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30.ダブルデート~望まない再会(1)~

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 店員から渡されたシェイクを両手に1つずつ持って、歩きながらベンチを探す。

 大輝が行ったはずのトイレを探しながら歩く。
 少し行くと、アトラクションの裏側にあたるのだろうか、高い壁が広がっていた。その前にあるベンチが空いている。向かいから歩いてくる人たちをよけながら、まっすぐにそこへ向かう。

 ベンチの前に立ったとき、右側から影が伸びてきた。

「千紗ちゃん?」

 少し鼻にかかる低い声に、千紗は聞き覚えがあった。途端に鼓動が速くなる。
 一瞬の間があってから顔を右側に向けた。視線の先は相手の胸元だったので、目線をあげる。

「……恒輝さん」

「……久しぶりだね。急にバイト辞めたから驚いたよ。連絡先もブロックされてたし」

 通り過ぎていく人たちの会話がBGMのように流れていく。

 千紗はシェイクのカップを持つ両手に力が入った。

「……私の高校、知ってましたよね? 会いたければ会えたのに、会いに来てはくれなかったんですね」

 恒輝が自分の頭の後ろに手を持っていき、バツの悪そうな顔をして視線をそらした。

「ああ。付き合ってる彼女がいたから」

 千紗の鼓動が落ち着きを取り戻し、それ以上に心が冷めてくる。

「知ってました。っていうか、それを知ってバイトを辞めて、恒輝さんから離れました」

 忘れかけていた1年半前のことを自分で思い起こしたせいか、口の中が苦くなってきた気がした。
 恒輝が視線をさまよわせながら、千紗を見た。

「髪、切ったんだ」

 千紗の口がポカンと開く。

「知らないんだ」

 口の中だけでしか響かない声でつぶやいた。千紗の頭に恒輝の手が乗った。

「何か言った?」

 小さく首を振る千紗の髪を撫でてきた。
 さっき、キッチンカーの前でも同じことがあったな。
 目の前にいる恒輝を通して、大輝を思い出す。

 2人の間に流れた静寂を壊す衝撃が千紗の肩に走った。

「いたっ」

 後ろによろめいた拍子に、恒輝の手が頭から離れた。

 シェイクはカップの中で大きく揺れたけれど、ふたがあるおかげでこぼれずにすんだ。

 何事かと衝撃のあったほうへと向くと、次は頬に痛みが走る。平手打ちされたようだ。

「あんた、まだ恒輝をあきらめてなかったの」

 静かに響く声は怒鳴られるよりも迫力があった。
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