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新婚生活編
7.デート-4-
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「お待たせいたしましたー!」
そんな俺の思考は店員の元気な声によって遮られた。
どうやら注文した料理が届いたようだ。
とりあえず今は飯を食おう。そうすればきっとさっきの妙な胸のざわつきも消えるはず。
運ばれてきた料理を口に運びつつ、ちらと彗の方を見ると目が合った。
「美味しいね」
ふわりと笑うその笑顔は見慣れた物のはずなのにやはり綺麗で、思わず見惚れてしまう。
「ああ、そうだな」
それから俺たちは他愛のないことを話しながら食事を楽しみ、店を出る頃には21時近くになっていた。
外はすっかり暗くなっており、街灯に照らされた道を歩く人々の姿が見える。
「いやぁ、食べたね~」
「今度は彗のおすすめの店に連れてってくれよ」
「もちろんいいよ!」
嬉しそうに笑う彗の顔は酒が入っていることもあってか普段よりも赤くなっているように見える。
「じゃあそろそろ帰るか」
「うん、そうだね」
帰る家が同じなのだから当たり前だが、こうして2人で並んで歩いているとなんだか不思議な気分になる。
ほんの1ヶ月前までただの友達だったのだから当然といえば当然なのだが、今までとは確実に違う関係性になったのだという事実を改め実感させられた。
「ねぇ瞬ちゃん」
隣を歩いていた彗が立ち止まり、こちらを見つめてくる。
「ん?」
「えっと……さっきの話の続きだけど……」
さっきの話というのはあの居酒屋での会話のことだろうか。
「瞬ちゃんはさ、女の子と付き合ってみたいとか思わないの?」
「いや別に。考えたこともないけど」
正直に即答すると彗は「えぇ~!?」と大袈裟に驚いてみせた。
「どうして?」
「どうしてって言われても……」
改めて理由を考えてみると特に理由はなかった。強いて言うならば……。
「そもそも俺、恋愛に興味ないし」
そう答えると彗は信じられないという顔をして俺を凝視してきた。
「じゃあ今まで好きな人がいた事は?」
「多分一度も無いと思う」
「告白されたことは?」
「それこそねえよ。てか俺がモテない事はお前が1番よく知ってるだろ?」
意図の読めない質問に首を傾げていると、彗は大きく溜息をついたあと何故か呆れたように笑った。
「…うん、知ってるよ」
しかし結局彗が何を言いたいのか分からず、俺はさらに疑問符を浮かべることしかできなかった。
「だからね。俺、今まで安心してたんだと思う。瞬ちゃんはこの先もずっと誰の物にもならずに俺の隣にいるって勝手に思ってて……でも今日みたいな場面を見たら急に不安になっちゃった」
彗はそこまで話すとふと視線を落とし、俺から一歩距離をとってまた歩き出した。
「ごめん、変なこと言って。今日はちょっと飲み過ぎちゃったかな」
独り言のようにそう呟く彗の横顔にはいつものような余裕のある表情はなく、どこか悲しげに見える。
「…?でも今はお前と結婚してるだろ。彗は俺が浮気するような奴だと思ってんの?」
「そうじゃないよ。瞬ちゃんはそんな不誠実な人じゃないもん」
「なら…」
「…ただ、この先本当に好きな相手が現れた時に瞬ちゃんはどうするのかなって。男の俺じゃ、あげられない物だって沢山あるし」
彗の言わんとしていることがなんとなく分かった。
恋愛経験のない俺がこの先誰かのことを好きになった場合、果たしてその気持ちを押し殺せるのかという事だろう。
そしてその対象は女性で、その時俺は彗よりも『家庭を築く事』を選ぶのではないか…と。
「彗」
しかし俺だって何も考えがない訳ではない。
「俺はそんな軽い気待ちでお前と結婚したつもりはないぞ」
「え…」
俺の言葉に彗は驚いたような声を上げる。
「確かに結婚に至った経緯はアレだったけどさ、それでもお前と一緒になる以上それなりに覚悟決めてたんだよ」
「………」
彗はゆっくりと顔を上げ、俺の言葉を聞き逃さないように真剣な眼差しを向けてくる。
「恋愛感情が無くたって彗は俺の大切なパートナーだろ。それに俺はお前のこと誰よりも信頼してるから」
俺が言い終わると同時に彗は再び下を向いてしまった。その肩は小さく震えているように見える。
「だから……俺のことももう少し信頼して欲しい」
もしかしたら今の発言は少しキザすぎたかもしれない。
「あの、彗…」
「…ずるいなぁ瞬ちゃんは」
彗は瞳を潤ませつつも、口元を緩ませ優しい笑顔を見せていた。
「そんなこと言われたら俺、ますます瞬ちゃんから離れられなくなるじゃん」
そんな台詞を聞いたら揶揄うこともできず照れ隠しのため咳払いをする。
「……まぁとにかく!そういうことだから妙な心配すんなよ」
「うん、ごめんね。ありがとう」
彗は目尻に浮かんだ雫を拭いながらはにかむような笑顔を見せた。
「……ほら、早く帰るぞ」
「うん!」
それから俺たちは帰路についた。
