40 / 73
第二分章:第一次布哇沖海戦
第一次布哇沖海戦(四)
しおりを挟む
「敵の対潜警戒は蒔いたようですね」
一方、海中では。
「ああ、だがこれからが本番だ。もはや電池が乏しい、どこかで浮上する必要があるが……」
……なんと、先ほど攻撃を受けた潜水艦は、轟沈していなかった。彼達は、あらかじめ仕込んでいた魚雷を模したカプセル……中身としては不要になったあまり布などのゴミの類いや、さらには重油に見えるように調合した液体――「見える」だけで良いので極論、泥水などでも構わなかった――まで浮かび上がらせるための、いわば攻撃を受けた際に轟沈を偽装するための魚雷管から発射できる非常用の仕掛けを使って合衆国軍太平洋艦隊を翻弄した!やけに、合衆国軍の交戦記録で「敵の潜水艦を撃沈した」という誤報が妙に多いのはそれが原因であった。後に「敵の潜水艦」自体が誤報として処理される程度に多発するそのギミックは、合衆国海軍の技量が低いこともあいまって、非常に効果的に翻弄できていた。特に、戦争序盤においては。
とはいえ、彼達の電池、すなわち潜水艦を海中で動かすための電力残量が心許ない量になっているのは事実であり、一度どこかで浮上させて電力を回復せねば、動くこともままならず、本当に「沈没」する可能性も強まっていた。
「布哇まで逃げるは難しいですな、いっそのこと近場である舎路まで逃げますか」
「……そういえば、舎路はまだ占領を維持していたな、そうするか」
「それでは、速力全開!」
……ちなみに、今回攻撃を受けてなおその攻撃陣から脱出した潜水艦、後に潜水艦の中では最大の武勲を遂げることに成功するのだが、それを知っている者はまだ、誰も居ない……。
布哇、真珠湾にて、戦争前までは太平洋艦隊司令長官が座乗している海軍基地に長谷川清達連合艦隊司令部は存在していた。その感度の良い無線機より情報が入った。さきほどの潜水艦から一航艦に向けて発信された敵艦隊の位置である。
「司令長官、敵艦隊の情報をつかみました。本布哇島よりどうやら東北東より攻め込む模様です」
司令部に緊張が走る。だが、長谷川は茶をすすった後にここでの直属の部下、連合艦隊の先任参謀に対しておっとりとした声で一航艦の出撃命令をまだ出さない旨を発言した。
「うむ、そうか。……一航艦の出撃は今ひとつ待て」
「は、……なるほど」
「おう、理解したか」
その、とびきり頭の良い先任参謀は眼前の上司、長谷川がなぜおっとりとしているのか、そして一航艦の出撃を待つように下令したのかを素早く理解した。その態度と下令内容は一見戦闘前のものにしては不似合いだが、合理的ではあった。
「はい、……かわいそうですが、島民は避難させる必要が御座いますな」
「そうだな、とはいえ安全のためだ」
「ははっ」
そして、敵艦隊の航空隊が布哇諸島の情報網に絡みついたのは、1月17日の黎明近き頃合いであった。まだ人によっては眠っている時間帯に侵入した航空隊員は、敵の航空機がまだ飛行場にあるのを確認して奇襲の成功を確信した。……だが。
一方、海中では。
「ああ、だがこれからが本番だ。もはや電池が乏しい、どこかで浮上する必要があるが……」
……なんと、先ほど攻撃を受けた潜水艦は、轟沈していなかった。彼達は、あらかじめ仕込んでいた魚雷を模したカプセル……中身としては不要になったあまり布などのゴミの類いや、さらには重油に見えるように調合した液体――「見える」だけで良いので極論、泥水などでも構わなかった――まで浮かび上がらせるための、いわば攻撃を受けた際に轟沈を偽装するための魚雷管から発射できる非常用の仕掛けを使って合衆国軍太平洋艦隊を翻弄した!やけに、合衆国軍の交戦記録で「敵の潜水艦を撃沈した」という誤報が妙に多いのはそれが原因であった。後に「敵の潜水艦」自体が誤報として処理される程度に多発するそのギミックは、合衆国海軍の技量が低いこともあいまって、非常に効果的に翻弄できていた。特に、戦争序盤においては。
とはいえ、彼達の電池、すなわち潜水艦を海中で動かすための電力残量が心許ない量になっているのは事実であり、一度どこかで浮上させて電力を回復せねば、動くこともままならず、本当に「沈没」する可能性も強まっていた。
「布哇まで逃げるは難しいですな、いっそのこと近場である舎路まで逃げますか」
「……そういえば、舎路はまだ占領を維持していたな、そうするか」
「それでは、速力全開!」
……ちなみに、今回攻撃を受けてなおその攻撃陣から脱出した潜水艦、後に潜水艦の中では最大の武勲を遂げることに成功するのだが、それを知っている者はまだ、誰も居ない……。
布哇、真珠湾にて、戦争前までは太平洋艦隊司令長官が座乗している海軍基地に長谷川清達連合艦隊司令部は存在していた。その感度の良い無線機より情報が入った。さきほどの潜水艦から一航艦に向けて発信された敵艦隊の位置である。
「司令長官、敵艦隊の情報をつかみました。本布哇島よりどうやら東北東より攻め込む模様です」
司令部に緊張が走る。だが、長谷川は茶をすすった後にここでの直属の部下、連合艦隊の先任参謀に対しておっとりとした声で一航艦の出撃命令をまだ出さない旨を発言した。
「うむ、そうか。……一航艦の出撃は今ひとつ待て」
「は、……なるほど」
「おう、理解したか」
その、とびきり頭の良い先任参謀は眼前の上司、長谷川がなぜおっとりとしているのか、そして一航艦の出撃を待つように下令したのかを素早く理解した。その態度と下令内容は一見戦闘前のものにしては不似合いだが、合理的ではあった。
「はい、……かわいそうですが、島民は避難させる必要が御座いますな」
「そうだな、とはいえ安全のためだ」
「ははっ」
そして、敵艦隊の航空隊が布哇諸島の情報網に絡みついたのは、1月17日の黎明近き頃合いであった。まだ人によっては眠っている時間帯に侵入した航空隊員は、敵の航空機がまだ飛行場にあるのを確認して奇襲の成功を確信した。……だが。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
華研えねこ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
江戸時代改装計画
華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる