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【1話】無理に付き合うの止めるっ
パート先で悩み相談
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「っていうことがあってね」
パン屋の壁にかけられた時計は時を一指している。
この時間になると、店長の知世はパンを作るのを止める。店が四時に閉まるため、焼きあがったパンが売れ残るのを避けるためだ。
昼食後まもない今の時間は店内に客はいない。
佐奈子は知世とともに調理場を片づけつつ、話を切り出した。
今朝、保育園で萌ママに挨拶しても無視されたことだ。
同世代の子どもがいるとはいえ、別の保育園に子どもを通わせる知世は萌ママのことは知らない。
彼女は水道の蛇口をひねり、パンをこねるための天板を洗い始めた。
「んー、その人のことは知らないけど。いい大人がそんなあからさまなことするかなあ。そういう人がいないとは言わないよ。でも、自分の子どもの前だしねえ」
佐奈子から見た萌ママは、あっさりとしていて、思ったことはハッキリと口にしそうな人だった。
「まあね、私もあのママはそういうタイプじゃないと思ってるんだけど。何しろ、昨日、別のママに、公園で遊ばなくなった理由を話したところだったから。タイミングよすぎて、というか。話が悪いふうに伝わったのかなって」
客がパンをつかむ用のトングとトレイを必要となると思われる数を残して、あとは洗い場へ持っていく。
「理由も嘘が入ってるから、なんかそれがバレたのかな、とか」
蛇口から出る水圧が大きくなった。慌てて知世が水道を止めている。シンク周りに水滴がかなり飛んでいた。
「はあ。さっちゃん悪いほうへ考えすぎ。あのさ」
知世は水滴を落とした天板を乾燥機へ入れ、シンク周りを布巾で拭く。
「昨日の夕方に話したことが、今日の朝に別のママに伝わってるって、夜にメールのやり取りでもしてるって言うの?ママたちどんだけ暇なのよ」
思いっきり力を入れて、布巾を絞っている。
「それに。嘘の理由を言ったとして、誰が損するのよ。もし、問題があるなら、理由に関係なく、付き合いが悪くなったってほうでしょ。まあ、働いてるわけだし、家庭の事情なんてそれぞれなんだから、付き合いが悪くたって問題ないと思うけどね」
呆れたように知世に言われ、佐奈子は被害妄想が酷くなっていたことに気づいた。
「ですよね。私が気にしすぎて、人の反応に過敏になりすぎてるだけなんでしょうね」
知世の力強いうなずきが、心を軽くしてくれた。
自動ドアが開く音がして、客が入ってくる。
佐奈子は手を洗って消毒し、レジに立った。
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彼女は水道の蛇口をひねり、パンをこねるための天板を洗い始めた。
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「まあね、私もあのママはそういうタイプじゃないと思ってるんだけど。何しろ、昨日、別のママに、公園で遊ばなくなった理由を話したところだったから。タイミングよすぎて、というか。話が悪いふうに伝わったのかなって」
客がパンをつかむ用のトングとトレイを必要となると思われる数を残して、あとは洗い場へ持っていく。
「理由も嘘が入ってるから、なんかそれがバレたのかな、とか」
蛇口から出る水圧が大きくなった。慌てて知世が水道を止めている。シンク周りに水滴がかなり飛んでいた。
「はあ。さっちゃん悪いほうへ考えすぎ。あのさ」
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思いっきり力を入れて、布巾を絞っている。
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