ふふっ。庶民の女のみじめな人生を楽しみなさい。考えられる限り、とびっきりみじめなパートナーを選んであげたから」
「そんな……」
泣き顔をした彼女を顔に、優越感で満たされた私はその場を去った。
広場に行き、新しい体で魔法を唱えてみた。
男性にしか唱えられない強力な火炎魔法だ。
「ふふふ。わははははははは。私は、いや俺様は最強の力を身に着けたのだ。これからは、大魔法使いとして出世街道を上っていくのだー!」
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