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片想い編
5.熱烈
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その日を境に杉宮からの熱烈アプローチが始まった。
「檜山先輩。よかったら今度の日曜に食事に行きませんか?」
「悪い。その日は先約が入ってて」
「ではその次の土曜に水族館に行きましょう」
「あー。俺、魚苦手なんだよなー」
「では、いつなら空いてますか?」
「……ちょっとスケジュール確認してみないとわからんなぁ」
段々断る理由が思いつかなくなってきたある日のこと。
「先輩、試写会のチケットが余ってるんですけど、よかったら行きませんか?他に譲れそうな相手が居なくて困ってるんです」
「試写会?」
「はい。有名なシリーズ物なので先輩もタイトルくらいは知ってるんじゃないかと……」
そう言って差し出されたチケットは、俺がBDやグッズを買い揃えるほど大好きなアクション映画のものだった。
試写会と言うことは一般公開より前に一足早く見れると言うことだ。
「い、行きたい……!」
思わずチケットを握りしめる勢いで即答してしまい、しまったと思ったが後の祭りである。
こうして俺はまんまと杉宮の術中に嵌ったのであった。
プライベートで杉宮と2人きりで出かけるのは初めてだ。
約束の日の朝、目が覚めるとメッセージアプリに杉宮から連絡が入っていた。
『檜山先輩。
おはようございます。
試写会にご一緒していただけるとのことで、ありがとうございます。
昨日は緊張してしまい中々眠れませんでした。
今日はよろしくお願いいたします。』
やたら丁寧な文面に驚いたが、杉宮らしくて微笑ましい気持ちになった。
杉宮とのやり取りを終えた俺は身仕度を整え家を出た。
今日は快晴で気温も程よく過ごしやすい1日になりそうだ。
待ち合わせ場所に指定した駅前の時計台には土曜ということもあり、多くの人々が忙しなく行き来していた。
「先輩」
「うぉ!?」
突然背後から呼びかけられ、ビクッと肩が跳ね上がる。
「あ、すみません。おはようございます」
10分前に着いたつもりだったが、杉宮の方が先に来ていたようだ。
「あぁ、おはよ。悪い、待たせたか?」
「いえ、俺もさっき来たところです」
私服姿の杉宮を見るのは新鮮だった。
グレーのジャケットに白シャツ、ジーパンといったシンプルな服装だが、素材が良いせいなのかとても様になって見える。
スーツ姿では分からなかった筋肉質な身体つきが露わになっていて、つい視線が釘付けになってしまった。
「よし、じゃあ行くか!」
電車に揺られること15分、目的地の映画館に到着した。
受付で貰ったチラシには今回の映画のストーリーやキャストの紹介などが記載されている。
席は中央付近のやや後方だったので、スクリーン全体を見渡すことができそうだった。
「うわあ、テンション上がってきた!俺、試写会って初めてなんだよ」
「俺もです」
「そういや杉宮もこの映画好きだったのか?」
「実は俺、映画ってほとんど見なくて……このチケットも偶然知人から頂いたものなんです。でも、今日のために全作品予習してきたのである程度の知識は頭に入れてきました」
さらりと凄まじいことを言い放った杉宮に内心驚いたが、好きなものを共有できる仲間ができたことが素直に嬉しかった。
「まじ?7作品全部見たのか」
「はい。好きな人の好きなものを知りたかったので」
杉宮の言葉の意味が理解できず、一瞬思考停止してしまう。
しかしすぐにそれが自分の事を指している事に気づき、全身の血流が一気に加速する。
顔が熱い。
「えっと……その、ありがとう」
なんと言えばいいか分からず、とりあえずお礼を言った。
杉宮は相変わらずの無表情で何を考えているか分からないが、不思議と居心地は悪くなかった。
その後もパンフレットを見ながらあれこれ語り合っていると、上映時刻が迫ってきた。
いよいよ始まると思うとドキドキしてきた。
アクションシーンはもちろんのこと、ヒロイン役の女優の演技にも魅入ってしまった。
