クセつよ母は今日もいく

高羽志雨

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1話『天然熟女は超マイペース』

嵐が起こる予感?

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 隣の建物との間にある、人が一人通れる程度の細い路地に入る。商店街に面した壁はレンガ造りだけれど、人からは見えない路地に面した壁はコンクリートだ。長年かけて雨がしみ込んだのか、あちこちにシミがある。

 聡は数メートル進んだところで立ち止まり、店の勝手口の鍵を開ける。
 ドアを開けた、その場所はカウンターの横に配された広さ3畳程度の控室兼厨房だ。
 ステンレスの台に両手に持ったビニール袋を置く。
 そこからコーヒー豆の袋を一つひとつ出す。

「間違ってることは正されるって純粋に思ってる、か」

 先ほど八百屋の畑山に言われたセリフだ。

 彼は素直に聡の性格を表現したに過ぎないだろう。決して嫌味を言ったわけではないはずだ。わかっているつもりだけれど、聡の気持ちは沈んでしまう。

 コーヒー豆以外にも買ってきたものをビニール袋から全て出し、それぞれ所定の場所に片づけ始める。

「そうなんだよな。会社勤めしてた時も同僚や上司から言われたっけ。「正しいだけで突っ走れて、それが通るのは子どもの時くらいじゃないか」って」

 片づけを終えると、自然とため息が出た。

「「間中の言うように間違ってることが必ず正されるなら、誰も理不尽な思いしないよ」とも言われたな」

 厨房に置いたパイプ椅子に勢いよく腰を下ろした。バランスを崩しかけて、ガタンと音が鳴る。
 
 子どものまま、体だけ大人になったヤツ、そう評されたこともある。
 噂話好きで、思ったことがすぐに口に出るせいか独り言が多い。挙句の果ては、正しい行動が必ず評価されると信じている。
 30代半ばに差し掛かろうかという男にしては、確かに子どもっぽいのかもしれない。

「独身のままいるのがいいかもな」

 背後のドアが開いた。聡が振り返る前に、建付けが悪くなるんじゃないかと思うほど大きな音を立ててドアが閉まった。

「聡、ちょっと聞いてーな」

 母の留以子がパイプ椅子の背もたれに手を置き、立ち上がるタイミングを逃した聡を見下ろした。
 その顔には青筋が立っている。いや、骨に皮がついているだけと言っても過言じゃないほど痩せているせいか、服から出ている部分は全て青筋が立っているように見えた。

 聡は椅子から立ち上がり、留以子に譲る。
 水道水の蛇口をひねり、ガラスコップ2つに水を入れた。店の水道は浄水機能付きだ。
 1つを留以子に差し出す。

「で、何があったんだよ」

 椅子に座って、水を飲んだ留以子は目を吊り上げている。

「あの好美はん、ほんま、自分のことしか見えてへんねんな」

 聡はカウンターと厨房を行き来しながら、よく通る大阪弁を聞く。

「今、10時だろ。どこの店も開いてないか、開いたばっかりだよな」

 好美の迷惑行為を目撃するには時間が早すぎるような気がする。
 
 留以子は、ダンっとコップをステンレス台に置いた。
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