50 / 73
第二分章:第一次布哇沖海戦
第一次布哇沖海戦(終)
しおりを挟む
「……敵は、去ったか?」
「ええ、どうにか勝利し得た模様です」
「そうか。……海難救助活動の後、布哇に帰還するぞ。敵味方は問うなよ」
「ははっ」
帝国海軍は、布哇の防衛に成功した。とはいえ、彼達も追撃を行えなかった現状を考慮した場合、決してそこまで楽観視できるわけではなかった。と、いうのも……。
その前に、まずは帝国海軍の喪失艦と、合衆国軍の残存艦を比較しておこう。
帝国海軍で真っ先に喪失艦となったのは霞であり、その次に東雲が喪失したことは既に触れたが、その後も海戦は一応続いており、最終的にその後駆逐艦を二隻喪失し他にも被害が多数存在していることもあって艦隊全体としては行動できるものの、ペンシルベニアをはじめとした殿軍の妨害もあって結果として太平洋艦隊殲滅の強要は失敗した。
だが、その与えた損害は非常に大きく合衆国軍にのしかかることとなる。なにせ、1月19日正午の段階で合衆国軍太平洋艦隊と言いうる存在はひいき目に見て半壊、はっきり言って合衆国の工業力を以てしても今後半年から一年は攻勢に出ることは不可能な程の損害であった。
何せ、サンディエゴからカナダまでの北アメリカ大陸西海岸に帰還した太平洋艦隊は大型のものはアリゾナとテネシーに過ぎず、参戦した巡洋艦の内生き残ったのはセントルイスだけであり、そのセントルイスも動くのが奇蹟と言える程の――ある意味、文字通りの「セイント」かもしれない、と生存者は語ったという――破損を受けており、駆逐艦も20隻前後存在したであろうに、帰還したのは5隻か6隻に過ぎず、皆大なり小なり破損して帰ってきたのだから!
誰がどう見ても、勝ったのがどちらであったのかは見ればわかるほどであった。
一方で、帝国海軍にも追撃戦を行えない理由が存在していた。一見、駆逐隊の一部や巡洋艦などに損害が出ただけであり追撃する余力があるように見えた。だが……。
「偶に撃つ、弾がないのが、玉に瑕」。布哇をはじめとした敵軍基地を短期間で占領したことによって石油タンクをはじめとした物資の備蓄は大幅に増えたものの、その過半――何せ、帝国軍が「接収」したものは大は石油タンクやブルドーザー、小は道路標識からネームプレートに至るまで、何から何まで布哇から「接収」して本土や戦略拠点に「輸送」を行っていた。
当然ながら、合衆国軍の機密文書などは既に解読して全世界にラジオで公表しており、外交的に大日本帝国を追い詰めて先に手を出させて正義の振りをしようとしている計画なども、公然のものとなっていた。
あるいは、その解読を行う前に布哇基地などを奪還すべく、合衆国は太平洋艦隊を動かしたのかも知れなかった。まあ無論、それは前述までの叙述を見れば判る通り、完全に失敗に終わったのだが。
帝国軍が太平洋艦隊に対して追撃戦を行えない理由の記述に戻ろう。布哇基地にせよ、舎路基地にせよ、帝国軍が既に合衆国本土と言いうる地域を占領することに成功したのは既に大局パートで述べた。では、そのまま太平洋を全て制海権に治めれば良いではないか、というのは銃後の素人が考えそうなことである。どんな砲門でも、そしてどんな航空機でも、輸送して前線に送り込む必要があるし、銃ですら型式が合わなければ発砲できないのに、砲弾などの類いにおいて型式を確認せずに砲撃を行うのは愚の骨頂である。……まあ、ここまで記述すればだいたい何が言いたいか理解して戴けるとは思うが……。……まあようするに、「ヤード・ポンド法滅ぶべし、慈悲はない」ということである。
何せ、布哇基地にせよ、舎路基地にせよ、アンカレッジなど多数の基地を占領したとはいえ、そこで使われている物資はネジ釘に至るまで全てヤード・ポンド法、つまりはインチねじやマイル基準の地図などが使用されていた。一応、海軍将校として名をはせた人物はヤード・ポンド法にも明るかったが、前線の陸戦隊員や歩卒などは、当然知るわけがない。よって、その齟齬が徐々に明るみに出ていった……。
とはいえ、物資の再利用が困難であり、砲弾に限りが有るというだけで太平洋艦隊をあらかたシバキ倒して東洋艦隊もほぼ壊滅状態にまで追い込んだという事実は、帝国首脳部に大きな光明を見いださせるに充分であった。速やかに講和会議を行うために大本営は停戦を打診した。まあ無論、大本営らしい手前勝手な条件であり、打診する前に外交官などは苦言を呈したのだが、そもそも相手が悪かった。講和会議の日付がルーズベルト弾劾裁判の後日であったことからも判る通り、相手は史上最悪の反日野郎である。あるいは、ヒューイ・ロングの方が最悪と言えるかも知れないが、彼は大統領になる前に暗殺されており、検証は不可能に近い。そして、ルーズベルト弾劾裁判の結果被告人、つまりはフランクリン・ルーズベルトが憤死して裁判が被告人死去による不起訴になるまで続いたこの未曾有の戦役は、まだまだ続く……。
「ええ、どうにか勝利し得た模様です」
「そうか。……海難救助活動の後、布哇に帰還するぞ。敵味方は問うなよ」
「ははっ」
帝国海軍は、布哇の防衛に成功した。とはいえ、彼達も追撃を行えなかった現状を考慮した場合、決してそこまで楽観視できるわけではなかった。と、いうのも……。
その前に、まずは帝国海軍の喪失艦と、合衆国軍の残存艦を比較しておこう。
帝国海軍で真っ先に喪失艦となったのは霞であり、その次に東雲が喪失したことは既に触れたが、その後も海戦は一応続いており、最終的にその後駆逐艦を二隻喪失し他にも被害が多数存在していることもあって艦隊全体としては行動できるものの、ペンシルベニアをはじめとした殿軍の妨害もあって結果として太平洋艦隊殲滅の強要は失敗した。
だが、その与えた損害は非常に大きく合衆国軍にのしかかることとなる。なにせ、1月19日正午の段階で合衆国軍太平洋艦隊と言いうる存在はひいき目に見て半壊、はっきり言って合衆国の工業力を以てしても今後半年から一年は攻勢に出ることは不可能な程の損害であった。
何せ、サンディエゴからカナダまでの北アメリカ大陸西海岸に帰還した太平洋艦隊は大型のものはアリゾナとテネシーに過ぎず、参戦した巡洋艦の内生き残ったのはセントルイスだけであり、そのセントルイスも動くのが奇蹟と言える程の――ある意味、文字通りの「セイント」かもしれない、と生存者は語ったという――破損を受けており、駆逐艦も20隻前後存在したであろうに、帰還したのは5隻か6隻に過ぎず、皆大なり小なり破損して帰ってきたのだから!
