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第二分章:第一次布哇沖海戦
第一次布哇沖海戦(弐)
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1月19日が一応は、第一次布哇沖海戦の日付であるのだが、実はそれはあまり正確ではない。1月19日が海戦の日付として記録されているのは、その日がエンタープライズとサラトガをはじめとした合衆国軍太平洋艦隊の主力艦の過半を概ね撃沈ないしは撃破できた日だからであって、全体の海戦の詳報を閲覧する環境に居られる者は、また違った感想を抱くかも知れない。と、いうのも……。
まず、合衆国軍太平洋艦隊を発見したのは伊8を旗艦とした潜水艦で構成された偵察部隊であった。はるかダッチハーバー近海まで出張っていた彼女は、速やかにそれを布哇近海に駐屯している赤城、加賀、蒼龍、飛龍を主力とする第一航空艦隊に連絡する(この当時、五航戦は別任務で近海に不在であった)や、続けざまに雷撃をし、反撃を受ける前に遁走した。1月16日未明のことである。一見魚雷の無駄遣いに思えるこの行動だが、思わぬ福音を以て大日本帝国に勝機をもたらすこととなる……。
まず、伊8達潜水艦で構成された合衆国海軍監視部隊がさきほど放った魚雷が命中したのは、輪形陣の比較的外側に位置するアトランタやサンファンなどの防空巡洋艦の類いであった。防空巡洋艦はその存在意義として、防空任務を司る。何を当たり前な、と言われそうであるが、防空を行う際に最も効率の良い方法はたくさんの弾薬を飛行機の航空する領域に叩き込むことである。いわゆる弾幕射撃であるが、それを行うには、大量の弾薬を必要とする。……もう、何が起こったのか理解できた方も多いだろう、伊8をはじめとしたその方面を見張る潜水艦部隊が送り狼のごとく放った酸素魚雷は、防空巡洋艦のさして分厚くない装甲――何せ、防空巡洋艦の過半は軽巡洋艦レベルに過ぎない――を食い破り、信管が作動し……まあ要するに爆発した。防空巡洋艦に大量に存在する弾薬に火炎という形で高熱を送り込みながら。
防空巡洋艦が魚雷による攻撃を受けた後、弾薬庫に着火して大爆発を起こした際に、ターレット、すなわち回転式の砲塔など、が吹っ飛び、盛大に、そして空中で四散しながら、そこに存在していた乗組員諸共に最期の断末魔を叫んで盛大に爆沈したのはあまりにも有名である。ある種、防空巡洋艦というものに合衆国軍が疑念を抱いたのはこれが契機かもしれなかった。……まあ尤も、合衆国軍という存在は今現在では海軍や空軍の所有を禁じられた州兵のことを指すわけであり、連邦政府というものが解体されたことからも判る通りもはや歴史上の記述になってしまったわけだが。
そして、彼らは急いで犯人捜しをはじめたのだが、当然のように雷撃を行った潜水艦、つまりは伊8号などの部隊は既に周辺海域より逃げ散っており、さらに言えば周辺海域を警戒しようにもこの当時の電波技術――潜水艦に対応するのはレーダーではなくソナーという機械(同じ仕組みの機械をイギリスでは「アズデック」というが、同じものである)が担当するのだが、電波を扱って索敵するという意味では同じなので電波技術として記載する――はこの当時、合衆国軍と言えども決して高いものではない。目視によるものなど、帝国軍と違い夜間訓練を積んでいない彼らに期待する方が無駄である。その関係上、ようやく彼らが敵潜水艦による襲撃から安全を確保したと断定できた頃には、もはや何もかもが手遅れとなっていた……。
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防空巡洋艦が魚雷による攻撃を受けた後、弾薬庫に着火して大爆発を起こした際に、ターレット、すなわち回転式の砲塔など、が吹っ飛び、盛大に、そして空中で四散しながら、そこに存在していた乗組員諸共に最期の断末魔を叫んで盛大に爆沈したのはあまりにも有名である。ある種、防空巡洋艦というものに合衆国軍が疑念を抱いたのはこれが契機かもしれなかった。……まあ尤も、合衆国軍という存在は今現在では海軍や空軍の所有を禁じられた州兵のことを指すわけであり、連邦政府というものが解体されたことからも判る通りもはや歴史上の記述になってしまったわけだが。
そして、彼らは急いで犯人捜しをはじめたのだが、当然のように雷撃を行った潜水艦、つまりは伊8号などの部隊は既に周辺海域より逃げ散っており、さらに言えば周辺海域を警戒しようにもこの当時の電波技術――潜水艦に対応するのはレーダーではなくソナーという機械(同じ仕組みの機械をイギリスでは「アズデック」というが、同じものである)が担当するのだが、電波を扱って索敵するという意味では同じなので電波技術として記載する――はこの当時、合衆国軍と言えども決して高いものではない。目視によるものなど、帝国軍と違い夜間訓練を積んでいない彼らに期待する方が無駄である。その関係上、ようやく彼らが敵潜水艦による襲撃から安全を確保したと断定できた頃には、もはや何もかもが手遅れとなっていた……。
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