期待以上の内容に大満足した俺は、エンドロールが流れる頃にはすっかり映画の世界に引き込まれていた。
「面白かったですね」
「ああ、まさかあのラストであんな展開になるとは思わなかったよ。伏線の回収も見事だし、シリーズ通しても一番の出来だと思う」
俺たちは近くのカフェで感想を語り合った。
俺は興奮気味に映画の内容を語っていたのだが、杉宮は真剣に耳を傾けてくれていた。
「あ、なんか俺ばかり話してたけど退屈じゃなかったか?」
「いえ、そんなことないです。先輩が楽しそうに話す姿を見ているだけで幸せなので」
「そ、そうか……?」
杉宮に好意を持たれていることを意識してしまうと、どう接すれば良いか分からなくなる。
「でも、あの作品を完全に理解するにはまだ時間がかかりそうです」
「確かにシリーズを通して見ると意外と複雑な構成になってるからなー」
「俺、先輩の好きなものはちゃんと理解したいのでこれからも色々教えて欲しいです」
杉宮は真っ直ぐな瞳でそう告げた。
その言葉は純粋に嬉しいものだったが、作品のファンとしては少々複雑だった。
意中の相手に気に入られるために興味のない作品を鑑賞したり知識を身に付けるのは少し違う気がする。
「まぁ、俺としても布教活動ができるのは有難いからいくらでも付き合うけど」
「本当ですか?5作目から内容が難しくて」
「あはは、だいたいそのあたりで脱落者続出するんだよなー」
複雑とは言え、今日のためにわざわざ時間を割いて予習してくれたのは素直に嬉しかったし、杉宮の反応から作品へのリスペクトを感じていたのは事実だった。
「あ、あのさ、俺ブルーレイ全巻持ってるんだけど良かったら今度うち来るか?」
隣で解説しながら見た方が分かりやすいかも、と付け加えて提案すると、杉宮は驚いたように何度も瞬きをした。
「先輩のご自宅にお邪魔しちゃって良いんですか」
「ああ。俺も誰かと一緒に見ながら語り合いたいと思ってたし」
試写会の後でテンションが上がっていた俺は、普段では考えられないくらい積極的になっていた。
「分かりました。じゃあお言葉に甘えて」
こうして思わぬ形で杉宮と2人きりの映画鑑賞会が開催されることになったのであった。
「檜山先輩。よかったら今度の日曜に食事に行きませんか?」
「悪い。その日は先約が入ってて」
「ではその次の土曜に水族館に行きましょう」
「あー。俺、魚苦手なんだよなー」
「では、いつなら空いてますか?」
「……ちょっとスケジュール確認してみないとわからんなぁ」
段々断る理由が思いつかなくなってきたある日のこと。
「先輩、試写会のチケットが余ってるんですけど、よかったら行きませんか?他に譲れそうな相手が居なくて困ってるんです」
「試写会?」
「はい。有名なシリーズ物なので先輩もタイトルくらいは知ってるんじゃないかと……」
そう言って差し出されたチケットは、俺がBDやグッズを買い揃えるほど大好きなアクション映画のものだった。
試写会と言うことは一般公開より前に一足早く見れると言うことだ。
「い、行きたい……!」
思わずチケットを握りしめる勢いで即答してしまい、しまったと思ったが後の祭りである。
こうして俺はまんまと杉宮の術中に嵌ったのであった。
プライベートで杉宮と2人きりで出かけるのは初めてだ。
約束の日の朝、目が覚めるとメッセージアプリに杉宮から連絡が入っていた。
『檜山先輩。
おはようございます。
試写会にご一緒していただけるとのことで、ありがとうございます。
昨日は緊張してしまい中々眠れませんでした。
今日はよろしくお願いいたします。』
やたら丁寧な文面に驚いたが、杉宮らしくて微笑ましい気持ちになった。
杉宮とのやり取りを終えた俺は身仕度を整え家を出た。
今日は快晴で気温も程よく過ごしやすい1日になりそうだ。
待ち合わせ場所に指定した駅前の時計台には土曜ということもあり、多くの人々が忙しなく行き来していた。
「先輩」
「うぉ!?」
突然背後から呼びかけられ、ビクッと肩が跳ね上がる。
「あ、すみません。おはようございます」
10分前に着いたつもりだったが、杉宮の方が先に来ていたようだ。
