御稜威の光  =天地に響け、無辜の咆吼=

華研えねこ

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第二分章:第一次布哇沖海戦

第一次布哇沖海戦(四)

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「敵の対潜警戒は蒔いたようですね」
 一方、海中では。
「ああ、だがこれからが本番だ。もはや電池が乏しい、どこかで浮上する必要があるが……」
 ……なんと、先ほど攻撃を受けた潜水艦は、轟沈していなかった。彼達は、あらかじめ仕込んでいた魚雷を模したカプセル……中身としては不要になったあまり布などのゴミの類いや、さらには重油に見えるように調合した液体――「見える」だけで良いので極論、泥水などでも構わなかった――まで浮かび上がらせるための、いわば攻撃を受けた際に轟沈を偽装するための魚雷管から発射できる非常用の仕掛けを使って合衆国軍太平洋艦隊を翻弄した!やけに、合衆国軍の交戦記録で「敵の潜水艦を撃沈した」という誤報が妙に多いのはそれが原因であった。後に「敵の潜水艦」自体が誤報として処理される程度に多発するそのギミックは、合衆国海軍の技量が低いこともあいまって、非常に効果的に翻弄できていた。特に、戦争序盤においては。
 とはいえ、彼達の電池、すなわち潜水艦を海中で動かすための電力残量が心許ない量になっているのは事実であり、一度どこかで浮上させて電力を回復せねば、動くこともままならず、本当に「沈没」する可能性も強まっていた。
「布哇まで逃げるは難しいですな、いっそのこと近場である舎路シアトルまで逃げますか」
「……そういえば、舎路はまだ占領を維持していたな、そうするか」
「それでは、速力全開!」
 ……ちなみに、今回攻撃を受けてなおその攻撃陣から脱出した潜水艦、後に潜水艦の中では最大の武勲を遂げることに成功するのだが、それを知っている者はまだ、誰も居ない……。

 布哇、真珠湾にて、戦争前までは太平洋艦隊司令長官が座乗している海軍基地に長谷川清達連合艦隊司令部は存在していた。その感度の良い無線機より情報が入った。さきほどの潜水艦から一航艦に向けて発信された敵艦隊の位置である。
「司令長官、敵艦隊の情報をつかみました。本布哇島よりどうやら東北東より攻め込む模様です」
 司令部に緊張が走る。だが、長谷川は茶をすすった後にここでの直属の部下、連合艦隊の先任参謀に対しておっとりとした声で一航艦の出撃命令をまだ出さない旨を発言した。
「うむ、そうか。……一航艦の出撃は今ひとつ待て」
「は、……なるほど」
「おう、理解したか」
 その、とびきり頭の良い先任参謀は眼前の上司、長谷川がなぜおっとりとしているのか、そして一航艦の出撃を待つように下令したのかを素早く理解した。その態度と下令内容は一見戦闘前のものにしては不似合いだが、合理的ではあった。
「はい、……かわいそうですが、島民は避難させる必要が御座いますな」
「そうだな、とはいえ安全のためだ」
「ははっ」
 そして、敵艦隊の航空隊が布哇諸島の情報網に絡みついたのは、1月17日の黎明近き頃合いであった。まだ人によっては眠っている時間帯に侵入した航空隊員は、敵の航空機がまだ飛行場にあるのを確認して奇襲の成功を確信した。……だが。
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