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新婚生活編
14.酒は飲んでも前編(攻め視点)
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『今日は帰りが遅くなる』
メッセージアプリにはたったその一言だけが届いていた。
瞬ちゃんのメッセージはいつも簡潔すぎる上に絵文字も感嘆符も使わないため感情が読み取りづらいのだが、今日は金曜日だし多分飲み会だろう。
一緒に晩御飯を食べられないのは少し寂しいが、瞬ちゃんにも付き合いがあるんだろうと思い特に気にせず俺は『了解』のスタンプを送った。
瞬ちゃんがこういう連絡をくれる時は大体日付が変わってから帰宅する。
時刻は午後11時。
先に寝てしまおうかと思いつつも、瞬ちゃんが帰ってきたらおかえりくらい言いたくてベッドに入るのを躊躇っていた。
俺は時間を潰すためにぼんやりとテレビを眺めていたが、いつの間にかうとうとしてしまっていたらしい。
玄関の鍵を開ける音が聞こえてきてハッと目が覚めた。
廊下へ続く扉を開けばちょうど玄関で靴を脱いでいる最中の瞬ちゃんが居た。
「おかえり。遅かったねぇ」
「ん…」
よく見ると頬がほんのり赤く染まっていて足元もおぼつかないようだ。
しかもすごくお酒臭い。
「だいぶ飲まされたみたいだね~」
「あぁ…」
「気持ち悪くない?吐きそうならトイレ連れていくけど」
「……大丈夫…」
俺は瞬ちゃんを支えるように肩を貸して寝室へと向かった。
こんなになるまで飲むなんて珍しいな、と疑問に思いながらもとりあえずベッドに座らせる。
「お水飲むよね?」
「…たのむ」
俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すべくキッチンへ向かった。
「はい、どうぞ」
「さんきゅ」
瞬ちゃんの隣に座ってコップを手渡すとちびちびと口をつけ始めた。
受け答えもふんわりとしていていつもよりも柔らかな雰囲気の瞬ちゃんについ見入ってしまう。
「なんだよ」
そんな俺の視線を感じたのか、こちらを見てふわりと小さく笑う。
「いや~…そんなになるまで飲んでくるなんて珍しいから…」
瞬ちゃんは「あー……」と小さく声を出してからゆっくりと語り出した。
「今日、同僚の誕生日だったんだけどさ、誰も祝ってくれるやつ居ないから付き合え…って」
「うん」
「それで…しこたま飲まされた」
「そっか。大変だったねぇ」
「うん、まぁ……べつに」
瞬ちゃんはそう言うと少しだけ微笑んで見せた。
普段険しい表情をしている事が多いからか、その笑顔はとても新鮮に見える。
「…てか、先に寝ててもよかったのに」
「瞬ちゃんの顔見たかったから」
「ふぅん」
照れ隠しなのか瞬ちゃんは一気に水をあおるとサイドテーブルに勢いよくコップを置いてそのままベッドに横たわった。
「シャツ皺になるよー」
「うん」
瞬ちゃんは仰向けになったままネクタイを緩め、ワイシャツのボタンに手をかけた。
しかし酔っ払っているせいか手元がおぼつかず、苦戦しているようだ。
「手伝おうか?」
「いい、自分でやる」
瞬ちゃんは面倒くさそうな顔で俺の手を振り払うと起き上がってもたもたとワイシャツのボタンを外し始めた。
「んー…?」
普段は絶対に見られないような光景に俺はなんだかいけない事を見ている気分になってしまう。
「俺、着替え持ってくるね」
「おー……たすかる」
俺はそう言って立ち上がるとクローゼットの中からスウェットを取り出してベッドへと戻った。
「おまたせ。ここ置いとくね」
瞬ちゃんは集中しているのか返事はない。
