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第二分章:第一次布哇沖海戦
第一次布哇沖海戦(壱)
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1942年1月、大陸打通鉄道計画が発動したことはすでに述べた。そして、それに対してあらぬ被害妄想を発症した合衆国政府は、太平洋艦隊に檄を飛ばしハワイ「奪還」を下命した。だが、太平洋艦隊はその結果壊滅的打撃を蒙ることとなる……。
1942年1月15日よりカナダはバンクーバー島を出発した合衆国軍太平洋艦隊はその初動からケチがつきはじめていた。なにせ、本来の出港日時である1月10日、その日はインド洋での海戦の詳報が合衆国まで伝わった日時であった、に出発しようとしていたのだが、機関の不調によって2・3日、さらに天候不順から2・3日ほど延期となっており、その時点で彼らはよからぬ予感がとぐろを巻き始めていた……。
そして、1月15日の夕刻にようやくといったていで機関の整備が終わり、バンクーバー島を最後の1隻が離れた際に、司令官が何らかの病気で倒れ伏しており、副官が代理で指揮を執っている有様であった。
思えば、この時から既に合衆国軍太平洋艦隊は天から「行くな」と言われていたのかもしれない……。
まず、合衆国軍太平洋艦隊に届いた最初の凶報は大西洋艦隊から回航してきたはずの空母が全てお釈迦になったというものであった。パナマ運河が破壊されていたのではるか南米の海峡から回航せざるを得ず、どうにかホーン岬までは回航できたものの、まず轟沈したのはワスプであった。伊19の雷撃によってホーン岬を出てすぐに轟沈した。折悪しく、冬である上に南極海にほど近かったこともあってパイロットを始め乗組員のほぼ全てが凍死ないしは溺死、おいしいおいしい魚の餌となった。
だが、合衆国大西洋艦隊から送られてきた空母はワスプだけではなかった。あるいは、結果論から言えば大西洋艦隊で航空母艦を温存しておくべきだったのかも知れない。ワスプ轟沈の一報を太平洋艦隊司令部が聞く頃には、既にヨークタウンもこの世に浮かぶ軍艦ではなく、水面に横たわる魚礁と化していた……。
ヨークタウンを轟沈したのは、伊168とも伊58とも言われていたが、一応後の調査で伊168であると判明している。ホーン岬でワスプの轟沈を見たヨークタウンは対潜警戒を行うも、時既に遅く潜水艦は魚雷を発射して遁走した後であった。そして運悪くヨークタウンは弾薬庫付近に魚雷が命中、ワスプのようにほぼ全ての乗組員が水死することは無かったものの、キノコ雲数歩手前級の大爆発を遂げた後に周囲に鉄片と重油をまき散らし、火災と共に轟沈したと言われている。こちらも、生存者はいなかった。
一番悲惨な目に遭ったのは、ひょっとしたらホーネットかもしれない。ホーネットはなんと、パナマ運河攻撃艦隊、という名の飛行艇母艦が整備している飛行艇、恐らく年代的に二式大艇ではなく九七式飛行艇であろう、によって撃沈させられた。なぜ、僚艦にして生存者が全くいないという意味で同等の目に遭ったワスプやヨークタウンよりも同じく生存者がいないホーネットの方がより悲惨であると言えるのか。悲惨さで言えば同じではないのか。ホーネットの最期が悲惨だと言えるわけは、飛行艇による空襲であることが関係している。
飛行艇というものは、想像の通り非常に図体がでかく、更にはその図体の関係上鈍重である。ゆえに、本来ならば空母を撃沈できるような存在ではない。だが、彼達飛行艇乗組員は非常な努力を以て、パナマ運河攻撃の後の武装もそんなに無いであろう状態にもかかわらずホーネットを撃沈した。悲惨なのは、言ってしまえばホーネットの轟沈は「パナマ運河攻撃」の帰りについでとばかりに当たればラッキー程度の、本来ならば杜撰と言っても良い、機会を得ただけの攻撃をされたことである。すなわち、飛行艇の乗組員は戦果確認よりも生存帰還を優先したことにより、轟沈したホーネットの乗組員は誰も、どこにも周囲に人影がないまま(何せ、まわりはすべて大海原しかない状態である)、じわじわとサメに食われる恐怖を体験しつつ一人、また一人と力尽き、全滅したのである。ある意味、人工的な火砕流に飲み込まれ瞬時に死したヨークタウンや、土左衛門となった死体とはいえ体温低下によって意識を失った結果あまり痛みを感じずに死んだワスプなどよりも、ホーネットの乗組員はじわじわと死んでいったという意味でよほど悲惨であったと言えるかもしれない。
