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5話『向き合う千帆』
探りをいれていたのは・・・
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千帆は食べている最中の皿に視線を落とす。3分の1ほど残るオムライスの玉子をつつくようにスプーンを動かす。
「たぶん、母です」
視線をあげ、蒼市を見た。
「最初に蒼市さんが『フラット』のことを聞いてきた女性がいるって言ったときから、もしかしたらって思ってました」
「やっぱり、そうか」
少し荒めの鼻息を出した蒼市は胸の前で腕を組んで、背もたれに体を預けた。
「なんとなく顔が似てたから」
いったん天井を見上げてから千帆を見てきた。
「おふくろさんとは喧嘩でもしてんの?」
目線をそらすことを許してもらえないような強い目をした蒼市の声は、千帆を包み込んでくれるようだった。
千帆は後ろめたいわけではないけれど、逃げてきた親との関係に向き合わざるを得ない空気を感じて居心地が悪くなる。
蒼市から視線を外すためにオムライスをすくう。それを口に入れ、スプーンを皿の上に置き、両手を握って膝にのせる。
「母と喧嘩したっていうよりも父と喧嘩して、母はどちらかというと父と同じ意見ってとこですね」
蒼市が後ろを振り返った。穏やかで愛おしそうに見ているのが横顔からでもわかる、もちろん、その視線の先にいるのは唯人だ。
親と分かり合えない状態で数年が過ぎている千帆には、眩しく見えるほどの表情だ。
蒼市がそんな顔ができるのも、交際相手が同性の唯人であることを父親の角田に話して、価値観が違うながらも認め合えているからかもしれない。
どちらにしても、千帆にはうらやましくて仕方がない。
唯人がキッチンから出てきて、こちらへ歩いてくる。
いつの間にか店内にいる客は千帆だけになっていた。今はランチには遅いし、おやつを食べるには少し早いのかもしれない。
唯人は隣のテーブルから椅子を持ってきて、蒼市の隣に座る。
「千帆さん、話しにくいかもしれないけど、良ければ話聞くよ。俺は前に蒼市のことを聞いてもらって気持ちが落ち着いたし。それに千帆さんの店で再会して、今、一緒にいる」
見つめあう2人は、年上の男性にも関わらず微笑ましくなる。
「偶然かもしれないけど、千帆さんのおかげだって思ってるんだ」
店内に流れるバラードのBGMが唯人の声と重なり、心地よい癒しを心に届けてくれる。
千帆は強めに唇を結ぶと、自然に口角が上がる。
「ありがとうございます。そう言ってもらえるだけで、そう言ってくれる方がいるっていうだけで心強いです」
何となく照れくさくて、オムライスを多めにすくって頬張る。咀嚼していて口を開けられないアピールをしつつ、気にかけてくれる2人に伝える言葉を頭の中で紡ぎだす。
「たぶん、母です」
視線をあげ、蒼市を見た。
「最初に蒼市さんが『フラット』のことを聞いてきた女性がいるって言ったときから、もしかしたらって思ってました」
「やっぱり、そうか」
少し荒めの鼻息を出した蒼市は胸の前で腕を組んで、背もたれに体を預けた。
「なんとなく顔が似てたから」
いったん天井を見上げてから千帆を見てきた。
「おふくろさんとは喧嘩でもしてんの?」
目線をそらすことを許してもらえないような強い目をした蒼市の声は、千帆を包み込んでくれるようだった。
千帆は後ろめたいわけではないけれど、逃げてきた親との関係に向き合わざるを得ない空気を感じて居心地が悪くなる。
蒼市から視線を外すためにオムライスをすくう。それを口に入れ、スプーンを皿の上に置き、両手を握って膝にのせる。
「母と喧嘩したっていうよりも父と喧嘩して、母はどちらかというと父と同じ意見ってとこですね」
蒼市が後ろを振り返った。穏やかで愛おしそうに見ているのが横顔からでもわかる、もちろん、その視線の先にいるのは唯人だ。
親と分かり合えない状態で数年が過ぎている千帆には、眩しく見えるほどの表情だ。
蒼市がそんな顔ができるのも、交際相手が同性の唯人であることを父親の角田に話して、価値観が違うながらも認め合えているからかもしれない。
どちらにしても、千帆にはうらやましくて仕方がない。
唯人がキッチンから出てきて、こちらへ歩いてくる。
いつの間にか店内にいる客は千帆だけになっていた。今はランチには遅いし、おやつを食べるには少し早いのかもしれない。
唯人は隣のテーブルから椅子を持ってきて、蒼市の隣に座る。
「千帆さん、話しにくいかもしれないけど、良ければ話聞くよ。俺は前に蒼市のことを聞いてもらって気持ちが落ち着いたし。それに千帆さんの店で再会して、今、一緒にいる」
見つめあう2人は、年上の男性にも関わらず微笑ましくなる。
「偶然かもしれないけど、千帆さんのおかげだって思ってるんだ」
店内に流れるバラードのBGMが唯人の声と重なり、心地よい癒しを心に届けてくれる。
千帆は強めに唇を結ぶと、自然に口角が上がる。
「ありがとうございます。そう言ってもらえるだけで、そう言ってくれる方がいるっていうだけで心強いです」
何となく照れくさくて、オムライスを多めにすくって頬張る。咀嚼していて口を開けられないアピールをしつつ、気にかけてくれる2人に伝える言葉を頭の中で紡ぎだす。
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