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【1話】無理に付き合うの止めるっ
久しぶりのお迎え後の公園遊び
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今週に入ってから、一度も帰りに公園で遊んでいない。佐奈子はもちろん、透也が迎えに行った日もまっすぐ家に帰ってきたと言っていた。
この状況に慣れてきたらしい初菜も、木曜日になると、遊びたくてうずうずするらしい。
保育園の門を出たところで、目を輝かせて佐奈子を見上げてきた。
「今日は遊びたい。みんなのとこ行っていい?」
疑問形で聞いている割に気持ちは決まっているようで、佐奈子が「いいよ」の「い」を言ったところで、持っていた通園バッグを渡してきた。
公園に向かって走り出した初菜を追って、小走りする。
いつもたむろしているママたちは何人かが離れて自分の子の近くにいた。佐奈子は、それぞれの近くを通るときに会釈をする。数人に変な顔をされたような気もするけれど、気のせいだと思うことにした。
初菜は滑り台を何度も滑っている。かなり楽しいようで、友だちが来ても、友だちが別の遊具へ行っても一人で遊び続けていた。
ひとしきり遊んだだろうと思うところで、佐奈子は声をかける。
「はっちゃん、そろそろ帰るよー」
「ごかい、すべりだいしたらかえるー」
はーい、と返事をして、佐奈子は携帯電話を手に持つ。在宅ワークで家にいる透也に帰宅時間を連絡するためメールの文章を書く。
送信ボタンを押して携帯電話をポケットに入れたところで、友里のママが自分の方へ歩いてきていることに気づいた。
周りを見回すと、他のママは神社のほうへ行った自分の子どもについていったようだった。
そういう行動とるようになったんだ。
近づいてきた友里ママに軽く頭を下げる。彼女もうなづくように頭を下げてきた。
「この間、ランチ行ってきたんですよ。友里が保育園ではっちゃんにしゃべったって言ってました」
表情からは感情が読めない。
子どもの話以外に共通の話題はないから、単なる世間話だろうと受け取ることにした。
「聞きました。初菜はハンバーガーをパパとママと食べたって言ったって」
「そうらしいですね」
会話が続かない。でも、いつもの居心地悪さとは違う空気を感じる。友里ママが何かを言いあぐねているような気がした。
ランチの話を振ってきたのだから、そのことだろうか。触れたくはないけれど、触れた方がいいようにも思う。
佐奈子の悪い癖が始まる。思考を一人でぐるぐる回してしまう癖だ。
答えの出ないものを一人で考えても仕方がない。
佐奈子は沈黙を破ることにした。
「ランチ、オムライスだったそうで。どちらへ行かれたんですか」
店を聞くのは詮索しているように受け取られるかと、内心ドキドキしながら言葉にする。足元の砂を見ていた友里ママが顔を上げた。
「ああ、駅前のショッピングモールの中のお店です。よくあるチェーン店のオムライス専門店です」
佐奈子は店に興味があったわけではないから、頷きしか返せない。そんな自分に反省していると、あの、という遠慮がちな声が聞こえてきた。もちろん友里ママの声だ。
「最近、お迎えの後、公園で遊ぶ日が減りましたよね。おうち、大変なんですか」
質問の仕方が取ってつけたようで興味を魅かれてしまう。四時に迎えに来るのは変わらない。なのに、遊ばずに帰るから、家のことが忙しいのかもしれない。そういう風に受け取られているというよりも、そういう聞き方しかできないのだろうな、とあたりをつける。
滑り台の頂上では初菜が指で三を作って、こちらに見せていた。
あと三回か、三回終わったか、どちらかだろう。
彼女の後ろには友里がいた。一緒に遊んでいるなら、話していても大丈夫だろう。
「夫は家で仕事をしてるんですけど、それを手伝うことが増えてきまして」
後半は嘘だけれど、誰かを傷づける内容ではないから嘘も方便で済まされるはずだ。
「少し前からだったんですけどね。初菜も公園で遊びたがるし、最初は何とか時間をやりくりしようと思ってたんです。でも、そうしていると疲れが溜まってきちゃって」
どこまで、具体的に話そうか考えながら話す。
「まあ、私も40歳になったので、体を無理させるのは止めようと」
友里ママはうなずきつつも、年齢を聞いた途端に目を見開いた。
佐奈子はたいてい5歳くらい若く見られることが多いから、同じように思っていたのだろう。想像ではあるけれど、四時迎えで集まるママたちは自分よりも5歳以上若いはずだと、佐奈子は思っている。
友里ママが少しだけ口角を上げた。
「そうなんですね。急にどうしたのかと思って」
初菜が佐奈子の元へと走ってきた。
「ごかい、おわった」
佐奈子は友里ママに会釈し、初菜と手をつないだ。
自転車の座席に初菜が乗ったのを確認してスタンドを外すと、前から蒼良たちが走ってきた。公園の方へ向かっているらしい。当然、その後ろをママたちが付いて来ていた。
