ママ友の悩みは夫の料理でリフレッシュ

高羽志雨

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【1話】無理に付き合うの止めるっ

夕食は夫婦の会話の場②

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 見るからに彼女は食べることに意識が向いているようで、親の話は聞いていないだろう。もし、聞いていても理解できないはずだ。
 でも、五歳にもなると、大人が思っているよりも理解しているときがあるし、逆に理解していないときは無防備に外で話すことがあるから言葉は選んだ方がいい。

「ママ友との関係。っていうか、付き合い方、かな」

 佐奈子はハンバーグを箸で切り、中から出てくるチーズを肉で掬い上げた。それを食べることで憂鬱になりそうな気分を上げる。

「透也くんは自然にママたちと話してくるでしょ。でも、私、うまく話せないっていうか。いや、世間話は話せるんだけど。子どもの褒めあいっことか、相手を持ち上げることとかできなくて」

 透也が箸を口元へ持っていったまま固まっている。

「さっちゃん、普通に人と親しく話せるのに。人見知りしないで誰とでも話せる感じ」

「あー、まあ、そうなんだけど。保育園のママたち相手だとなんか、ね」

 口いっぱいにハンバーグや白いご飯を頬張った透也が顎を大きく動かしながら、佐奈子を見ている。

「僕はさ、ママたちから話しかけられること多いけど、言われることに返事して、気になっていること聞いてみるくらいだよ。そんなに世間話とかしなくても、男だからママたちも必要以上に踏み込んでこないってのはあるかもね。何もないのに褒めることもない」

 チーズ入りハンバーグが美味しすぎて、透也が話している間に、佐奈子は平らげてしまった。

「そうだね、同性と異性じゃ無意識に対応違ってくるかも」

 咀嚼しているせいで口を開けられないらしい透也は、大きく頭を縦に振る。首振り人形みたいな動作を見ても、佐奈子はかわいらしさを感じるよりため息が勝つ。

「それに誤解しないでほしいんだけど、何もないのに無理やり褒めあうとかはないよ。ただ、そんなにすごくないのに大げさに褒めるっていうのかな。うまくいえないんだけど。ちょっとしたことで、『そんなことできるんだ。すごいね』とか『ママ、頑張ってるね』とか、みんなサラッと言えるんだけど、私は言えないから」

 吹き出す声が聞こえたと思ったら、透也がすごい勢いでむせている。
 どうやら気管に物を詰まらせたらしい。

 初菜が隣から小さい手を伸ばして、透也の背中を撫でる。ジェスチャーで礼を言った彼はお茶を飲んで呼吸を整える。顔の表情から察するに、笑おうとしていたようだ。

「ごめん、ごめん。さっちゃんらしいなって思って」

 もう一度、お茶を飲んだ。顔が緩み過ぎだ。

「正直だもんね、さっちゃん。『すごい』って言われればすごいのかもしれないけど、そんなわざわざ言うほどのものかって思うんでしょ。『頑張ってる』も。みんな似たようなもんじゃないの、みたいな」

 佐奈子は言い当てられすぎて、ぐうの音も出ない。ポテトサラダと白いご飯を口いっぱいに頬張って返事しないアピールをする。

 パンっと手を叩いた音がした。初菜が両手を合わせている。

「ごちそうさまでした。みて、ぜんぶたべたよ」

 お皿とお茶碗を傾けて、親二人に見せてきた。

 笑いが抑えきれていなかった透也が、顔を引き締める。

「はっちゃん、好きな食べ物の時だけじゃなくて、パパは毎日そうやってしっかり食べてほしいな」

 はいっと片手を上げる初菜が愛おしい。
 満足そうにうなずいた透也は再び目じりを下げる。

「いいんじゃない。無理して保育園のママたちと仲良くしなくてもさ。さっちゃんには、同世代の子どもがいる仕事仲間とか、学生時代からの友だちもいるんだから。あと、僕やはっちゃん、お義姉さんとかも」

 佐奈子の口の中にあった物は喉に流れていった。それらと一緒に胸につかえているものが胃へと流れていけばいいのに、と思う。
 水が流れる音がする。初菜が自分のお皿を運んでいる。透也がシンク前に立ち、水に濡れた手でそれを受け取った。

「いきなり離れるんじゃなくて。少しずつ距離を取ってけば。会話に入るのを減らしたり、公園で遊ぶ日を減らしたり、みたいにさ」

 彼の穏やかな話し方のせいだろうか。望んでいたとおり、胸につかえていたものが水音とともにどこかへ流れていくのを感じた。
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