その間手持ち無沙汰になった俺はベッドの上に散らばった瞬ちゃんのジャケットやネクタイを拾い集めてハンガーにかける事にした。
「……あれ?」
不意に背後から声が聞こえて振り向くと、瞬ちゃんは今度はベルトに手をかけていた。シャツのボタンはまだ第二ボタンまでしか外せておらず、途中で諦めた事が伺えた。
カチャカチャと金属音を立てながら金具を外す姿はなんだか妙に色っぽく見える。
「…んー…なんだこれ。こわれてる」
どうやらベルトにも手こずっているようだ。
焦れた様子でめちゃくちゃな方向にバックルを引っ張る瞬ちゃんに俺は思わず吹き出してしまった。
「何笑ってんだてめぇ」
「ごめん、なんか可愛くて」
「くそが」
瞬ちゃんは眉間にシワを寄せたまま俺を睨みつけると、再びカチャカチャと音を鳴らし始めた。
「あー、待って。無理しないで」
これ以上続けさせると本当に壊してしまいかねないと思った俺は慌てて瞬ちゃんの元へ駆け寄った。
「はい、ちょっと失礼しますよ~」
俺はそう言うと瞬ちゃんの足元にしゃがみ込み、バックルを掴んでいる手に自分の手を重ねた。
先程のように「自分でやる」と抵抗されるかと思ったが、今回は意外にも素直に従ってくれた。
「よし……外れた」
「さんきゅ」
瞬ちゃんは短くそう言うと、そのままスラックスごと脱いでベッドの下に落とした。
ベルトの金具が床に当たりカシャリと乾いた音が部屋に響く。
はだけたワイシャツにボクサーパンツ というなんとも情けない格好になってしまった幼馴染はそのままベッドに仰向けに寝ころんだ。
どうやらもう着替えは諦めたらしい。
俺は苦笑いしながら瞬ちゃんの横に腰掛けてその様子を見下ろしながら声をかける。
「明日は何か予定あるの?」
「んー……なんも…」
アルコールのせいで眠気が襲ってきたのかそのんの声は段々と間延びしていく。
「そっか。じゃあゆっくり休めるね」
「……ああ」
「あ、寝るならもうちょいそっち寄ってね」
瞬ちゃんはベッドの長辺側中央あたりを陣取り、膝から下を投げ出すように大の字になっていた。
俺は笑いながらその足を軽く叩いて移動するように促す。
「うわーお触り禁止だぞ」
瞬ちゃんは自分の発言が面白かったのか一人でふにゃふにゃと笑い始めた。
なかなか面倒な酔い方をしているようだが、相手が瞬ちゃんだと可愛くて仕方がない。惚れた弱みというのは本当に厄介だと思った。
「はーい、動かないでくださいね~」
俺は半ば強引に瞬ちゃんの背中と膝の裏に手を差し込んで抱え込むようにして軽く持ち上げる。
いわゆるお姫様抱っこだ。
「あはは、ういてる」
「はいはい」
瞬ちゃんは俺の首に腕を回すと満足そうに笑った。首筋にかかる息がくすぐったい。
俺は瞬ちゃんをベッドの壁際まで移動させてゆっくりと降ろした。
しかし俺の首に絡めた腕をなかなか離してくれない。
「……瞬ちゃん?まだ起きてる?」
「おきてない」
「嘘つき」
俺はそう言って彼の腕を優しく引き剥がすとそのままシーツの上に置いた。
「彗におそわれる」
「人聞きの悪い事言わないの」
「うひひ」
瞬ちゃんは俺の下で楽しそうにケラケラと身を捩らせて笑った。
不可抗力とは言え押し倒しているような体勢になってしまったのは事実だが…
「なぁ、けい~」
「なぁに」
瞬ちゃんはとろんとした瞳で俺を見つめながら口を開いた。
「彗は俺のこと好きか?」
「?大好きだよ」
「そうか、大好きか」
瞬ちゃんはにまにまと満足げに笑う。
「じゃあさ~」
今度は一体どんな絡みをされるのかと少し構えながら俺は次の言葉を待っていると、瞬ちゃんは相変わらず間伸びした声で続けた。