「あぁ、おはよ。悪い、待たせたか?」
「いえ、俺もさっき来たところです」
私服姿の杉宮を見るのは新鮮だった。
グレーのジャケットに白シャツ、ジーパンといったシンプルな服装だが、素材が良いせいなのかとても様になって見える。
スーツ姿では分からなかった筋肉質な身体つきが露わになっていて、つい視線が釘付けになってしまった。
「よし、じゃあ行くか!」
電車に揺られること15分、目的地の映画館に到着した。
受付で貰ったチラシには今回の映画のストーリーやキャストの紹介などが記載されている。
席は中央付近のやや後方だったので、スクリーン全体を見渡すことができそうだった。
「うわあ、テンション上がってきた!俺、試写会って初めてなんだよ」
「俺もです」
「そういや杉宮もこの映画好きだったのか?」
「実は俺、映画ってほとんど見なくて……このチケットも偶然知人から頂いたものなんです。でも、今日のために全作品予習してきたのである程度の知識は頭に入れてきました」
さらりと凄まじいことを言い放った杉宮に内心驚いたが、好きなものを共有できる仲間ができたことが素直に嬉しかった。
「まじ?7作品全部見たのか」
「はい。好きな人の好きなものを知りたかったので」
杉宮の言葉の意味が理解できず、一瞬思考停止してしまう。
しかしすぐにそれが自分の事を指している事に気づき、全身の血流が一気に加速する。
顔が熱い。
「えっと……その、ありがとう」
なんと言えばいいか分からず、とりあえずお礼を言った。
杉宮は相変わらずの無表情で何を考えているか分からないが、不思議と居心地は悪くなかった。
その後もパンフレットを見ながらあれこれ語り合っていると、上映時刻が迫ってきた。
いよいよ始まると思うとドキドキしてきた。
アクションシーンはもちろんのこと、ヒロイン役の女優の演技にも魅入ってしまった。
期待以上の内容に大満足した俺は、エンドロールが流れる頃にはすっかり映画の世界に引き込まれていた。
「面白かったですね」
「ああ、まさかあのラストであんな展開になるとは思わなかったよ。伏線の回収も見事だし、シリーズ通しても一番の出来だと思う」
俺たちは近くのカフェで感想を語り合った。
俺は興奮気味に映画の内容を語っていたのだが、杉宮は真剣に耳を傾けてくれていた。
「あ、なんか俺ばかり話してたけど退屈じゃなかったか?」
「いえ、そんなことないです。先輩が楽しそうに話す姿を見ているだけで幸せなので」
「そ、そうか……?」
杉宮に好意を持たれていることを意識してしまうと、どう接すれば良いか分からなくなる。
「でも、あの作品を完全に理解するにはまだ時間がかかりそうです」
「確かにシリーズを通して見ると意外と複雑な構成になってるからなー」
「俺、先輩の好きなものはちゃんと理解したいのでこれからも色々教えて欲しいです」
杉宮は真っ直ぐな瞳でそう告げた。
その言葉は純粋に嬉しいものだったが、作品のファンとしては少々複雑だった。
意中の相手に気に入られるために興味のない作品を鑑賞したり知識を身に付けるのは少し違う気がする。
「まぁ、俺としても布教活動ができるのは有難いからいくらでも付き合うけど」
「本当ですか?5作目から内容が難しくて」
「あはは、だいたいそのあたりで脱落者続出するんだよなー」
複雑とは言え、今日のためにわざわざ時間を割いて予習してくれたのは素直に嬉しかったし、杉宮の反応から作品へのリスペクトを感じていたのは事実だった。
「あ、あのさ、俺ブルーレイ全巻持ってるんだけど良かったら今度うち来るか?」
隣で解説しながら見た方が分かりやすいかも、と付け加えて提案すると、杉宮は驚いたように何度も瞬きをした。
「先輩のご自宅にお邪魔しちゃって良いんですか」
「ああ。俺も誰かと一緒に見ながら語り合いたいと思ってたし」
試写会の後でテンションが上がっていた俺は、普段では考えられないくらい積極的になっていた。
「分かりました。じゃあお言葉に甘えて」
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