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第四分章:新世紀イヴァンキルオン

前説ノ弐:墨魯覆滅(中or後編)

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 〽
 Ob's stürmt oder schneit,
    Ob die Sonne uns lacht,
    Der Tag glühend heiß
    Oder eiskalt die Nacht.
 (中略)
 Trifft uns die Todeskugel,
    Ruft uns das Schicksal ab,
    Ja Schicksal ab,
    Dann wird uns der Panzer
    Ein ehernes Grab.

 モスクワに鳴り響くパンツァーリートは、間違いなくソビエト連邦が首府、モスクワがドイツ軍の手によって共産主義者から解放されたことを示す格好の事象であったが、所々発音がおかしいコーラス部隊が存在するのは、却って諸民族がドイツ軍の指揮下にあるということを示すために編集されずにそのまま放送されたという。まさに、「世界に冠たるドイツ」という彼達の欲しい映像が、そこにあった。昨年初秋に解放した後に閲兵式の行われた1942年2月11日当時のドイツ週刊ニュースによる映像である。
 だが、この映像が撮影されるまでに多数の紆余曲折が存在したことを知る者は今は少ない……。
「どうだった、総統閣下の様子は」
「大丈夫だ、なんとかして騙くらかしてきた。おそらく、ロシア諸民族解放委員会なんて議題を可決させるのは無理だからな、死ぬまで公表はしないことにした」
「おいおい……、いくら年が年だっつったって、騙しきれるか?」
「大丈夫だ、いざとなれば……」
「全く、無茶をする……」 実のところ、いかな独裁者といえども一人の人間である、管理できる部分には限界があった。人は神ではない。ましてやである大主YxWx(今日ではイスラームを正統な一神教と扱う旨から、「矢蠅ヤハエ教団」と仇名されることが多い)ではない。
 つまりはそれは何が言えるかと言えば、いかなヒトラーとて全能的存在ではない、ということである。何を当たり前な、と思われるかも知れないが、政治的素人はしばしば独裁者は所有する国家についてすべての事象を知っていると思いがちである。悪い場合は、それを理由に全責任を独裁者に帰すると思ってしまう阿呆すら存在する。それが無知故か悪意故かはさておき、そういう意味ではヒトラーもまた人間である以上、政治的限界は存在していた。彼達は、その虚を突き、ロシア諸民族解放委員会を成立させた。それは、前線でのみ成立しうる政治的欺瞞であったが、同時に合理的でもあった。まあ尤も、ドイツ第三帝国の再編とともに委員会は解散せざるを得なくなったのだが。
 それでも今なお、ロシア法国は自身の国教であるロシア正教とともに、国家の歴史においてロシア諸民族解放委員会を起源として求めることが多いという。あるいは、共産主義者を犯罪者として裁く過程で、共産主義が禁じている宗教的存在に起源を求めた結果、共産主義者にとって敵対している組織であるロシア諸民族解放委員会を起源としたのかも知れないが、それはもはや定かでは無い。
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