「俺とすけべな事とかしたい?」
一瞬思考が停止する。
急に何を言い出すんだ、この幼馴染は。
「どうなんだよ~答えろよ~」
瞬ちゃんは俺の顔を下から覗き込みながら体を揺さぶって催促してくる。
今日は本当にめんどくさい酔い方をしているようだ。
「どうって言われても……」
「けーいー」
「瞬ちゃん…」
俺はその手を取ってぎゅっと握りしめると真っ直ぐ目を見て言った。
「誰かになんか変なこと吹き込まれたでしょ」
瞬ちゃんは俺の言葉にピクリと反応すると、今度は眉間にシワを寄せて口を尖らせた。
「……べっつに~」
「あ、これは図星だな」
「うるせ~もうねる」
俺の憶測だが、恐らく今日一緒に飲んだ同僚とやらに余計なお節介を焼かれたのだろう。
もしかしたら俺と瞬ちゃんの関係についてあれこれ詮索されたのかもしれない。
瞬ちゃんは拗ねたように顔を背けると、握られた手をほどいて頭まですっぽり布団を被った。
俺はその様子を見て思わず苦笑いを浮かべる。
「ねぇ、瞬ちゃん。何言われたか知らないけど、誰かの価値観に合わせる必要はないよ」
「…………」
「瞬介さーん」
「きこえません」
「ふふ、もう」
俺は呆れながらも愛おしくて堪らない気持ちになって布団の上から瞬ちゃんを撫でた。
確かに俺たちの関係は世間一般からしたらほんの少し奇妙な存在なのかもしれない。
でも、それがなんだと言うのだ。
俺たちはこんなにもお互いを大切に想い合っている。
「……俺も寝よっかなー」
俺は布団の塊に向かって独り言のように呟いた。
「……」
瞬ちゃんは俺の声に反応してモゾモゾと掛け布団を少し持ち上げ俺の入るスペースを作ってくれた。
「ありがと」
俺はその隙間に滑り込むようにして瞬ちゃんの隣に横になった。
「けい…」
「んー?」
その続きを待っていると瞬ちゃんから規則正しい寝息が聞こえてきた。
「おやすみ、瞬ちゃん」
俺はリモコンで部屋の明かりを消してそっと目を閉じた。
メッセージアプリにはたったその一言だけが届いていた。
瞬ちゃんのメッセージはいつも簡潔すぎる上に絵文字も感嘆符も使わないため感情が読み取りづらいのだが、今日は金曜日だし多分飲み会だろう。
一緒に晩御飯を食べられないのは少し寂しいが、瞬ちゃんにも付き合いがあるんだろうと思い特に気にせず俺は『了解』のスタンプを送った。
瞬ちゃんがこういう連絡をくれる時は大体日付が変わってから帰宅する。
時刻は午後11時。
先に寝てしまおうかと思いつつも、瞬ちゃんが帰ってきたらおかえりくらい言いたくてベッドに入るのを躊躇っていた。
俺は時間を潰すためにぼんやりとテレビを眺めていたが、いつの間にかうとうとしてしまっていたらしい。
玄関の鍵を開ける音が聞こえてきてハッと目が覚めた。
廊下へ続く扉を開けばちょうど玄関で靴を脱いでいる最中の瞬ちゃんが居た。
「おかえり。遅かったねぇ」
「ん…」
よく見ると頬がほんのり赤く染まっていて足元もおぼつかないようだ。
しかもすごくお酒臭い。
「だいぶ飲まされたみたいだね~」
「あぁ…」
「気持ち悪くない?吐きそうならトイレ連れていくけど」
「……大丈夫…」
俺は瞬ちゃんを支えるように肩を貸して寝室へと向かった。
こんなになるまで飲むなんて珍しいな、と疑問に思いながらもとりあえずベッドに座らせる。
「お水飲むよね?」
「…たのむ」
俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すべくキッチンへ向かった。
「はい、どうぞ」
「さんきゅ」
瞬ちゃんの隣に座ってコップを手渡すとちびちびと口をつけ始めた。
受け答えもふんわりとしていていつもよりも柔らかな雰囲気の瞬ちゃんについ見入ってしまう。
「なんだよ」
そんな俺の視線を感じたのか、こちらを見てふわりと小さく笑う。
「いや~…そんなになるまで飲んでくるなんて珍しいから…」
瞬ちゃんは「あー……」と小さく声を出してからゆっくりと語り出した。
「今日、同僚の誕生日だったんだけどさ、誰も祝ってくれるやつ居ないから付き合え…って」
「うん」
「それで…しこたま飲まされた」
「そっか。大変だったねぇ」
「うん、まぁ……べつに」
瞬ちゃんはそう言うと少しだけ微笑んで見せた。
普段険しい表情をしている事が多いからか、その笑顔はとても新鮮に見える。
「…てか、先に寝ててもよかったのに」
「瞬ちゃんの顔見たかったから」
「ふぅん」
照れ隠しなのか瞬ちゃんは一気に水をあおるとサイドテーブルに勢いよくコップを置いてそのままベッドに横たわった。
「シャツ皺になるよー」
「うん」
瞬ちゃんは仰向けになったままネクタイを緩め、ワイシャツのボタンに手をかけた。
しかし酔っ払っているせいか手元がおぼつかず、苦戦しているようだ。
「手伝おうか?」
「いい、自分でやる」
瞬ちゃんは面倒くさそうな顔で俺の手を振り払うと起き上がってもたもたとワイシャツのボタンを外し始めた。
「んー…?」
普段は絶対に見られないような光景に俺はなんだかいけない事を見ている気分になってしまう。
「俺、着替え持ってくるね」
「おー……たすかる」
俺はそう言って立ち上がるとクローゼットの中からスウェットを取り出してベッドへと戻った。
「おまたせ。ここ置いとくね」
瞬ちゃんは集中しているのか返事はない。
その間手持ち無沙汰になった俺はベッドの上に散らばった瞬ちゃんのジャケットやネクタイを拾い集めてハンガーにかける事にした。
「……あれ?」
不意に背後から声が聞こえて振り向くと、瞬ちゃんは今度はベルトに手をかけていた。シャツのボタンはまだ第二ボタンまでしか外せておらず、途中で諦めた事が伺えた。
カチャカチャと金属音を立てながら金具を外す姿はなんだか妙に色っぽく見える。
「…んー…なんだこれ。こわれてる」
どうやらベルトにも手こずっているようだ。
焦れた様子でめちゃくちゃな方向にバックルを引っ張る瞬ちゃんに俺は思わず吹き出してしまった。
「何笑ってんだてめぇ」
「ごめん、なんか可愛くて」
「くそが」
瞬ちゃんは眉間にシワを寄せたまま俺を睨みつけると、再びカチャカチャと音を鳴らし始めた。
「あー、待って。無理しないで」
これ以上続けさせると本当に壊してしまいかねないと思った俺は慌てて瞬ちゃんの元へ駆け寄った。
「はい、ちょっと失礼しますよ~」
俺はそう言うと瞬ちゃんの足元にしゃがみ込み、バックルを掴んでいる手に自分の手を重ねた。
先程のように「自分でやる」と抵抗されるかと思ったが、今回は意外にも素直に従ってくれた。
「よし……外れた」
「さんきゅ」
瞬ちゃんは短くそう言うと、そのままスラックスごと脱いでベッドの下に落とした。
ベルトの金具が床に当たりカシャリと乾いた音が部屋に響く。
はだけたワイシャツにボクサーパンツ というなんとも情けない格好になってしまった幼馴染はそのままベッドに仰向けに寝ころんだ。
どうやらもう着替えは諦めたらしい。
俺は苦笑いしながら瞬ちゃんの横に腰掛けてその様子を見下ろしながら声をかける。
「明日は何か予定あるの?」
「んー……なんも…」
アルコールのせいで眠気が襲ってきたのかそのんの声は段々と間延びしていく。
「そっか。じゃあゆっくり休めるね」
「……ああ」
「あ、寝るならもうちょいそっち寄ってね」
瞬ちゃんはベッドの長辺側中央あたりを陣取り、膝から下を投げ出すように大の字になっていた。