誰がどう見ても、勝ったのがどちらであったのかは見ればわかるほどであった。
一方で、帝国海軍にも追撃戦を行えない理由が存在していた。一見、駆逐隊の一部や巡洋艦などに損害が出ただけであり追撃する余力があるように見えた。だが……。
「偶に撃つ、弾がないのが、玉に瑕」。布哇をはじめとした敵軍基地を短期間で占領したことによって石油タンクをはじめとした物資の備蓄は大幅に増えたものの、その過半――何せ、帝国軍が「接収」したものは大は石油タンクやブルドーザー、小は道路標識からネームプレートに至るまで、何から何まで布哇から「接収」して本土や戦略拠点に「輸送」を行っていた。
当然ながら、合衆国軍の機密文書などは既に解読して全世界にラジオで公表しており、外交的に大日本帝国を追い詰めて先に手を出させて正義の振りをしようとしている計画なども、公然のものとなっていた。
あるいは、その解読を行う前に布哇基地などを奪還すべく、合衆国は太平洋艦隊を動かしたのかも知れなかった。まあ無論、それは前述までの叙述を見れば判る通り、完全に失敗に終わったのだが。
帝国軍が太平洋艦隊に対して追撃戦を行えない理由の記述に戻ろう。布哇基地にせよ、舎路基地にせよ、帝国軍が既に合衆国本土と言いうる地域を占領することに成功したのは既に大局パートで述べた。では、そのまま太平洋を全て制海権に治めれば良いではないか、というのは銃後の素人が考えそうなことである。どんな砲門でも、そしてどんな航空機でも、輸送して前線に送り込む必要があるし、銃ですら型式が合わなければ発砲できないのに、砲弾などの類いにおいて型式を確認せずに砲撃を行うのは愚の骨頂である。……まあ、ここまで記述すればだいたい何が言いたいか理解して戴けるとは思うが……。……まあようするに、「ヤード・ポンド法滅ぶべし、慈悲はない」ということである。
何せ、布哇基地にせよ、舎路基地にせよ、アンカレッジなど多数の基地を占領したとはいえ、そこで使われている物資はネジ釘に至るまで全てヤード・ポンド法、つまりはインチねじやマイル基準の地図などが使用されていた。一応、海軍将校として名をはせた人物はヤード・ポンド法にも明るかったが、前線の陸戦隊員や歩卒などは、当然知るわけがない。よって、その齟齬が徐々に明るみに出ていった……。
とはいえ、物資の再利用が困難であり、砲弾に限りが有るというだけで太平洋艦隊をあらかたシバキ倒して東洋艦隊もほぼ壊滅状態にまで追い込んだという事実は、帝国首脳部に大きな光明を見いださせるに充分であった。速やかに講和会議を行うために大本営は停戦を打診した。まあ無論、大本営らしい手前勝手な条件であり、打診する前に外交官などは苦言を呈したのだが、そもそも相手が悪かった。講和会議の日付がルーズベルト弾劾裁判の後日であったことからも判る通り、相手は史上最悪の反日野郎である。あるいは、ヒューイ・ロングの方が最悪と言えるかも知れないが、彼は大統領になる前に暗殺されており、検証は不可能に近い。そして、ルーズベルト弾劾裁判の結果被告人、つまりはフランクリン・ルーズベルトが憤死して裁判が被告人死去による不起訴になるまで続いたこの未曾有の戦役は、まだまだ続く……。
10
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
真田幸村の女たち
沙羅双樹
歴史・時代
六文銭、十勇士、日本一のつわもの……そうした言葉で有名な真田幸村ですが、幸村には正室の竹林院を始め、側室や娘など、何人もの女性がいて、いつも幸村を陰ながら支えていました。この話では、そうした女性たちにスポットを当てて、語っていきたいと思います。
なお、このお話はカクヨムで連載している「大坂燃ゆ~幸村を支えし女たち~」を大幅に加筆訂正して、読みやすくしたものです。
江戸時代改装計画
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる