クセつよ母は今日もいく

高羽志雨

文字の大きさ
上 下
17 / 20
1話『天然熟女は超マイペース』

好美VS留以子

しおりを挟む
 目当ての野菜を籠に入れ終えたらしい好美が畑山に近づいていく。
 先客の主婦の一人が畑山が持っている葉物に手をかけた。

「そんなにおススメなら、これもいただこうかしら。さっき渡したかごに追加して会計してちょうだい」

「あいよっ」

 そう言った畑山が、その葉物を近くに置いてあったかごに入れて主婦に渡す。中身を確認させるためだろう。

「でっ、ねえちゃんはどうする。このままでいいか」

 ぼさっとした天パの下から目をのぞかせて、もう一人の主婦に声をかけた。

 そこへ好美が近づいて、自分の持っているかごを出した。

 それに気づいた畑山が両手を顔の前で拝むようにした。

「あー、すみません。今からこちらのお二人さんの会計をするんで、その後で」

 好美は横顔しか見えないけれど、口角を上げて菩薩のような笑みを浮かべ、ゆっくりと2回うなずいた。

 納得してくれたと思ったらしい畑山が先客の主婦と向かい合おうと体を動かした。

 すっと好美が間に割って入った。

「袋は自分で入れるから気にしないで」

「「「「気にしないで。って」」」」

 カフェアロンの窓から様子を見ている4人の声がそろう。

「なんでそうなるんだ」

「そういうことじゃないっすよね」

「ほんと、それ」

「自分中心すぎっ」

 思い思いの言葉が吐かれる。
 男性陣は苦笑交じり、女性陣は苛立ちがこもっているように聞こえた。

 もしかしたら、女性陣2人もどこかの店で好美の行動に迷惑をこうむったことがあるのかもしれない。

 八百屋の店先では、畑山が体を左右に動かして好美から逃れようとするも、好美も同じように体を振る。

「計算もできていて、850円でした」

 畑山は慣れているのか、感情が読み取れるような表情にならない。先客の主婦2人はというと、面倒ごとになるのがイヤなのか、先に好美の会計を済ませてあげてというようなジェスチャーをしている。

 聡の隣に立っている大学生が食べ終えたヨーグルトのカップをテーブルに置く。

「うわっ、もう5分もしたら行かなきゃ。早くおばさん来てやっつけちゃえよー」

 電車の時間が迫ってきているらしい。

 それにしても、早く来てやっつけろって。人の母親をウルトラマンか何かと勘違いしてないだろうか。

 ベビーカーの位置をずらしたママ2人がテーブルに身を乗り出した。

「来たよ。留以子さん」

「真打、登場だね」

 いや、真打ってこういうときに使う言葉じゃないはずだ。
 そう思ったものの、話の流れをそぐ気がして、聡は黙っていた。


 小走りになった留以子は、好美の持つ買い物かごを畑山が受け取ったところで2人のそばに着いた。

「あんた、また自分の都合を押しつけてんねんな」

 そう言った留以子は腰を屈め、店先に並んだ野菜をつかんで、畑山が持つ買い物かごに何個も入れていく。

「兄ちゃん、これで会計してや。850円とか言うとったけど、計算し直さなあかんで」

 先客の主婦2人にも声をかける。

「あんたら買うもんあるんやろ。そのかごに入ってるやつか? それなら全部このかごに入れてまえ。いっつも、このおばはんのために割食ってんやろ。迷惑賃代わりに払ってもらえ」

 そう言われたからといって、本当に野菜をかごに入れていくわけがない。

 アロン店内の4人、いや客の3人は感嘆か驚嘆かわからない声を出した。
 聡は両手で頭を抱える。

「何やってんだよ。それじゃ、好美さんを上回って迷惑かけるだろ」

 声が尻すぼみになっていく。
 大学生に背中を撫でられる。慰めてくれているらしい。
 太ももが両サイドから叩かれた。

「まあまあ。マスター。私はあんな顔の好美さんが見れて、留以子さんありがとうって感じだよぉ」

「そうそう、いっつも上品に微笑んでいて、私は何も悪くありませんって顔してるから、それが余計に腹立つのよね。それが、あの顔っ」

 見ると、好美が留以子をにらみつけていた。目が吊り上がりすぎているせいか、険しい顔を通り越して、般若のようになっている。

「何するんですか。自分の分のまでお金払えなんて図々しすぎですよ」

 口調はおっとりしたままだ。それが好美の秘める図々しさというか、わがままさを際立たせているように感じた。

 留以子はあごをあげる。
 骨と皮だけのそこは好美の額に刺さってしまいそうだ。

「図々しいのはどっちやねん。いつもいつも、待ってる人たち押しのけてんのやろ。ど厚かましいのはあんたの方や。だいたいな、何でもお金払うか、体使うかやねん。ただでなんでも自分の思う通りにいくと思たらあかんで」

 遠目にも留以子の鼻息が荒くなっているのがわかる。

「体使って、いや、今は時間使ってみんな並んで待っとんねん。あんたはなんや。時間も使わんと、体使って店の手伝いして時間短縮図るわけでもなく、お金使うのも自分の分だけ。自分の分にお金払うの当たり前やろが」

 さすがに勢いよく話しすぎたらしく、軽く咳きこんだようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

虹色のショーウィンドウ

朝日みらい
ライト文芸
時計屋のゲンじいさんは、時計の修理をして生きてきた。奥さんを失ってから、友達とは話さないし、作ろうとも思わなかった。そんなある日、みっちゃんが来てから、ゲンじいさんは少しずつ変わっていきます。ほのぼのとしたおじいさんと女の子の交流の物語。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...