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第2章 〜高校入学〜

(8)昼休みは野次馬と共に

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 キーンコーンカーンコーン…
昼休みが始まる鐘の音が鳴ってしまった。
いつもの僕なら爆速で弁当を食べ、教室の隅で本を読み寛いでいるところなのだが、今日だけは違う。
今日の朝、佐伯が事件を起こしてしまったせいで僕とアネッサの机の周りには大量の人だかりが出来ている。

「ねぇねぇ、アネッサさん!なんで初めての日本なのに言葉がそんなに流暢なの?」

「えーと、ワタクシ日本のアニメが大好きで、ここに来る前からいっぱい日本語を勉強してましたの!」

 もちろん嘘である。
だが、本当は翻訳魔法使ってます!などと言っても怪しまれるだけなので、ここは僕の言う通りの受け答えで通してもらっている。

「へぇ~、そうなんだ。ちなみに好きなアニメってなぁに?」

「あ、あんぱんまんとか…?」

「アハハッ、なんで疑問系なのよ(笑)アネッサさんって面白いね~」

 どうやらアネッサはこちらの世界でも社交性があるようだ。
しばらくすればアネッサはすぐにクラスメイトと仲良くなるだろう。

 アネッサと比べて、僕はどうだろう。
僕の机の周りに群がっているのがアネッサ目的の雄猿しか居ないのも理由の一つではあるが、僕はこれまで無視され続けてきたクラスメイトと話し合う気になれない。

「なぁなぁ、俺たち友達だよな?」
「デュフッ!金元殿、我々は同志ですぞ!隠キャ同士仲良くしようではありませんか!」

 はっきり言って気味が悪い。今すぐこの場から逃げたいところだが、アネッサも居るし、仕方なく受け答えしようと思った矢先、僕の目の前に救世主が現れた。

 伸びの良い四肢にすらりとした腰、胸のボタンがはち切れんばかりの豊満な胸を持つポニーテールの美女。クラス委員長の林崎凛(はやしざき りん)だ。

「ちょっとアンタ達!金元君が困ってるでしょ!仲良くなるのは良いけど、アネッサさんの唯一の知り合いを独占してどうするのよ!」

「うぐッ、分かったよォ。金元、後で話し合おうぜ!」

 もちろん答えはNOだが、とりあえず今は立ち去ってもらうため、会釈で誤魔化す。

「はい!散った散った!もぉ~。なんで男子はいつもこうなのかね?」

 若干怒りつつもクラスの男子共のお世話をする光景はさながら世話焼きの寮母だ。

「金元君大丈夫…?」

「あ、あぁ、大丈夫だ。すまないね林崎さん、僕がガツンと言えたら漢らしかったんだけどね(笑)」

「大丈夫大丈夫、人には得意不得意があるからねー、またあいつらに絡まれたらいつでも頼ってね!」

そう言うと彼女はスタスタと次の揉め事の現場へと足を運んでいった。


流石クラス委員長だ。林崎が居ればこのクラスは安泰だろう。
などと考えていると、突然後ろから声を掛けられた。
またあの男子共か…?とも一瞬考えたが、その考えは独特の喋り方のせいで消え去る。
そう、佐伯だ。

「おォォ、司ァァ。朝はすまねぇことしたなァァ。まさかクラスの連中があんなに興味津々になるとは思ってなくてよォォ」

 どうやら彼にも罪の意識はあるらしい。
だか、いくら謝ったところで僕が心の中で宣言した"コイツにはラーメン一生奢らない宣言"は覆らない。

「まったくだよ、お前のおかげで僕はとんだ有名人だ」

「うぐッ、またラーメン奢ってやるからよォォ、それで勘弁してくれやァァ」

 まったく呆れたやつだ。怒っている方がバカらしく思えて僕は佐伯をとりあえず許すことにした。

「いいか?今回は許すが、次からはあんなこと言わないでくれよ…?」

「あァァ、任せとけェェ」

「それで、僕に何の用だ?」

「あァァ、そうそう、先公からお前に言伝を頼まれたんだ」

「言伝…?」

「どうやら、アネッサに放課後学校を案内してほしいらしいぜェェ」

「なるほどな。断る理由もないし、喜んで引き受けよう」

本心では読書の時間が削られるのでとても断りたかったが、流石にアネッサを1人置いて学校を帰るわけにはいかない。これも仕方ないことだと割り切って腹を括る。

「んじゃァァ、後は頼むわァァ」

「あぁ、言伝ありがとう」

「礼には及ばねェェ」

そう言い残し佐伯は去っていった。

「まったく、面倒な役割を押し付けられてしまったものだ…」

溜め息を吐きながらお気に入りの本を鞄から取り出す。
まぁ、学校を案内するだけだ。何か問題が起こらなければすぐに帰れるか…
そう思い、僕は頭を空っぽにし、残り少ない休憩時間を確認してから、読書の世界に沈んでいった…
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