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第2章 〜高校入学〜

(10)昼休憩は趣味の時間に…

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 「「アネッサさ~ん、早く来ないとみんなでお弁当食べ始めちゃうよ~?」」

「はーい!すぐ行く~」

 学校案内から1ヶ月が過ぎた。
アネッサはすっかりクラスに馴染めているようだ。
なんなら僕より馴染んでる気がするのは気のせいだろうか…

「司?何してるのよ、早く行くわよ!」

「え!?なんで僕も行くんだよ…」

「みんなで食べるなら人数が多い方が楽しいでしょ?」

 まったく、コイツは僕がクラスに馴染めていないのを察してそれとなく馴染めるよう手助けしてるつもりなのだろう。
 なんと情けない…転校して1ヶ月のやつに気を遣われるなんて、こんな自分が嫌になってくる。

「あー、すまないが今日は佐伯と一緒に食べる約束なんだ。また今度誘ってくれたら助かる」

「ふーん。そっか!じゃあまた今度ね~」

 もちろん佐伯との昼約束なんてのは真っ赤な嘘である。
 だがまぁ、あのままアネッサに連れられて女子達の花園へ行くのは流石に周りの男子に何を言われるか分かったもんじゃないので、これも仕方ないことなのである。
アネッサを見送った後、また僕の机の目の前にポニーテールの訪問者が現れた。

「司くーん、今日は無事?」

 クラス委員長である林崎凛だ。今のところ僕の身を案じてくれているのは彼女だけだろう。

「あぁ、今日はなんとか無事だよ」

「よかったー、最近の男子達ずーっとアネッサちゃんの話してるから、司君にもまた被害が出てるんじゃないかと思ってさ!」

「なるほどね」

「それじゃ、安否確認できたからもう行くね~!」

 相変わらず委員長はクラスのために走り回っているらしい。
 なにはともあれ、これでようやく僕にも平和な時間が訪れる。
鞄からお母さんが作ってくれたサンドイッチを取り出し、片手には最近ハマっている本。やはり昼休憩はこれが一番なのである。



 キーンコーンカーンコーン…
 昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。
5限目の国語はクラスの約8割が眠ると言われている悪魔の授業なのだが、僕とアネッサはなんとか睡魔を振り切り、必死に授業に食らいついている。

「はい!先生!質問があります!」

「どうぞ、アネッサさん」

ヨボヨボのおばあちゃん先生がアネッサの質問に対応する。

「なぜ、この物語の主人公はこんなにも平和な日本に住んでいるのに争いを求めているのですか?」

このように、異世界の名残が残っている質問が時折アネッサの口から飛び出されるが、ここ最近はこの程度で済んでいるので僕としては一安心だ。

「うーん、そうねぇ。アネッサさんはどうしてこの国が平和だと考えたの?」

「そ、それはシュケイ…じゃなくて!……なんと…なく?」

 僕が目配せで"ダメ"のジェスチャーをしていなければ、アネッサはポロリと故郷の国の名前を言い放っていただろう。
前言撤回、やはりまだまだ安心はできないようだ。



 キーンコーンカーンコーン…

「起立!気を付け!礼!」

「「「ありがとうございました」」」

 ようやく悪魔の授業が終わったようだ。
そこら中から欠伸の音がする。

「ふぁ~、アネッサちゃん凄いねー。私、授業始まった瞬間に寝ちゃったよ(笑)」

「だ、だって私まだまだ勉強しないといけませんし…」

「あはは、やっぱりアネッサちゃんは真面目だね~」

 授業が終わった瞬間すぐこれだ。
僕がアネッサの席へ近づく暇すら与えられない。

「はぁ~」と短い溜息を吐いていると、後ろから慣れ親しんだ口調の男が声を掛けてきた。

「んッだよォォ、司ァァ。アネッサに言いたいことがあるなら近くまで行って言えば良いじゃねぇかァァ」

「それが難しいから僕は溜息を吐いているんだよ…」

「ほーん。なら、俺がアネッサの周りに居る女子共を退かしてこようかァァ?」

「辞めろ。お前印象が今でさえ酷いのに、これ以上酷くなったら僕以外誰も近寄らなくなるぞ」

「そうなのかァァ。俺にはムッズかしいことは分かんねぇからなァァ。司の言う通りにするわァァ」

まったく。良いやつなのか悪いやつなのかハッキリしてほしいところだ。

「とりあえず、家に帰ってからアネッサと話すことにするよ」

「そうかァァ、まぁ、あと1時間頑張ろうぜェェ」

「あぁ、お前は寝ないようにな?」

 などと、軽口を交える余裕が出てきたのは、間違いなく佐伯のおかげだろう。
 まったく、コイツは見かけによらず良いやつだ。
さぁ、後1時間頑張って、アネッサに"あのこと"を伝えないとな…


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