俺は笑いながらその足を軽く叩いて移動するように促す。
「うわーお触り禁止だぞ」
瞬ちゃんは自分の発言が面白かったのか一人でふにゃふにゃと笑い始めた。
なかなか面倒な酔い方をしているようだが、相手が瞬ちゃんだと可愛くて仕方がない。惚れた弱みというのは本当に厄介だと思った。
「はーい、動かないでくださいね~」
俺は半ば強引に瞬ちゃんの背中と膝の裏に手を差し込んで抱え込むようにして軽く持ち上げる。
いわゆるお姫様抱っこだ。
「あはは、ういてる」
「はいはい」
瞬ちゃんは俺の首に腕を回すと満足そうに笑った。首筋にかかる息がくすぐったい。
俺は瞬ちゃんをベッドの壁際まで移動させてゆっくりと降ろした。
しかし俺の首に絡めた腕をなかなか離してくれない。
「……瞬ちゃん?まだ起きてる?」
「おきてない」
「嘘つき」
俺はそう言って彼の腕を優しく引き剥がすとそのままシーツの上に置いた。
「彗におそわれる」
「人聞きの悪い事言わないの」
「うひひ」
瞬ちゃんは俺の下で楽しそうにケラケラと身を捩らせて笑った。
不可抗力とは言え押し倒しているような体勢になってしまったのは事実だが…
「なぁ、けい~」
「なぁに」
瞬ちゃんはとろんとした瞳で俺を見つめながら口を開いた。
「彗は俺のこと好きか?」
「?大好きだよ」
「そうか、大好きか」
瞬ちゃんはにまにまと満足げに笑う。
「じゃあさ~」
今度は一体どんな絡みをされるのかと少し構えながら俺は次の言葉を待っていると、瞬ちゃんは相変わらず間伸びした声で続けた。
「俺とすけべな事とかしたい?」
一瞬思考が停止する。
急に何を言い出すんだ、この幼馴染は。
「どうなんだよ~答えろよ~」
瞬ちゃんは俺の顔を下から覗き込みながら体を揺さぶって催促してくる。
今日は本当にめんどくさい酔い方をしているようだ。
「どうって言われても……」
「けーいー」
「瞬ちゃん…」
俺はその手を取ってぎゅっと握りしめると真っ直ぐ目を見て言った。
「誰かになんか変なこと吹き込まれたでしょ」
瞬ちゃんは俺の言葉にピクリと反応すると、今度は眉間にシワを寄せて口を尖らせた。
「……べっつに~」
「あ、これは図星だな」
「うるせ~もうねる」
俺の憶測だが、恐らく今日一緒に飲んだ同僚とやらに余計なお節介を焼かれたのだろう。
もしかしたら俺と瞬ちゃんの関係についてあれこれ詮索されたのかもしれない。
瞬ちゃんは拗ねたように顔を背けると、握られた手をほどいて頭まですっぽり布団を被った。
俺はその様子を見て思わず苦笑いを浮かべる。
「ねぇ、瞬ちゃん。何言われたか知らないけど、誰かの価値観に合わせる必要はないよ」
「…………」
「瞬介さーん」
「きこえません」
「ふふ、もう」
俺は呆れながらも愛おしくて堪らない気持ちになって布団の上から瞬ちゃんを撫でた。
確かに俺たちの関係は世間一般からしたらほんの少し奇妙な存在なのかもしれない。
でも、それがなんだと言うのだ。
俺たちはこんなにもお互いを大切に想い合っている。
「……俺も寝よっかなー」
俺は布団の塊に向かって独り言のように呟いた。
「……」
瞬ちゃんは俺の声に反応してモゾモゾと掛け布団を少し持ち上げ俺の入るスペースを作ってくれた。
「ありがと」
俺はその隙間に滑り込むようにして瞬ちゃんの隣に横になった。
「けい…」
「んー?」
その続きを待っていると瞬ちゃんから規則正しい寝息が聞こえてきた。
「おやすみ、瞬ちゃん」
俺はリモコンで部屋の明かりを消してそっと目を閉じた。
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