51 / 80
30.ダブルデート~望まない再会(1)~
しおりを挟む
店員から渡されたシェイクを両手に1つずつ持って、歩きながらベンチを探す。
大輝が行ったはずのトイレを探しながら歩く。
少し行くと、アトラクションの裏側にあたるのだろうか、高い壁が広がっていた。その前にあるベンチが空いている。向かいから歩いてくる人たちをよけながら、まっすぐにそこへ向かう。
ベンチの前に立ったとき、右側から影が伸びてきた。
「千紗ちゃん?」
少し鼻にかかる低い声に、千紗は聞き覚えがあった。途端に鼓動が速くなる。
一瞬の間があってから顔を右側に向けた。視線の先は相手の胸元だったので、目線をあげる。
「……恒輝さん」
「……久しぶりだね。急にバイト辞めたから驚いたよ。連絡先もブロックされてたし」
通り過ぎていく人たちの会話がBGMのように流れていく。
千紗はシェイクのカップを持つ両手に力が入った。
「……私の高校、知ってましたよね? 会いたければ会えたのに、会いに来てはくれなかったんですね」
恒輝が自分の頭の後ろに手を持っていき、バツの悪そうな顔をして視線をそらした。
「ああ。付き合ってる彼女がいたから」
千紗の鼓動が落ち着きを取り戻し、それ以上に心が冷めてくる。
「知ってました。っていうか、それを知ってバイトを辞めて、恒輝さんから離れました」
忘れかけていた1年半前のことを自分で思い起こしたせいか、口の中が苦くなってきた気がした。
恒輝が視線をさまよわせながら、千紗を見た。
「髪、切ったんだ」
千紗の口がポカンと開く。
「知らないんだ」
口の中だけでしか響かない声でつぶやいた。千紗の頭に恒輝の手が乗った。
「何か言った?」
小さく首を振る千紗の髪を撫でてきた。
さっき、キッチンカーの前でも同じことがあったな。
目の前にいる恒輝を通して、大輝を思い出す。
2人の間に流れた静寂を壊す衝撃が千紗の肩に走った。
「いたっ」
後ろによろめいた拍子に、恒輝の手が頭から離れた。
シェイクはカップの中で大きく揺れたけれど、ふたがあるおかげでこぼれずにすんだ。
何事かと衝撃のあったほうへと向くと、次は頬に痛みが走る。平手打ちされたようだ。
「あんた、まだ恒輝をあきらめてなかったの」
静かに響く声は怒鳴られるよりも迫力があった。
大輝が行ったはずのトイレを探しながら歩く。
少し行くと、アトラクションの裏側にあたるのだろうか、高い壁が広がっていた。その前にあるベンチが空いている。向かいから歩いてくる人たちをよけながら、まっすぐにそこへ向かう。
ベンチの前に立ったとき、右側から影が伸びてきた。
「千紗ちゃん?」
少し鼻にかかる低い声に、千紗は聞き覚えがあった。途端に鼓動が速くなる。
一瞬の間があってから顔を右側に向けた。視線の先は相手の胸元だったので、目線をあげる。
「……恒輝さん」
「……久しぶりだね。急にバイト辞めたから驚いたよ。連絡先もブロックされてたし」
通り過ぎていく人たちの会話がBGMのように流れていく。
千紗はシェイクのカップを持つ両手に力が入った。
「……私の高校、知ってましたよね? 会いたければ会えたのに、会いに来てはくれなかったんですね」
恒輝が自分の頭の後ろに手を持っていき、バツの悪そうな顔をして視線をそらした。
「ああ。付き合ってる彼女がいたから」
千紗の鼓動が落ち着きを取り戻し、それ以上に心が冷めてくる。
「知ってました。っていうか、それを知ってバイトを辞めて、恒輝さんから離れました」
忘れかけていた1年半前のことを自分で思い起こしたせいか、口の中が苦くなってきた気がした。
恒輝が視線をさまよわせながら、千紗を見た。
「髪、切ったんだ」
千紗の口がポカンと開く。
「知らないんだ」
口の中だけでしか響かない声でつぶやいた。千紗の頭に恒輝の手が乗った。
「何か言った?」
小さく首を振る千紗の髪を撫でてきた。
さっき、キッチンカーの前でも同じことがあったな。
目の前にいる恒輝を通して、大輝を思い出す。
2人の間に流れた静寂を壊す衝撃が千紗の肩に走った。
「いたっ」
後ろによろめいた拍子に、恒輝の手が頭から離れた。
シェイクはカップの中で大きく揺れたけれど、ふたがあるおかげでこぼれずにすんだ。
何事かと衝撃のあったほうへと向くと、次は頬に痛みが走る。平手打ちされたようだ。
「あんた、まだ恒輝をあきらめてなかったの」
静かに響く声は怒鳴られるよりも迫力があった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。
ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」
夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。
──数年後。
ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。
「あなたの息の根は、わたしが止めます」
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
離縁の脅威、恐怖の日々
月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。
※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。
※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる