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1話『天然熟女は超マイペース』
解決したのか??
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商店街を行きかう人々はいるものの、お昼時を前にして八百屋に立ち寄る人はいないらしい。畑山と留以子は揃って、カフェアロンの窓の前に来た。のぞいていた野次馬たちと窓越しに顔を合わせる。
代わりにカフェアロンにはランチを求める客が数組入ってきた。ランチメニューは今日に限って、カレーライスとミックスサンドイッチの2種類しか用意していないおかげで早く提供でき、聡は八百屋好美事件で盛り上がるグループに加わる。
「で、なんで大藤さんは好美さんに頭があがらないんだろう」
「ああ、それは」と、話し出したのは文乃だった。
好美がマイペースなのは家の中でも同じらしく、電話で誰かと話をしていて夕食を作り始めるのが20時を回ることも少なくないらしい。
あるとき、あまりにも頻繁に遅くなるため、舅の大藤が注意した。大藤の分だけすぐに準備してくれたものの、漬物と冷ご飯、インスタントの味噌汁、前日の残りの硬くなった焼き魚だけだったらしい。他の家族の分は、炊き立ての白ご飯に豚汁、魚の煮つけなど見るからに大藤の分とは差があり、その後、数日間、早く夕食にはありつけるものの、質素で少ない量のおかずしか出てこず、大藤が好美に謝る羽目になったということだ。
80歳とはいえ、まだまだ元気な大藤は貧相な食事に耐えられなかったらしい。
窓の外に立つ畑山が天パ頭をかいた。手の動きがスムーズでない。髪がもつれているのだろう。
「家庭の中では食を制している人が強くなるんですね」
留以子は大藤親子が歩いていったほうを見た。
「大藤さん、奥さんを亡くしたから食事はお嫁さんに頼るしかないんやろな」
「よしっ」そう声を上げたのは、活発そうなほうのママだった。
「私も食事で胃袋つかんで、夫を思い通りに動かすっ」
彼女の姑と同世代にあたりそうな高齢女性3人がそろって首を横に振る。
文乃が手を伸ばして活発ママの肩をたたいた。
「それはできたらいいけど。逆に言えば、そんなことをしようとしたら、いっさい食事の手を抜けなくなるんじゃないの。少なくとも、あんな人だけど好美さんは3食完全手作りで、冷凍食品、合わせ調味料は全然使わないらしいわよ」
その隣でハルエが紫髪を揺らす。
「そうそう。それにあそこまで頭が上がらなかったら頼りなさすぎるんじゃないかしら」
「ほんまや。注意せんとあかんことすら言われへんてな」
地域の有力者、人望の厚い人、そんな印象が一気に吹き飛んでしまった。
先ほど立ち去る大藤の背中に留以子がかけた言葉は、今後の彼を完全に予言しているように思う。
果たして、明日から好美は商店街でどのようにふるまうのだろうか。
聡は笑いあう当事者と野次馬たちを見回した。
(1話・了)
代わりにカフェアロンにはランチを求める客が数組入ってきた。ランチメニューは今日に限って、カレーライスとミックスサンドイッチの2種類しか用意していないおかげで早く提供でき、聡は八百屋好美事件で盛り上がるグループに加わる。
「で、なんで大藤さんは好美さんに頭があがらないんだろう」
「ああ、それは」と、話し出したのは文乃だった。
好美がマイペースなのは家の中でも同じらしく、電話で誰かと話をしていて夕食を作り始めるのが20時を回ることも少なくないらしい。
あるとき、あまりにも頻繁に遅くなるため、舅の大藤が注意した。大藤の分だけすぐに準備してくれたものの、漬物と冷ご飯、インスタントの味噌汁、前日の残りの硬くなった焼き魚だけだったらしい。他の家族の分は、炊き立ての白ご飯に豚汁、魚の煮つけなど見るからに大藤の分とは差があり、その後、数日間、早く夕食にはありつけるものの、質素で少ない量のおかずしか出てこず、大藤が好美に謝る羽目になったということだ。
80歳とはいえ、まだまだ元気な大藤は貧相な食事に耐えられなかったらしい。
窓の外に立つ畑山が天パ頭をかいた。手の動きがスムーズでない。髪がもつれているのだろう。
「家庭の中では食を制している人が強くなるんですね」
留以子は大藤親子が歩いていったほうを見た。
「大藤さん、奥さんを亡くしたから食事はお嫁さんに頼るしかないんやろな」
「よしっ」そう声を上げたのは、活発そうなほうのママだった。
「私も食事で胃袋つかんで、夫を思い通りに動かすっ」
彼女の姑と同世代にあたりそうな高齢女性3人がそろって首を横に振る。
文乃が手を伸ばして活発ママの肩をたたいた。
「それはできたらいいけど。逆に言えば、そんなことをしようとしたら、いっさい食事の手を抜けなくなるんじゃないの。少なくとも、あんな人だけど好美さんは3食完全手作りで、冷凍食品、合わせ調味料は全然使わないらしいわよ」
その隣でハルエが紫髪を揺らす。
「そうそう。それにあそこまで頭が上がらなかったら頼りなさすぎるんじゃないかしら」
「ほんまや。注意せんとあかんことすら言われへんてな」
地域の有力者、人望の厚い人、そんな印象が一気に吹き飛んでしまった。
先ほど立ち去る大藤の背中に留以子がかけた言葉は、今後の彼を完全に予言しているように思う。
果たして、明日から好美は商店街でどのようにふるまうのだろうか。
聡は笑いあう当事者と野次馬たちを見回した。
(1話・了)
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