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1話『天然熟女は超マイペース』
好美VS留以子
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目当ての野菜を籠に入れ終えたらしい好美が畑山に近づいていく。
先客の主婦の一人が畑山が持っている葉物に手をかけた。
「そんなにおススメなら、これもいただこうかしら。さっき渡したかごに追加して会計してちょうだい」
「あいよっ」
そう言った畑山が、その葉物を近くに置いてあったかごに入れて主婦に渡す。中身を確認させるためだろう。
「でっ、ねえちゃんはどうする。このままでいいか」
ぼさっとした天パの下から目をのぞかせて、もう一人の主婦に声をかけた。
そこへ好美が近づいて、自分の持っているかごを出した。
それに気づいた畑山が両手を顔の前で拝むようにした。
「あー、すみません。今からこちらのお二人さんの会計をするんで、その後で」
好美は横顔しか見えないけれど、口角を上げて菩薩のような笑みを浮かべ、ゆっくりと2回うなずいた。
納得してくれたと思ったらしい畑山が先客の主婦と向かい合おうと体を動かした。
すっと好美が間に割って入った。
「袋は自分で入れるから気にしないで」
「「「「気にしないで。って」」」」
カフェアロンの窓から様子を見ている4人の声がそろう。
「なんでそうなるんだ」
「そういうことじゃないっすよね」
「ほんと、それ」
「自分中心すぎっ」
思い思いの言葉が吐かれる。
男性陣は苦笑交じり、女性陣は苛立ちがこもっているように聞こえた。
もしかしたら、女性陣2人もどこかの店で好美の行動に迷惑をこうむったことがあるのかもしれない。
八百屋の店先では、畑山が体を左右に動かして好美から逃れようとするも、好美も同じように体を振る。
「計算もできていて、850円でした」
畑山は慣れているのか、感情が読み取れるような表情にならない。先客の主婦2人はというと、面倒ごとになるのがイヤなのか、先に好美の会計を済ませてあげてというようなジェスチャーをしている。
聡の隣に立っている大学生が食べ終えたヨーグルトのカップをテーブルに置く。
「うわっ、もう5分もしたら行かなきゃ。早くおばさん来てやっつけちゃえよー」
電車の時間が迫ってきているらしい。
それにしても、早く来てやっつけろって。人の母親をウルトラマンか何かと勘違いしてないだろうか。
ベビーカーの位置をずらしたママ2人がテーブルに身を乗り出した。
「来たよ。留以子さん」
「真打、登場だね」
いや、真打ってこういうときに使う言葉じゃないはずだ。
そう思ったものの、話の流れをそぐ気がして、聡は黙っていた。
小走りになった留以子は、好美の持つ買い物かごを畑山が受け取ったところで2人のそばに着いた。
「あんた、また自分の都合を押しつけてんねんな」
そう言った留以子は腰を屈め、店先に並んだ野菜をつかんで、畑山が持つ買い物かごに何個も入れていく。
「兄ちゃん、これで会計してや。850円とか言うとったけど、計算し直さなあかんで」
先客の主婦2人にも声をかける。
「あんたら買うもんあるんやろ。そのかごに入ってるやつか? それなら全部このかごに入れてまえ。いっつも、このおばはんのために割食ってんやろ。迷惑賃代わりに払ってもらえ」
そう言われたからといって、本当に野菜をかごに入れていくわけがない。
アロン店内の4人、いや客の3人は感嘆か驚嘆かわからない声を出した。
聡は両手で頭を抱える。
「何やってんだよ。それじゃ、好美さんを上回って迷惑かけるだろ」
声が尻すぼみになっていく。
大学生に背中を撫でられる。慰めてくれているらしい。
太ももが両サイドから叩かれた。
「まあまあ。マスター。私はあんな顔の好美さんが見れて、留以子さんありがとうって感じだよぉ」
「そうそう、いっつも上品に微笑んでいて、私は何も悪くありませんって顔してるから、それが余計に腹立つのよね。それが、あの顔っ」
見ると、好美が留以子をにらみつけていた。目が吊り上がりすぎているせいか、険しい顔を通り越して、般若のようになっている。
「何するんですか。自分の分のまでお金払えなんて図々しすぎですよ」
口調はおっとりしたままだ。それが好美の秘める図々しさというか、わがままさを際立たせているように感じた。
留以子はあごをあげる。
骨と皮だけのそこは好美の額に刺さってしまいそうだ。
「図々しいのはどっちやねん。いつもいつも、待ってる人たち押しのけてんのやろ。ど厚かましいのはあんたの方や。だいたいな、何でもお金払うか、体使うかやねん。ただでなんでも自分の思う通りにいくと思たらあかんで」
遠目にも留以子の鼻息が荒くなっているのがわかる。
「体使って、いや、今は時間使ってみんな並んで待っとんねん。あんたはなんや。時間も使わんと、体使って店の手伝いして時間短縮図るわけでもなく、お金使うのも自分の分だけ。自分の分にお金払うの当たり前やろが」
