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第二分章:第一次布哇沖海戦

第一次布哇沖海戦(七)

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 1月19日に太平洋艦隊の空母部隊を全滅せしめた「第一次布哇沖海戦」の要諦は、言ってしまえば殲滅戦の強要であった。近代戦で兵力が均衡している状態にもかかわらず一方的な殲滅戦が発生することは希であるが、それは発生した。
 まず、1月16日に発生した潜水艦による攻撃は、あくまで牽制に過ぎず、さらに言えば敵艦隊の位置をつかむことが目的であって攻撃までは考えられていなかった。まあここで、攻撃を行った結果合衆国軍太平洋艦隊は緊張を強いられたのだが、それはどうでも良い。
 ここで、敵艦隊の位置と全容をつかむことによって、作戦内容は変わったのだが、今回は太平洋艦隊に空母が存在したので一航艦が前衛に立つことになった。
 そして、1月16日中に一航艦をはじめとした艦隊が避難した後に司令部要員と僅かな護衛と、避難誘導員だけ残った布哇基地に殺到したのが、概ね午前六時前くらいであった。この時、碌な抵抗がなかったのをマクラスキーは疑問に思ったが、それも当然でこの当時布哇は単なる囮にしかなっていなかった。当然ながら、飛行場に並べられた航空機も多くはただのハリボテだったり、ハリボテだけではバレるからと旧式機を置いているに過ぎなかった。無論、搭乗員は疾うの昔に一航艦や避難基地などに避難しており、ただのもぬけの殻に過ぎなかった。
 そして、合衆国軍太平洋艦隊の航空隊員に「想定通り」損害がないことを確認した長谷川は一航艦に攻撃命令と共に、その全貌を指示、敵の航空母艦の「損傷」および護衛艦の「撃沈」を狙えと指示があったのはこの時である。一航艦の司令部では、若干の紛糾があったものの、司令官である人物がそれを合理的と判断したこともあって、怠りなく命令は上意下達となった。
 そして、想定通り一回目の一航艦の総攻撃は太平洋艦隊の空母部隊のほぼ全てを損壊させ、さらに多数の護衛艦を撃沈した。空母二隻は、辛うじて轟沈は免れ、それどころか風向きや風速によっては航空隊の指揮もまだ可能なほどであったのだが、深刻なほど速力が低迷しており、退却するにせよ再攻撃を仕掛けるにせよ、今までの2~3倍の時間は必要であった。
 一方の一航艦をはじめとした避難した艦艇は布哇に帰還しており、作戦の結果とその骨子をようやく知ることとなる……。
「……以上が、作戦の全容と結果だ。何か、質問はあるかね」
 長谷川が下した不可解な命令の全てを知った幕僚や航空隊員達は、憮然とした。それほどまでに、この作戦の全容は驚愕に値するものであったからだ。
「……長官、畏れながら……」
「なんだね」
 まず最初に質問したのは、一航艦のある参謀であった。後年毀誉褒貶の激しい彼であったが、間違いなく彼は有能であった。また同時に、傲岸な人物として知られていたが、流石に連合艦隊司令長官直々の説明会に気後れしていたのか、とはいえ、将校の中でも中堅程度に過ぎない彼が口火を切る時点で傲岸という評判が間違ってはいなかったのだが、かなりの低い姿勢で長官に対して一つ目の質問を行った。
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