55 / 73
第二部序文:1942年2月~4月の大局
アメリカ合衆国の錯乱
しおりを挟む
1942年1月も下旬のことである。19日までの戦闘詳報……すなわち、第一次布哇沖海戦の「殲滅戦」を始め、シアトルにおいて行われたB-17の機体接収およびボーイング製造所の復旧の絶望化、更にはカリフォルニア州への進軍を伺う日本軍の司令偵察機による上空からの日系人絶滅収容所の撮影など、多種多様ないやがらせが発覚し、早くも西海岸に基盤を持つ政治家がルーズベルト弾劾裁判の要求を行っている有様であった。
何せ、日本軍を追い落とすための太平洋艦隊が文字通り追い落とされたのである、否、追い落とされたなんてレベルではない、太平洋艦隊はその全てが損傷しており、さらに言えば各地に散らばってしまっておりかき集めるのにも一苦労する有様であった。唯一の救いとしては、そのほぼ全てが旧式戦艦による被害であったためまだ溜飲も下がる状態であった(何せ、彼等はノースカロライナ級などの新鋭戦艦を現在建造中である)が、彼等も気づかないうちに深刻な被害は押し寄せていた。何せ、太平洋艦隊が所有する航空母艦はその全てが沈んでしまったのである。これは仮に敵が航空部隊で攻撃した場合、本土以外で防御ができないことを意味していた。
だが、それすらも実際のところ問題ではないほどの損害を合衆国は負うこととなる。もとより棍棒外交やドル外交、あるいは宣教師外交などで国際的名声などないに等しい合衆国であったが、ルーズベルトの陰謀とでもいうべき外交文書が公開されたことによって、合衆国の国際的名声は地底にまで潜ることとなる……。
以左は、大統領と海軍部長と陸軍部長の会話を記録したものである。
「それが、海戦の顛末かね」
「イエス・サー・プレジデント」
「……それで、敵に与えた被害は」
「……駆逐艦が四隻ほど撃沈させました」
「……他には!」
「航空機も、それなりには撃墜し得たかと」
「その! 対価が! これかね!」
「……だから、早すぎたと言っているんです!」
「なんだと!」
「せめて、ニューディール政策の可否が出るまで開戦は待つべきでした。それに、新型戦艦もまだ残存しております、勝負はこれからです!」
「そんな言い訳、誰が信じるかね!」
「しかしっ……!!」
「お二人とも、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるかね!」
「何、相手は持久戦になれば非常に困るはずです。それに……」
「それに!?」
「パナマ運河の復旧の目処が立ちました。1943年度末には間に合うでしょう」
「……今が、何年何月か解っているかね?」
「どんなに突貫工事を行ったとしても、二年はかかります。その二年の間に、敵軍を撤退させるように操ることが出来れば、勝てます」
「……その、勝算は!」
「……時間さえあれば、勝てます」
「……私には、その時間が無いのだがね……。これ以上西海岸に被害が及べば、私は合衆国で初めて弾劾裁判によって引きずり下ろされた汚名を背負いかねない!!」
「……ははっ」
……実際のところ、確かに時間さえかければ国力の都合上、勝つのは合衆国であろう。だが、その戦勝の時間を稼ぐまでの被害に彼等が耐え切れれば、という前提はつくのだが。
そして、早くもカリフォルニア州知事が悲鳴を上げ始めていた。無理からぬことだ、日系人絶滅収容所の撮影写真がばらまかれたことは何も人道的作戦だけではない、事実上カリフォルニア州の制空権を大日本帝国が握っていることが確定した瞬間であったからだ。
そして、大日本帝国は早くも「非道なる合衆国の絶滅収容所」というリアリィ・プロパガンダを作成、NSDAPの隔離収容所が今なお一方的に非難できないのも、合衆国が同じ事を日系人に対して行ったという証明が行われた結果、「お前が言うな」という非難が囂々と轟いたからである。