少し離れていたけれど、軽く頭を下げて挨拶をする。彼女たちが近くまで来る前に自転車のペダルを踏みこんだ。
この状況に慣れてきたらしい初菜も、木曜日になると、遊びたくてうずうずするらしい。
保育園の門を出たところで、目を輝かせて佐奈子を見上げてきた。
「今日は遊びたい。みんなのとこ行っていい?」
疑問形で聞いている割に気持ちは決まっているようで、佐奈子が「いいよ」の「い」を言ったところで、持っていた通園バッグを渡してきた。
公園に向かって走り出した初菜を追って、小走りする。
いつもたむろしているママたちは何人かが離れて自分の子の近くにいた。佐奈子は、それぞれの近くを通るときに会釈をする。数人に変な顔をされたような気もするけれど、気のせいだと思うことにした。
初菜は滑り台を何度も滑っている。かなり楽しいようで、友だちが来ても、友だちが別の遊具へ行っても一人で遊び続けていた。
ひとしきり遊んだだろうと思うところで、佐奈子は声をかける。
「はっちゃん、そろそろ帰るよー」
「ごかい、すべりだいしたらかえるー」
はーい、と返事をして、佐奈子は携帯電話を手に持つ。在宅ワークで家にいる透也に帰宅時間を連絡するためメールの文章を書く。
送信ボタンを押して携帯電話をポケットに入れたところで、友里のママが自分の方へ歩いてきていることに気づいた。
周りを見回すと、他のママは神社のほうへ行った自分の子どもについていったようだった。
そういう行動とるようになったんだ。
近づいてきた友里ママに軽く頭を下げる。彼女もうなづくように頭を下げてきた。
「この間、ランチ行ってきたんですよ。友里が保育園ではっちゃんにしゃべったって言ってました」
表情からは感情が読めない。
子どもの話以外に共通の話題はないから、単なる世間話だろうと受け取ることにした。
「聞きました。初菜はハンバーガーをパパとママと食べたって言ったって」
「そうらしいですね」
会話が続かない。でも、いつもの居心地悪さとは違う空気を感じる。友里ママが何かを言いあぐねているような気がした。
ランチの話を振ってきたのだから、そのことだろうか。触れたくはないけれど、触れた方がいいようにも思う。
佐奈子の悪い癖が始まる。思考を一人でぐるぐる回してしまう癖だ。
答えの出ないものを一人で考えても仕方がない。
佐奈子は沈黙を破ることにした。
「ランチ、オムライスだったそうで。どちらへ行かれたんですか」
店を聞くのは詮索しているように受け取られるかと、内心ドキドキしながら言葉にする。足元の砂を見ていた友里ママが顔を上げた。
「ああ、駅前のショッピングモールの中のお店です。よくあるチェーン店のオムライス専門店です」
佐奈子は店に興味があったわけではないから、頷きしか返せない。そんな自分に反省していると、あの、という遠慮がちな声が聞こえてきた。もちろん友里ママの声だ。
「最近、お迎えの後、公園で遊ぶ日が減りましたよね。おうち、大変なんですか」
質問の仕方が取ってつけたようで興味を魅かれてしまう。四時に迎えに来るのは変わらない。なのに、遊ばずに帰るから、家のことが忙しいのかもしれない。そういう風に受け取られているというよりも、そういう聞き方しかできないのだろうな、とあたりをつける。
滑り台の頂上では初菜が指で三を作って、こちらに見せていた。
あと三回か、三回終わったか、どちらかだろう。
彼女の後ろには友里がいた。一緒に遊んでいるなら、話していても大丈夫だろう。
「夫は家で仕事をしてるんですけど、それを手伝うことが増えてきまして」
後半は嘘だけれど、誰かを傷づける内容ではないから嘘も方便で済まされるはずだ。
「少し前からだったんですけどね。初菜も公園で遊びたがるし、最初は何とか時間をやりくりしようと思ってたんです。でも、そうしていると疲れが溜まってきちゃって」
どこまで、具体的に話そうか考えながら話す。
「まあ、私も40歳になったので、体を無理させるのは止めようと」
友里ママはうなずきつつも、年齢を聞いた途端に目を見開いた。
佐奈子はたいてい5歳くらい若く見られることが多いから、同じように思っていたのだろう。想像ではあるけれど、四時迎えで集まるママたちは自分よりも5歳以上若いはずだと、佐奈子は思っている。
友里ママが少しだけ口角を上げた。
「そうなんですね。急にどうしたのかと思って」
初菜が佐奈子の元へと走ってきた。
「ごかい、おわった」
佐奈子は友里ママに会釈し、初菜と手をつないだ。
自転車の座席に初菜が乗ったのを確認してスタンドを外すと、前から蒼良たちが走ってきた。公園の方へ向かっているらしい。当然、その後ろをママたちが付いて来ていた。
少し離れていたけれど、軽く頭を下げて挨拶をする。彼女たちが近くまで来る前に自転車のペダルを踏みこんだ。
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