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新婚生活編

5.デート-2-

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休日ということもありこの時間帯の繁華街は多くの人で賑わっていた。
「瞬ちゃん何食べたい?」
「んー、この前駅前の居酒屋で食べた唐揚げが美味かったんだよな。そこ行かね?」
「うん、いいね。じゃあそうしよっか」
それからしばらく歩を進めると俺たちは大通りに出た。

「えーっと…確かここを右に曲がればすぐのはず…」
俺がそう呟いた時だった。
「ねぇ、あの人カッコ良くない?芸能人かなぁ」
「声かけてみる?」
「絶対彼女持ちだって~」

声のする方へ何気なく視線をやると大学生くらいの女性4人組がこちらの方を見てヒソヒソと話している。
4人とも整った顔立ちをしていて服装も露出度の高い派手な格好をしている。
いわゆるギャルとかパリピと呼ばれる類の人たちだろうか。
その彼女たちの目線は俺ではなく……明らかに彗へと注がれている。
その証拠に彼女たちは彗と目が合った瞬間顔を赤らめ黄色い歓声を上げていた。
そりゃそうだよな……こんな格好良い奴が街中歩いてたら誰だって注目する。

反応に困った俺が一瞬彗の方を見るとその隙を狙ったかのように1人の女の子が話しかけて来た。
「あの!よかったら私たちと一緒にご飯行きませんか!?」
それを皮切りに他の子たちも「お兄さんイケメンですね!」「男の人だけだと寂しくないですか?」と彗に声をかけ始めた。
当の本人は逆ナンに慣れているのか、「あはは、どーもー」などと軽薄な態度で応えている。

彗のことだ。俺が助け舟を出さなくても器用にやり過ごすに違いない…と他人事のように傍観していたが、突然1人の女の子が俺の腕に絡み付いてきた。
「お兄さんも私たちと遊びたいですよねー?」
「えっ!?いや、あの…」
まさか自分まで声をかけられると思わず動揺してしまう。
女の子特有の甘い匂いと柔らかな感触にドギマギしてしまいうまく言葉が出て来ない。
「もしかしてお兄さん、女の子苦手な人だったりしますー?」
「えー!かわいいー!」

腕にしがみついた女の子は俺の反応が面白かったらしくさらに強く抱きついてきた。彼女の胸が押しつけられ、嫌でも意識させられてしまう。
「おい、彗!」
助けを求め咄嗟に彗の方を向くと何故か驚いたように目を見開いて固まっていた。
女慣れしているはずのあいつがあの程度のスキンシップでここまで動揺するなんて珍しい。

よく分からないが今の彗は頼りにならない。
焦った俺は絡まれていない方の手で彗の腕を掴み引き寄せ、彼女たちに言い放った。

「…あのさ!悪いけどこいつ俺のなんだ!」
焦りすぎて小っ恥ずかしいセリフを口走ってしまった気がするがそんなことを考えてる余裕は無かった。
「…け、結婚してて…今もデート中で…だからえーっと……な、なぁ?彗!」
「う、うん…!」

案の定女の子は呆気に取られた様子だったが直ぐに笑い出し、こちらに絡ませた腕を解放してくれた。
「うそー!そんなに仲が良いなんて全然気付かなかったです~ごめんなさい!」
「もしかして新婚さんですか?いいな~」
女の子たちは思いの外あっさりと退散してくれた。

残された俺はホッと息をつく。
「…ふう。びっくりしたなー…」
俺は同意を求めながら隣にいた彗の方に目をやるとその様子がおかしいことに気づく。
俯き加減で微動だにしないのだ。

「彗?大丈夫か?」
「あっ……うん、ごめん。ちょっとぼんやりしてた」
そう言って顔を上げた彗は耳まで真っ赤に染まっていた。

「お前、顔真っ赤だぞ」
「……し、瞬ちゃんのせいだよ」
「は?」
「“俺の”とかデートとか…」
どうやら先程の俺の言動を思い出し悶絶しはじめたらしい。
焦っていたとはいえあの発言は自分でもどうかと思ったし、この件に関してはこれ以上触れないで欲しいというのが正直な本音だった。

「あー、あれは勢いで言っただけって言うか…あの場を乗り切るための言葉っていうか……とりあえず忘れてくれ」
などと言い訳を重ねるが全く効果が無いようだ。
「うん、分かってるよ。でも嬉しいからしばらくは忘れられそうにないかも」
照れ臭そうにはにかむ彗を見て俺もつられて頬が熱くなるのを感じた。
それから俺たちは気を取り直し居酒屋へと向かって歩き出した。
店に着くまでの間も俺たちの心臓はバクバクと音を立てていたのだが、それはきっと隣にいる幼馴染も同じなんだろう。
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