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第二部序文:1942年2月~4月の大局
リアル・ホロコースト(序)
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1942年2月、昨月に行われたタイフーン作戦によって解放されたモスクワは、アーリアン・ポリスと改名されドイツ第三帝国の版図となった。これによりソビエトロシアの歴史は終焉するかと思われた。少なくとも、旧ノブゴロドをはじめとしたいわゆるロシア三州(ノブゴロド・モスクワ・キエフ)はドイツの占領下となった以上、ロシアという国は地球上から消え去った。だが、それが即座にソビエトロシアの終焉を意味したかと言われれば若干の疑問符が残る。と、いうのも……。
「逃げるぞ、同志諸君! まだロシアには東がある!」
自称、「長征作戦」という名で行われた赤軍の東部地域への撤退行動――つまりは、ドイツ第三帝国から逃れるためのシベリアへの逃亡――によって、ソビエト連邦という名義のロシア地域は辛うじて存在していた。だが、ここでウラソフ将軍らの「ロシア諸民族解放委員会」の名義が効くこととなる。つまりは、共産主義に反発するロシア人にはドイツ占領下の状態とは言え、ロシア三州に残って共産主義者をロシアから放伐するという選択肢が存在したのだ。そして、ソビエト連邦は散々の悪政のツケを払う羽目になる……。
「…………」
飼い犬が怯える程度には機嫌の悪いその館の主は、その名誉のために記述するならば決して戦局が悪化したから機嫌が悪いのでは無かった。むしろ、彼がその館の主となってから戦局は悪化するまで傾いてはおらず、国民の名声としてはまずますの水準を保っていた。
では、なぜ彼は機嫌が悪かったのか。それは……。
「フューラー、機嫌はまだ収まりませんか……?」
「当たり前だ、折角スラブ民族を族滅する潮時だというのに……」
「(はぁ)……フューラー、ウンターメンシェ皆殺し作戦の実行は、外征が片付いてからでも遅くは御座いますまい」
「そうは言うがな……」
「……盟友の言葉にこんなのがございます。「外敵を滅ぼせれば、内政はいくらでもできる」」
「……そうなのか?」
「それなりに、理には適っていると思いますが」
「……ちっ」
「そんなことよりフューラー、現地の赤軍幹部の処刑方法でございますが……」
……彼はあくまでも、スラブ人を絶滅させる気だったのだ。とはいえ、まだ戦争は続いており、折角の無償労働力を可惜何の益も出さずに殺して回るのは純物理的にも効率の悪い行為であった。
そして、彼を懸命になだめている側近の努力の甲斐あって、彼……つまりは、ヒトラーはひとまずウンターメンシェ皆殺し作戦の実行を先送りにすることにした。とはいえ、今なおNSDAPのこの絶滅作戦はあまり悪し様に語られることはない。なぜか? 勝ったから、というのもあるにはあったが、彼が計画した絶滅作戦よりももっと具体的に、そして実際に実行している絶滅作戦が存在していたからだ、そう、大西洋の向こう側に。
戦後、ホロコーストの名で語られる日系人絶滅収容所の実際は、砂漠のど真ん中に収容所を建築していたことから理解できるとおり、それはNSDAPのガス室などよりもよほど強烈に人々の耳目に焼き付くこととなる。
戦後、ルーズベルト以下アメリカ合衆国閣僚が、否、民間人であるはずの新聞社員に至るまでことごとく処刑されたのは残念では無くむしろ当然と言うべき処遇であった。
「逃げるぞ、同志諸君! まだロシアには東がある!」
自称、「長征作戦」という名で行われた赤軍の東部地域への撤退行動――つまりは、ドイツ第三帝国から逃れるためのシベリアへの逃亡――によって、ソビエト連邦という名義のロシア地域は辛うじて存在していた。だが、ここでウラソフ将軍らの「ロシア諸民族解放委員会」の名義が効くこととなる。つまりは、共産主義に反発するロシア人にはドイツ占領下の状態とは言え、ロシア三州に残って共産主義者をロシアから放伐するという選択肢が存在したのだ。そして、ソビエト連邦は散々の悪政のツケを払う羽目になる……。
「…………」
飼い犬が怯える程度には機嫌の悪いその館の主は、その名誉のために記述するならば決して戦局が悪化したから機嫌が悪いのでは無かった。むしろ、彼がその館の主となってから戦局は悪化するまで傾いてはおらず、国民の名声としてはまずますの水準を保っていた。
では、なぜ彼は機嫌が悪かったのか。それは……。
「フューラー、機嫌はまだ収まりませんか……?」
「当たり前だ、折角スラブ民族を族滅する潮時だというのに……」
「(はぁ)……フューラー、ウンターメンシェ皆殺し作戦の実行は、外征が片付いてからでも遅くは御座いますまい」
「そうは言うがな……」
「……盟友の言葉にこんなのがございます。「外敵を滅ぼせれば、内政はいくらでもできる」」
「……そうなのか?」
「それなりに、理には適っていると思いますが」
「……ちっ」
「そんなことよりフューラー、現地の赤軍幹部の処刑方法でございますが……」
……彼はあくまでも、スラブ人を絶滅させる気だったのだ。とはいえ、まだ戦争は続いており、折角の無償労働力を可惜何の益も出さずに殺して回るのは純物理的にも効率の悪い行為であった。
そして、彼を懸命になだめている側近の努力の甲斐あって、彼……つまりは、ヒトラーはひとまずウンターメンシェ皆殺し作戦の実行を先送りにすることにした。とはいえ、今なおNSDAPのこの絶滅作戦はあまり悪し様に語られることはない。なぜか? 勝ったから、というのもあるにはあったが、彼が計画した絶滅作戦よりももっと具体的に、そして実際に実行している絶滅作戦が存在していたからだ、そう、大西洋の向こう側に。
戦後、ホロコーストの名で語られる日系人絶滅収容所の実際は、砂漠のど真ん中に収容所を建築していたことから理解できるとおり、それはNSDAPのガス室などよりもよほど強烈に人々の耳目に焼き付くこととなる。
戦後、ルーズベルト以下アメリカ合衆国閣僚が、否、民間人であるはずの新聞社員に至るまでことごとく処刑されたのは残念では無くむしろ当然と言うべき処遇であった。
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