そして、彼ら合衆国軍太平洋艦隊はその一報を聞いて憤激したものの、彼らの鬼籍に入る命日はその憤激の原因であるワスプ、ヨークタウン、ホーネットの乗組員とさして変わらぬレベルに過ぎないことを知る由も、なかった……。
1942年1月15日よりカナダはバンクーバー島を出発した合衆国軍太平洋艦隊はその初動からケチがつきはじめていた。なにせ、本来の出港日時である1月10日、その日はインド洋での海戦の詳報が合衆国まで伝わった日時であった、に出発しようとしていたのだが、機関の不調によって2・3日、さらに天候不順から2・3日ほど延期となっており、その時点で彼らはよからぬ予感がとぐろを巻き始めていた……。
そして、1月15日の夕刻にようやくといったていで機関の整備が終わり、バンクーバー島を最後の1隻が離れた際に、司令官が何らかの病気で倒れ伏しており、副官が代理で指揮を執っている有様であった。
思えば、この時から既に合衆国軍太平洋艦隊は天から「行くな」と言われていたのかもしれない……。
まず、合衆国軍太平洋艦隊に届いた最初の凶報は大西洋艦隊から回航してきたはずの空母が全てお釈迦になったというものであった。パナマ運河が破壊されていたのではるか南米の海峡から回航せざるを得ず、どうにかホーン岬までは回航できたものの、まず轟沈したのはワスプであった。伊19の雷撃によってホーン岬を出てすぐに轟沈した。折悪しく、冬である上に南極海にほど近かったこともあってパイロットを始め乗組員のほぼ全てが凍死ないしは溺死、おいしいおいしい魚の餌となった。
だが、合衆国大西洋艦隊から送られてきた空母はワスプだけではなかった。あるいは、結果論から言えば大西洋艦隊で航空母艦を温存しておくべきだったのかも知れない。ワスプ轟沈の一報を太平洋艦隊司令部が聞く頃には、既にヨークタウンもこの世に浮かぶ軍艦ではなく、水面に横たわる魚礁と化していた……。
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一番悲惨な目に遭ったのは、ひょっとしたらホーネットかもしれない。ホーネットはなんと、パナマ運河攻撃艦隊、という名の飛行艇母艦が整備している飛行艇、恐らく年代的に二式大艇ではなく九七式飛行艇であろう、によって撃沈させられた。なぜ、僚艦にして生存者が全くいないという意味で同等の目に遭ったワスプやヨークタウンよりも同じく生存者がいないホーネットの方がより悲惨であると言えるのか。悲惨さで言えば同じではないのか。ホーネットの最期が悲惨だと言えるわけは、飛行艇による空襲であることが関係している。
飛行艇というものは、想像の通り非常に図体がでかく、更にはその図体の関係上鈍重である。ゆえに、本来ならば空母を撃沈できるような存在ではない。だが、彼達飛行艇乗組員は非常な努力を以て、パナマ運河攻撃の後の武装もそんなに無いであろう状態にもかかわらずホーネットを撃沈した。悲惨なのは、言ってしまえばホーネットの轟沈は「パナマ運河攻撃」の帰りについでとばかりに当たればラッキー程度の、本来ならば杜撰と言っても良い、機会を得ただけの攻撃をされたことである。すなわち、飛行艇の乗組員は戦果確認よりも生存帰還を優先したことにより、轟沈したホーネットの乗組員は誰も、どこにも周囲に人影がないまま(何せ、まわりはすべて大海原しかない状態である)、じわじわとサメに食われる恐怖を体験しつつ一人、また一人と力尽き、全滅したのである。ある意味、人工的な火砕流に飲み込まれ瞬時に死したヨークタウンや、土左衛門となった死体とはいえ体温低下によって意識を失った結果あまり痛みを感じずに死んだワスプなどよりも、ホーネットの乗組員はじわじわと死んでいったという意味でよほど悲惨であったと言えるかもしれない。
そして、彼ら合衆国軍太平洋艦隊はその一報を聞いて憤激したものの、彼らの鬼籍に入る命日はその憤激の原因であるワスプ、ヨークタウン、ホーネットの乗組員とさして変わらぬレベルに過ぎないことを知る由も、なかった……。
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