……大日本帝国にしては、珍しく手際の良いプロパガンダが行われたことに疑問符が付く読者の方がいらっしゃるかも知れないので、一応次の事実を記述しておく。……陸軍中野学校の設立は、開戦前に既に行われている。その事実を以て、一応の説明としておきたい。
何せ、日本軍を追い落とすための太平洋艦隊が文字通り追い落とされたのである、否、追い落とされたなんてレベルではない、太平洋艦隊はその全てが損傷しており、さらに言えば各地に散らばってしまっておりかき集めるのにも一苦労する有様であった。唯一の救いとしては、そのほぼ全てが旧式戦艦による被害であったためまだ溜飲も下がる状態であった(何せ、彼等はノースカロライナ級などの新鋭戦艦を現在建造中である)が、彼等も気づかないうちに深刻な被害は押し寄せていた。何せ、太平洋艦隊が所有する航空母艦はその全てが沈んでしまったのである。これは仮に敵が航空部隊で攻撃した場合、本土以外で防御ができないことを意味していた。
だが、それすらも実際のところ問題ではないほどの損害を合衆国は負うこととなる。もとより棍棒外交やドル外交、あるいは宣教師外交などで国際的名声などないに等しい合衆国であったが、ルーズベルトの陰謀とでもいうべき外交文書が公開されたことによって、合衆国の国際的名声は地底にまで潜ることとなる……。
以左は、大統領と海軍部長と陸軍部長の会話を記録したものである。
「それが、海戦の顛末かね」
「イエス・サー・プレジデント」
「……それで、敵に与えた被害は」
「……駆逐艦が四隻ほど撃沈させました」
「……他には!」
「航空機も、それなりには撃墜し得たかと」
「その! 対価が! これかね!」
「……だから、早すぎたと言っているんです!」
「なんだと!」
「せめて、ニューディール政策の可否が出るまで開戦は待つべきでした。それに、新型戦艦もまだ残存しております、勝負はこれからです!」
「そんな言い訳、誰が信じるかね!」
「しかしっ……!!」
「お二人とも、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるかね!」
「何、相手は持久戦になれば非常に困るはずです。それに……」
「それに!?」
「パナマ運河の復旧の目処が立ちました。1943年度末には間に合うでしょう」
「……今が、何年何月か解っているかね?」
「どんなに突貫工事を行ったとしても、二年はかかります。その二年の間に、敵軍を撤退させるように操ることが出来れば、勝てます」
「……その、勝算は!」
「……時間さえあれば、勝てます」
「……私には、その時間が無いのだがね……。これ以上西海岸に被害が及べば、私は合衆国で初めて弾劾裁判によって引きずり下ろされた汚名を背負いかねない!!」
「……ははっ」
……実際のところ、確かに時間さえかければ国力の都合上、勝つのは合衆国であろう。だが、その戦勝の時間を稼ぐまでの被害に彼等が耐え切れれば、という前提はつくのだが。
そして、早くもカリフォルニア州知事が悲鳴を上げ始めていた。無理からぬことだ、日系人絶滅収容所の撮影写真がばらまかれたことは何も人道的作戦だけではない、事実上カリフォルニア州の制空権を大日本帝国が握っていることが確定した瞬間であったからだ。
そして、大日本帝国は早くも「非道なる合衆国の絶滅収容所」というリアリィ・プロパガンダを作成、NSDAPの隔離収容所が今なお一方的に非難できないのも、合衆国が同じ事を日系人に対して行ったという証明が行われた結果、「お前が言うな」という非難が囂々と轟いたからである。
……大日本帝国にしては、珍しく手際の良いプロパガンダが行われたことに疑問符が付く読者の方がいらっしゃるかも知れないので、一応次の事実を記述しておく。……陸軍中野学校の設立は、開戦前に既に行われている。その事実を以て、一応の説明としておきたい。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
華研えねこ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる