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第二部序文:1942年2月~4月の大局

ロシア諸民族解放委員会

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 1941年6月に生起したバルバロッサ作戦の一環として行われたモスクワ攻囲戦、所謂タイフーン作戦によってソビエト連邦首府、すなわちモスクワは陥落した。だが、クレムリンが赤軍から解放されたからといって即座にそれがソビエト連邦の解散を意味するわけでは無かった。首魁ヨシフ・ジュガシヴィッリこそ逮捕し得たものの依然として赤軍派は健在であったし、なによりレンドリースを止めなければいつまでも連合軍の反撃は止まないだろう。だが、ここでドイツ軍参謀本部は大博打を打つことにした。結果的に、それは最適解であったのだが、これによりヒトラーはスラブ民族の絶滅を諦める羽目になる。その、「大博打」とは……。
「ウラソフ将軍にモスクワを防衛させるとは本当ですか、総司令官」
「如何にも、本当だが」
「マンシュタイン閣下ともあろうお方が、早耄碌召されたか」
「そう、見えるかね?」
「……見えはしませんが、危険な采配であると進言致します」
「承知の上だ。だが、見返りは大きい」
「それは、そうかもしれませんが……」
 どうやら、焦点になっているのはウラソフという名の将軍に解放したモスクワを防衛させるか否かということであったが、ではなぜそこまでそれが焦点になっているのか。それは、そのウラソフという将軍の出自が関係していた。そう、ウラソフ将軍の出自とは……。
「それでは、ロシア諸民族解放委員会にモスクワを防衛させる、ということでよろしいのですな!?」
「おう」
「危険な采配ですよ」
「そんなことは判っている。それに、これはあくまでも一時的な措置だ」
「……確かに、これで東部戦線の諸問題はある程度解決できましょうが……」
「奴さんが熱望するアシカを陸上に上げるために必要なことはまだあるぞ。何せアシカの相手はこっちと違って歴史がある。それこそ、クロムウェルの頃から続いているからな」
「空母さえあれば、な……」
「いや、空母の有無は問題とは言えません。問題は……」
「それ以上は言わないことだ、空軍を敵に回したくは無い」
 ……ウラソフ将軍と言われてもピンとこない人に詳しく説明すれば、「ロシア諸民族解放委員会委員長」という立場の、まあ要するにロシア人である。その、ロシア諸民族解放委員会にモスクワを防衛させる。確かに、危険な采配ではあった。だが、この采配は思わぬ福音を生むことになる……。
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