お互い無言だったが、不思議とその沈黙は居心地の悪いものではなくむしろ暖かくて幸せなものだった。
そんな俺の思考は店員の元気な声によって遮られた。
どうやら注文した料理が届いたようだ。
とりあえず今は飯を食おう。そうすればきっとさっきの妙な胸のざわつきも消えるはず。
運ばれてきた料理を口に運びつつ、ちらと彗の方を見ると目が合った。
「美味しいね」
ふわりと笑うその笑顔は見慣れた物のはずなのにやはり綺麗で、思わず見惚れてしまう。
「ああ、そうだな」
それから俺たちは他愛のないことを話しながら食事を楽しみ、店を出る頃には21時近くになっていた。
外はすっかり暗くなっており、街灯に照らされた道を歩く人々の姿が見える。
「いやぁ、食べたね~」
「今度は彗のおすすめの店に連れてってくれよ」
「もちろんいいよ!」
嬉しそうに笑う彗の顔は酒が入っていることもあってか普段よりも赤くなっているように見える。
「じゃあそろそろ帰るか」
「うん、そうだね」
帰る家が同じなのだから当たり前だが、こうして2人で並んで歩いているとなんだか不思議な気分になる。
ほんの1ヶ月前までただの友達だったのだから当然といえば当然なのだが、今までとは確実に違う関係性になったのだという事実を改め実感させられた。
「ねぇ瞬ちゃん」
隣を歩いていた彗が立ち止まり、こちらを見つめてくる。
「ん?」
「えっと……さっきの話の続きだけど……」
さっきの話というのはあの居酒屋での会話のことだろうか。
「瞬ちゃんはさ、女の子と付き合ってみたいとか思わないの?」
「いや別に。考えたこともないけど」
正直に即答すると彗は「えぇ~!?」と大袈裟に驚いてみせた。
「どうして?」
「どうしてって言われても……」
改めて理由を考えてみると特に理由はなかった。強いて言うならば……。
「そもそも俺、恋愛に興味ないし」
そう答えると彗は信じられないという顔をして俺を凝視してきた。
「じゃあ今まで好きな人がいた事は?」
「多分一度も無いと思う」
「告白されたことは?」
「それこそねえよ。てか俺がモテない事はお前が1番よく知ってるだろ?」
意図の読めない質問に首を傾げていると、彗は大きく溜息をついたあと何故か呆れたように笑った。
「…うん、知ってるよ」
しかし結局彗が何を言いたいのか分からず、俺はさらに疑問符を浮かべることしかできなかった。
「だからね。俺、今まで安心してたんだと思う。瞬ちゃんはこの先もずっと誰の物にもならずに俺の隣にいるって勝手に思ってて……でも今日みたいな場面を見たら急に不安になっちゃった」
彗はそこまで話すとふと視線を落とし、俺から一歩距離をとってまた歩き出した。
「ごめん、変なこと言って。今日はちょっと飲み過ぎちゃったかな」
独り言のようにそう呟く彗の横顔にはいつものような余裕のある表情はなく、どこか悲しげに見える。
「…?でも今はお前と結婚してるだろ。彗は俺が浮気するような奴だと思ってんの?」
「そうじゃないよ。瞬ちゃんはそんな不誠実な人じゃないもん」
「なら…」
「…ただ、この先本当に好きな相手が現れた時に瞬ちゃんはどうするのかなって。男の俺じゃ、あげられない物だって沢山あるし」
彗の言わんとしていることがなんとなく分かった。
恋愛経験のない俺がこの先誰かのことを好きになった場合、果たしてその気持ちを押し殺せるのかという事だろう。
そしてその対象は女性で、その時俺は彗よりも『家庭を築く事』を選ぶのではないか…と。
「彗」
しかし俺だって何も考えがない訳ではない。
「俺はそんな軽い気待ちでお前と結婚したつもりはないぞ」
「え…」
俺の言葉に彗は驚いたような声を上げる。
「確かに結婚に至った経緯はアレだったけどさ、それでもお前と一緒になる以上それなりに覚悟決めてたんだよ」
「………」
彗はゆっくりと顔を上げ、俺の言葉を聞き逃さないように真剣な眼差しを向けてくる。
「恋愛感情が無くたって彗は俺の大切なパートナーだろ。それに俺はお前のこと誰よりも信頼してるから」
俺が言い終わると同時に彗は再び下を向いてしまった。その肩は小さく震えているように見える。
「だから……俺のことももう少し信頼して欲しい」
もしかしたら今の発言は少しキザすぎたかもしれない。
「あの、彗…」
「…ずるいなぁ瞬ちゃんは」
彗は瞳を潤ませつつも、口元を緩ませ優しい笑顔を見せていた。
「そんなこと言われたら俺、ますます瞬ちゃんから離れられなくなるじゃん」
そんな台詞を聞いたら揶揄うこともできず照れ隠しのため咳払いをする。
「……まぁとにかく!そういうことだから妙な心配すんなよ」
「うん、ごめんね。ありがとう」
彗は目尻に浮かんだ雫を拭いながらはにかむような笑顔を見せた。
「……ほら、早く帰るぞ」
「うん!」
それから俺たちは帰路についた。
お互い無言だったが、不思議とその沈黙は居心地の悪いものではなくむしろ暖かくて幸せなものだった。
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