上 下
35 / 80

23.電話する大地(2)

しおりを挟む
 2人はしばらく無言で歩く。
 体育館の正面入り口までくると、昼練を終えたらしいバスケ部の生徒が体操着のまま出てきている。隣にある運動部の部室で着替えるのだろう。にぎやかに会話しながら部室のほうへ消えていった。

 その様子を意味もなく目で追っていると、相田が沈黙を破った。

「彼女たちにも態度がおかしいんなら、私が言ったことだけが原因じゃなかったのかな」

 相田の言い方に違和感を感じる。千紗は首をかしげた。

「それはそうかもしれないけど。そんなことより、彼女と話してることに何でヤキモチ妬かないの」

 目を丸くした相田は、口を開けて少しだけ上を向き、すぐに千紗のほうへ目を向けた。

「そう思うよね。うん、そうなんだよね」

 何か自分で納得しようとしているようだ。

「さっきも仲が悪くなるの後味悪い理由をごちゃごちゃ言ったけど。今、わかったかも。ちゃんと告白して、正面切って振られたから吹っ切れたのかもね。南くんに好きだって伝えてるようで伝えない、微妙な状態で距離を詰めようとしてたから、周りの女子たちに牽制の意味も込めて嫉妬の気持ちをぶつけてたのかも」

 そう話す横顔は初めて見ると言ってもいいくらい、すっきりした表情だった。
 人の気持ちって複雑なのだ。自分の気持ちも正確にわかるもんじゃないのかもしれない。相田だけじゃなく。
 相田は千紗から目を離して前を向く。

「だから、彼女たちに何も思わない。松村さんへの嫉妬も消えたから、単純に仲直りしてほしいって思ったのかも。さっき言ったことと違うけどね」

 照れくさそうな表情の彼女は可愛らしかった。反面、千紗の胸のあたりには得体のしれないモヤが再び広がってくる。

「なんで急に南くんは彼女たちに頻繁に会うようになったんだろうね」

 つぶやいた言葉が相田に聞こえていなくても良かった。でも、しっかり届いていたらしく、相田が千紗の顔をのぞきこんできた。ニヤニヤしているように見える。

「気になるんだ」

 千紗は勢いよく首を横に振る。否定したかったけど、声は出なかった。そんな様子をみて相田は苦笑いしている。

「そんな否定しなくてもいいじゃない。必要以上にかまってきてた南くんが挨拶しかしなくなって、その彼が同じタイミングで彼女と会う回数をなぜか増やしてたって知ったら、なんか関係あるのかなって考えるの、自然だと思うけど」

 予鈴が響いた。トイレに寄ってから戻るという相田と別れて、1人教室へ向かう。
 
 大輝の行動はタイミングが良いだけじゃない。一緒に動物園に行ったのは、彼女からの誘いを断る理由にしたかったからのはずだ。
 なのに、手の平返しのような態度の変化は不自然すぎた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

[完結] 偽装不倫

野々 さくら
恋愛
「愛するあなたをもう一度振り向かせたい」だから私は『不倫を偽装』する。 川口佐和子33歳、結婚6年目を迎えた専業主婦。夫が大好きな佐和子だが、夫からは愛を感じない毎日を過ごしていた。 そんな佐和子の日常は、行きつけのバーのマスターに夫が構ってくれないと愚痴る事だった。 そんなある日、夫が結婚記念日を忘れていた事により、佐和子は怒りアパートを飛び出す。 行き先はバー、佐和子はマスターに「離婚する」「不倫して」と悪態をつく。 見かねたマスターは提案する。「当て付け不倫」ではなく「不倫を偽装」して夫の反応を見たら良いと……。 夫の事が大好きな妻は自身への愛を確かめる為に危険な『偽装不倫』を企てる。 下手したら離婚問題に発展するかもしれない人生最大の賭けに出た妻はどうなるのか? 夫は、妻が不倫しているかもしれないと気付いた時どのような反応をするのか? 一組の夫婦と、それを協力する男の物語が今始まる。 ※1話毎あらすじがあります。あらすじ読み、ながら読み歓迎です。 ───────────────────────────── ライト文芸で「天使がくれた259日の時間」を投稿しています。 テーマは「死産」と「新たな命」です。よければあらすじだけでも読んで下さい。 子供が亡くなる話なので苦手な方は読まないで下さい。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。 「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。 でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。 だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。 彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~

及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら…… なんと相手は自社の社長!? 末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、 なぜか一夜を共に過ごすことに! いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……

処理中です...