ママ友の悩みは夫の料理でリフレッシュ

高羽志雨

文字の大きさ
上 下
5 / 17
【1話】無理に付き合うの止めるっ

お迎え後の公園で①

しおりを挟む
 保育園の門から出て、大人の女性の身長よりも少し高い位置にある打掛錠をかける。佐奈子が振り返ると、すでに初菜は公園に向かって走り出していた。
 
 予想通りだけれど、その予想を裏切ってほしかったという思いは拭いきれない。
 ため息をつきそうになったものの、それを止め、唇を真一文字に結ぶ。
 娘の姿を見失わないように小走りで後を追う。
 
 公園に入ると、たいていどこにいても姿は見える。
 案の定、四時迎えのメンバーがいる。遊具で遊ぶ我が子に背中を向けて、おしゃべりに興じるママたちもいる。いつもと違わず、五人だ。
 
 会話を楽しむのは良い。でも、どうして子どもを視野に入れておかないのだろうか。かなりしっかりしてきているとはいえ、まだ小学校に上がっていないのに。なんなら年少の子だっているのに。
 
 こういうところも、ここにいるママたちと関わりあいたくないと思う理由の一つだ。
 佐奈子は両手で拳を作り、腰のあたりでそれに力を入れた。

「こんにちは」

 叫ばなくても声が届くと思われるところで挨拶を口にした。
 話に興じていたママたちが振り返ってくる。

「こんにちは」

「こんにちは」

 先週までは、円になって立っている彼女たちの近くに立ち、自然と会話に入れる位置をキープしていた。今日は、初菜が遊ぶ鉄棒に近づいていく。

 こうすれば仲間に入ることを拒絶しているわけではなく子どもに付き合っている、と見えるだろうと、考えての行動だ。
 いつもなら近くに立つはずの佐奈子が離れていくことを不思議に思っているのか、五人のうち三人ほどがチラチラとこちらを見ている。

 背中から視線の矢が突き刺さってきているようで居心地が悪い。これは今までと違う行動を取る罪悪感みたいなものから来ている感覚だと、自分に言い聞かせる。

 目の前で初菜が逆上がりを始めた。隣では同じクラスの萌が逆上がりをしている。何度も成功させる萌の姿に触発されているのか、何度も何度も挑戦している。
 十回近く繰り返したとき、突然、逆上がりができた。

「ママ、できた。見ててくれてた?」

 友だちにも褒められて、初菜は嬉しそうに飛び跳ねる。

 逆上がりができて満足したのか、萌に連れられて、小山のような形の遊具のほうへ走っていく。
 佐奈子は初菜に言ってやりそうになった。

―私の心情を読んでよぉ―

 初菜たちが向かったのはママたちがたむろするそばにある遊具だった。

 娘について歩く母なのだから、そちらへ行かないわけにはいかない。

 佐奈子は平静を装って、小山の遊具に近づいていく。ママたちのそばまで来て、もう一度、会釈する。佐奈子が近くに来たことに気づいた彼女たちはそろって顔をこちらに向けた。

 乳児を抱っこした母親が手を上げる。

「蒼良(そら)ー、滑り台は順番に並ぶんだよー」

 振り返ると、初菜と同じ年長クラスの蒼良が年下の子を階段で追い抜こうとしていた。
 見ていたのか、近づいた佐奈子のほうを見たから目についたのか。

 佐奈子は後者だろうと考える。

 子どもが順番を守ったのを見届けて、蒼良ママが佐奈子に笑いかけてきた。

「はっちゃん、逆上がりできましたね。小さいのにすごいですよね」

 子ども同士は同い年だけれど、初菜は三月中旬生まれで体も小さい。それで褒めてくれているのだろう、と予想をつける。

「ええ、ほんとに。十回くらいやって何とかできたって感じですけどね」

 別の方向から声が聞こえた。

「いやあ、でも、小さいのに頑張りましたよね」

 先ほど逆上がりをしていた萌のママだった。

 佐奈子は返す言葉をはじき出す。

「まあ頑張りましたけどね。萌ちゃんこそ何度やっても成功させてて、すごいじゃないですか」

 会話が飛び交い始める。どうやら返した言葉は合っていたらしい。

「ほんと、萌ちゃんって走るのも早いし。運動神経良いですよね」

「うちの子なんて鈍くさくって」

「えー、でも楽器とか上手じゃないですか」

 佐奈子はえづきそうになってくる。
 こういう会話が自分の心を折れさせるのだ。わかっているから離れたはずなのに、結局、輪の中に入ってしまった。

 小山に上っては滑り、滑っては上る初菜の姿を恨めしくみてしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一か月ちょっとの願い

full moon
ライト文芸
【第8位獲得】心温まる、涙の物語。 大切な人が居なくなる前に、ちゃんと愛してください。 〈あらすじ〉 今まで、かかあ天下そのものだった妻との関係がある時を境に変わった。家具や食器の場所を夫に教えて、いかにも、もう家を出ますと言わんばかり。夫を捨てて新しい良い人のもとへと行ってしまうのか。 人の温かさを感じるミステリー小説です。 これはバッドエンドか、ハッピーエンドか。皆さんはどう思いますか。 <一言> 世にも奇妙な物語の脚本を書きたい。

よくできた"妻"でして

真鳥カノ
ライト文芸
ある日突然、妻が亡くなった。 単身赴任先で妻の訃報を聞いた主人公は、帰り着いた我が家で、妻の重大な秘密と遭遇する。 久しぶりに我が家に戻った主人公を待ち受けていたものとは……!? ※こちらの作品はエブリスタにも掲載しております。

僕の目の前の魔法少女がつかまえられません!

兵藤晴佳
ライト文芸
「ああ、君、魔法使いだったんだっけ?」というのが結構当たり前になっている日本で、その割合が他所より多い所に引っ越してきた佐々四十三(さっさ しとみ)17歳。  ところ変われば品も水も変わるもので、魔法使いたちとの付き合い方もちょっと違う。  不思議な力を持っているけど、デリケートにできていて、しかも妙にプライドが高い人々は、独自の文化と学校生活を持っていた。  魔法高校と普通高校の間には、見えない溝がある。それを埋めようと努力する人々もいるというのに、表に出てこない人々の心ない行動は、危機のレベルをどんどん上げていく……。 (『小説家になろう』様『魔法少女が学園探偵の相棒になります!』、『カクヨム』様の同名小説との重複掲載です)

十年目の結婚記念日

あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。 特別なことはなにもしない。 だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。 妻と夫の愛する気持ち。 短編です。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。

ひきこもり×シェアハウス=?

某千尋
ライト文芸
 快適だった引きニート生活がある日突然終わりを迎える。渡されたのはボストンバッグとお金と鍵と住所を書いたメモ。俺の行き先はシェアハウス!?陰キャ人見知りコミュ障の俺が!?  十五年間引きニート生活を送ってきた野口雅史が周りの助けを受けつつ自分の内面に向き合いながら成長していく話です。 ※主人公は当初偏見の塊なので特定の職業を馬鹿にする描写があります。 ※「小説家になろう」さんにも掲載しています。 ※完結まで書き終わっています。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

処理中です...