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第二分章:第一次布哇沖海戦

第一次布哇沖海戦(参)

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 1月16日、伊8達の雷撃によって早速喪失艦を出した太平洋艦隊は警戒レベルを上げた結果さらに艦隊速度が低下し、付近に潜水艦部隊がもう存在しないにもかかわらず対潜警戒を継続した結果徐々に空母部隊と戦艦部隊の距離が離れ始めていた。まあ尤も、この当時空母の戦力的価値はまだ未知数とされていたため前衛として使うのは常識で考えた場合当たり前ではあるのだが、結果的にその配置を使った結果合衆国軍太平洋艦隊は一朝一夕では回復できようのない損害を受けることになる。とはいえ、彼らを責めるのは酷だろう、何せ長駆アクタン島から艦隊を守るための航空機まで飛ばした厳重警戒を行っていたわけで、この時点では彼らなりの努力はしていたことがうかがえる。そして、その努力は一応実ることとなる……。

「敵の潜水艦を発見!」
「案の定か! ……沈められるか?」
「やってみます!」
 1月16日も正午を大きく過ぎた薄暮の頃、敵の潜水艦を発見したと判断した彼らはカタリナ飛行艇に警戒態勢を維持させた後に駆逐艦を前に出し爆雷を次々に投下した。そして、布切れや重油が浮かび上がってきた。轟沈の証だ。
「やりました! 敵の潜水艦を撃沈できました!」
「そうか! よくやった、これでようやく安心して航行できる」
「はい!」
 1月16日未明の急襲よりピリピリしていた空気はようやく緩和の兆しを見せた。だが、その直後である。
「!!」
「なんだ、さっきの轟音は」
「見てきます!」
 急いで艦橋から下級将校の一人が飛び出した、そして、その発見報告を知る前に艦橋に見張員が飛び込んできた。
「どうした、さっきの轟音か」
「アリゾナが被害を受けました! 轟沈はしていませんが、速度が低下しております!」
「ちっ……、TBSをつなげ!」
「ははっ!」

<!-- ムセンノカイワ -->
空母部隊司令官
「此方空母部隊司令官、本隊の司令官につながれたし!」
本隊(=戦艦部隊)司令官
「私だ、……残念だが、アリゾナ以外にも被害を受けた、本隊は一部をバンクーバーかダッチハーバーに撤退させる、空母部隊は先行しておいてくれ」
空母部隊司令官
「それは構わないが、大丈夫なのか?」
本隊司令官
「仕方ないだろう、負傷した主力艦を置き去りにするわけにもいかん。幸いにして、まだ出発したばかりだから味方の基地も近い。護衛は少なくても大丈夫だろう」
空母部隊司令官
「……わかった、幸運を祈らせて貰う」
本隊司令官
「おう」
<!-- ムセンノカイワ -->

「いかがでしたか」
 TBS担当の従卒がおそるおそる司令官に訊ねる。それに対して司令官は努めて表情を和らげ、先ほどの会話を話した。
「……本隊は遅れて向かうそうだ。やむを得ないとはいえ、俺達は単独でハワイを奪還する必要が出てきた」
「と、なると……」
「空母の数こそ半分だが、地の利はこちらにある。なにせ、ハワイはついこの前まで俺達が停泊していたわけだからな。損害覚悟でぶつかれば勝てるはずだ、怯むな!」
「は……」
『ははっ!!』
 必死で司令部要員を鼓舞する空母部隊司令官、とはいえ、彼も若干の不安は抱えていた。空母の数が倍だからか? それもある。防空巡洋艦が欠損したから? それもある。だが、彼が本心から不安に思っていた要素、それは……。
「まだ、病気は治っていないようだな……」
 本隊の司令官、すなわちハワイ奪還を標榜する艦隊の最高指揮官である人物は現在、何らかの病気で寝込んでいた。先ほどのTBS――何度か出てきたが、要するに艦艇同士の通話のための無線装置である――には辛うじて応対していたものの、その声に覇気は無く、先ほどの攻撃にも逃げられないほどの体力しか存在していない状態だった。一応、副官である人物は有能であり、また最高指揮官も普段は海軍将校には必須といえる「決断力」に富む(但し、彼の場合は「良くも悪くも」と付く)人物なのだが、病気の所為か、あるいは抜錨早々に被害を次々に受けて弱気になっていたのか、いつもの強気な態度が嘘であるかのように弱々しいものであった。それが、空母部隊司令官最大の不安であった。
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