上 下
10 / 36
2話『損な役回りの優美』

試飲のお願いと堅物黒縁眼鏡の彼女

しおりを挟む
 カウンターの真ん中あたりの席に座った女子高生2人が顔を寄せ合って、小声で話している。学校帰りに時々寄ってくれる常連さんだ。何を言っているかは聞こえないが、いつも彼女たちの明るい声が店を楽しい空気で包んでくれる。
 千帆は洗い終えたカップを見つめて顔を緩ませ、カップをカゴへと静かに置いた。

 楽しそうに友人同士で話していた女子高生が少し身を乗り出すようにしてくる。

「あの、ココアに生クリーム乗せて、そこにチョコレートソースとかオレンジソースとか乗せるココアをメニューに加えてもらえませんか。私たち、このお店で飲みたいなって思って」

 リクエストするのがおこがましいとでも思っているのか、周りを気にして左右に目を動かしている。声も千帆が前かがみになって、やっと聞こえるくらいの大きさだ。

「今、試作してるところなんです。試作品ができたときには試飲しに来てもらえませんか」

 そう言うと、2人は顔を見合わせて両手を握り合い、座ったまま軽く飛び跳ねている。

 こんなに喜んでくれるなら、もう少し早く考え始めればよかったと反省してしまう。
 女子高生たちは、試飲するのを楽しみにしてると言って、カウンターに代金を置いた。

 膝上丈のスカートにモコモコの半コートを羽織った2人が店から出ていくのと入れ替わりに、角田が入ってきた。迷いなく、一番奥のカウンター席に向かう。

 脱いだコートを壁にあるハンガーにかけた。

「千帆ちゃん、今、話しても大丈夫かな」

 カウンター席しかない店内に座っているのは、営業途中に休憩で寄っただろうサラリーマンとお喋りに夢中な近所の奥様3人組だけだ。どの人にも給仕は終わっている。

 千帆は角田に水を差しだしながら、口角を上げて返事をした。

「1週間ほど前だったか、会社で損な役回りさせられてるって話してた女性いたの覚えてる? 堅物黒縁眼鏡の彼女。たまたま会ってさ」

 堅物黒縁眼鏡って悪口にしか聞こえない。こみ上げる苦笑いを抑えて訂正する。

「中井優美さんですね」

 名前を思い出したらしい角田は優美の話を聞かせてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さよならまでの六ヶ月

おてんば松尾
恋愛
余命半年の妻は、不倫をしている夫と最後まで添い遂げるつもりだった……【小春】 小春は人の寿命が分かる能力を持っている。 ある日突然自分に残された寿命があと半年だということを知る。 自分の家が社家で、神主として跡を継がなければならない小春。 そんな小春のことを好きになってくれた夫は浮気をしている。 残された半年を穏やかに生きたいと思う小春…… 他サイトでも公開中

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている

ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。 夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。 そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。 主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々

饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。 国会議員の重光幸太郎先生の地元である。 そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。 ★このお話は、鏡野ゆう様のお話 『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。 ★他にコラボしている作品 ・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/ ・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/ ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/

処理中です...