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【1話】無理に付き合うの止めるっ
夕食は『ぶり大根』
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髪を乾かし終えた初菜がキッチンに行った。
「ぱぱー、きょうのごはん、なあに」
食器を並べる音が聞こえる。
「今日は、ぶり大根と、きのこのお味噌汁。それに、ほうれん草のお浸しだよ。好き嫌いしないで食べるんだよ」
「えー、はっちゃん。みどりのはっぱ、いや」
「一口でいいから、食べて」
「はああい」
いかにも渋々といった返事をする初菜の声が聞こえてくる。
佐奈子がキッチン横のダイニングテーブルについた時は、すでに夕食はテーブルに並んでいた。
「いつもありがとう。今日は、ブリかあ。美味しそう」
透也が初菜の背中を追い立てるようにして、椅子に座らせた。
三人で同時に手を合わす。
「いただきます」
初菜は大根にかぶりついた。一口が小さすぎて笑ってしまう。
いくら口が小さくても、その量は少なすぎる。
見かねた透也が、かぶりつきやすい大きさに切り分ける。ついでに、ほうれん草も一口分だけを初菜の皿に残し、他のものは佐奈子と自分の皿に入れる。
「さっちゃん、機嫌良いね」
透也にも言われてしまった。佐奈子は、味噌汁のきのこをつかみながら苦笑いする。
「知世さんにも、似たようなこと言われた」
きのこは、なめ茸、しいたけ、まいたけ、しめじと盛りだくさんだ。
「今は、そのとき以上に機嫌良いかも」
透也は、ぶりを口に入れ、味の染み込み具合に満足そうな顔をしつつ、興味津々といった風に輝かせた目を佐奈子に向ける。
「あー、今まで、ほら。四時迎えのママたちとの距離感っていうか、関係に悩んでたでしょ。無視されてんのかなあ、とか。たぶん、私の被害妄想だとは思うけど、とか。愚痴言ってたけど、昨日あたりから、そういうのが全然気にならなくなって」
佐奈子は味噌汁を飲む。出汁はキノコだけだろうか。
「ねえ、お味噌汁の出汁って何で…」
言葉の途中で、透也の手がかざされた。
「ご飯のことは後で話すから。先に、さっちゃんの話して」
透也が佐奈子の言葉を遮るのは珍しい。さんざん愚痴を聞かされてきたから、話の顛末を知りたいのかもしれない。
佐奈子は味噌汁の椀をテーブルに置いた。
「まあ、忙しかったりしたら挨拶するのに気がいかないときがあったりするかなって思えるようになったっていうか。あからさまな嫌がらせをされてるわけじゃないから。ああ、気にしすぎなんだなって」
見るからに味が染み込んでいる大根を一口サイズに切る。すっと箸が入るのが気持ち良い。
「透也くんや知世さんにはさんざん言われてきたことだけどさ。やっと心底、腑に落ちた」
大根を口に入れる。甘みのきいた醬油の味が口いっぱいに広がる。
食べ始めると無言になる初菜は、ぶりと口の中で格闘しているらしい。大きめに口に入れたのだろう。もごもごと動くさまが愛らしい。
「ぱぱー、きょうのごはん、なあに」
食器を並べる音が聞こえる。
「今日は、ぶり大根と、きのこのお味噌汁。それに、ほうれん草のお浸しだよ。好き嫌いしないで食べるんだよ」
「えー、はっちゃん。みどりのはっぱ、いや」
「一口でいいから、食べて」
「はああい」
いかにも渋々といった返事をする初菜の声が聞こえてくる。
佐奈子がキッチン横のダイニングテーブルについた時は、すでに夕食はテーブルに並んでいた。
「いつもありがとう。今日は、ブリかあ。美味しそう」
透也が初菜の背中を追い立てるようにして、椅子に座らせた。
三人で同時に手を合わす。
「いただきます」
初菜は大根にかぶりついた。一口が小さすぎて笑ってしまう。
いくら口が小さくても、その量は少なすぎる。
見かねた透也が、かぶりつきやすい大きさに切り分ける。ついでに、ほうれん草も一口分だけを初菜の皿に残し、他のものは佐奈子と自分の皿に入れる。
「さっちゃん、機嫌良いね」
透也にも言われてしまった。佐奈子は、味噌汁のきのこをつかみながら苦笑いする。
「知世さんにも、似たようなこと言われた」
きのこは、なめ茸、しいたけ、まいたけ、しめじと盛りだくさんだ。
「今は、そのとき以上に機嫌良いかも」
透也は、ぶりを口に入れ、味の染み込み具合に満足そうな顔をしつつ、興味津々といった風に輝かせた目を佐奈子に向ける。
「あー、今まで、ほら。四時迎えのママたちとの距離感っていうか、関係に悩んでたでしょ。無視されてんのかなあ、とか。たぶん、私の被害妄想だとは思うけど、とか。愚痴言ってたけど、昨日あたりから、そういうのが全然気にならなくなって」
佐奈子は味噌汁を飲む。出汁はキノコだけだろうか。
「ねえ、お味噌汁の出汁って何で…」
言葉の途中で、透也の手がかざされた。
「ご飯のことは後で話すから。先に、さっちゃんの話して」
透也が佐奈子の言葉を遮るのは珍しい。さんざん愚痴を聞かされてきたから、話の顛末を知りたいのかもしれない。
佐奈子は味噌汁の椀をテーブルに置いた。
「まあ、忙しかったりしたら挨拶するのに気がいかないときがあったりするかなって思えるようになったっていうか。あからさまな嫌がらせをされてるわけじゃないから。ああ、気にしすぎなんだなって」
見るからに味が染み込んでいる大根を一口サイズに切る。すっと箸が入るのが気持ち良い。
「透也くんや知世さんにはさんざん言われてきたことだけどさ。やっと心底、腑に落ちた」
大根を口に入れる。甘みのきいた醬油の味が口いっぱいに広がる。
食べ始めると無言になる初菜は、ぶりと口の中で格闘しているらしい。大きめに口に入れたのだろう。もごもごと動くさまが愛らしい。
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