さすがに勢いよく話しすぎたらしく、軽く咳きこんだようだ。
先客の主婦の一人が畑山が持っている葉物に手をかけた。
「そんなにおススメなら、これもいただこうかしら。さっき渡したかごに追加して会計してちょうだい」
「あいよっ」
そう言った畑山が、その葉物を近くに置いてあったかごに入れて主婦に渡す。中身を確認させるためだろう。
「でっ、ねえちゃんはどうする。このままでいいか」
ぼさっとした天パの下から目をのぞかせて、もう一人の主婦に声をかけた。
そこへ好美が近づいて、自分の持っているかごを出した。
それに気づいた畑山が両手を顔の前で拝むようにした。
「あー、すみません。今からこちらのお二人さんの会計をするんで、その後で」
好美は横顔しか見えないけれど、口角を上げて菩薩のような笑みを浮かべ、ゆっくりと2回うなずいた。
納得してくれたと思ったらしい畑山が先客の主婦と向かい合おうと体を動かした。
すっと好美が間に割って入った。
「袋は自分で入れるから気にしないで」
「「「「気にしないで。って」」」」
カフェアロンの窓から様子を見ている4人の声がそろう。
「なんでそうなるんだ」
「そういうことじゃないっすよね」
「ほんと、それ」
「自分中心すぎっ」
思い思いの言葉が吐かれる。
男性陣は苦笑交じり、女性陣は苛立ちがこもっているように聞こえた。
もしかしたら、女性陣2人もどこかの店で好美の行動に迷惑をこうむったことがあるのかもしれない。
八百屋の店先では、畑山が体を左右に動かして好美から逃れようとするも、好美も同じように体を振る。
「計算もできていて、850円でした」
畑山は慣れているのか、感情が読み取れるような表情にならない。先客の主婦2人はというと、面倒ごとになるのがイヤなのか、先に好美の会計を済ませてあげてというようなジェスチャーをしている。
聡の隣に立っている大学生が食べ終えたヨーグルトのカップをテーブルに置く。
「うわっ、もう5分もしたら行かなきゃ。早くおばさん来てやっつけちゃえよー」
電車の時間が迫ってきているらしい。
それにしても、早く来てやっつけろって。人の母親をウルトラマンか何かと勘違いしてないだろうか。
ベビーカーの位置をずらしたママ2人がテーブルに身を乗り出した。
「来たよ。留以子さん」
「真打、登場だね」
いや、真打ってこういうときに使う言葉じゃないはずだ。
そう思ったものの、話の流れをそぐ気がして、聡は黙っていた。
小走りになった留以子は、好美の持つ買い物かごを畑山が受け取ったところで2人のそばに着いた。
「あんた、また自分の都合を押しつけてんねんな」
そう言った留以子は腰を屈め、店先に並んだ野菜をつかんで、畑山が持つ買い物かごに何個も入れていく。
「兄ちゃん、これで会計してや。850円とか言うとったけど、計算し直さなあかんで」
先客の主婦2人にも声をかける。
「あんたら買うもんあるんやろ。そのかごに入ってるやつか? それなら全部このかごに入れてまえ。いっつも、このおばはんのために割食ってんやろ。迷惑賃代わりに払ってもらえ」
そう言われたからといって、本当に野菜をかごに入れていくわけがない。
アロン店内の4人、いや客の3人は感嘆か驚嘆かわからない声を出した。
聡は両手で頭を抱える。
「何やってんだよ。それじゃ、好美さんを上回って迷惑かけるだろ」
声が尻すぼみになっていく。
大学生に背中を撫でられる。慰めてくれているらしい。
太ももが両サイドから叩かれた。
「まあまあ。マスター。私はあんな顔の好美さんが見れて、留以子さんありがとうって感じだよぉ」
「そうそう、いっつも上品に微笑んでいて、私は何も悪くありませんって顔してるから、それが余計に腹立つのよね。それが、あの顔っ」
見ると、好美が留以子をにらみつけていた。目が吊り上がりすぎているせいか、険しい顔を通り越して、般若のようになっている。
「何するんですか。自分の分のまでお金払えなんて図々しすぎですよ」
口調はおっとりしたままだ。それが好美の秘める図々しさというか、わがままさを際立たせているように感じた。
留以子はあごをあげる。
骨と皮だけのそこは好美の額に刺さってしまいそうだ。
「図々しいのはどっちやねん。いつもいつも、待ってる人たち押しのけてんのやろ。ど厚かましいのはあんたの方や。だいたいな、何でもお金払うか、体使うかやねん。ただでなんでも自分の思う通りにいくと思たらあかんで」
遠目にも留以子の鼻息が荒くなっているのがわかる。
「体使って、いや、今は時間使ってみんな並んで待っとんねん。あんたはなんや。時間も使わんと、体使って店の手伝いして時間短縮図るわけでもなく、お金使うのも自分の分だけ。自分の分にお金払うの当たり前やろが」
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